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文献詳細

雑誌文献

精神医学2巻8号

1960年08月発行

文献概要

研究と報告

抗抑うつ剤Nialamide(Niamide)の臨床知見

著者: 那須敏雄1 小田晋1 小林暉佳1 融道男1 丸山弘毅1 竹内勤1

所属機関: 1東京医科歯科大学精神神経医学教室

ページ範囲:P.555 - P.559

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はじめに
 うつ状態に対する薬物療法は,近年いちじるしく多彩な発展を示すRitalin,Pipradorol,Tofranil,Hämatoporphylineなどがつぎつぎに発表された。なかでも,Monoamineoxidase(MAO)阻害剤とよばれる一群の薬物は,脳内のアミン類の分解を抑制し,これによつて精神の賦活をはかり,うつ状態の改善をもたらそうとするものであつて,その有効性と作用機序とは,精神障害の病因を考えるうえからも,強くわれわれの興味をそそるものである。
 CatronについてはAginらの成績を初めとする一連の成績によつて,MAO阻害剤の臨床的有効さは,ほぼ確定された観がある。しかし,従来えられていたMAO阻害剤は,その交感神経刺激作用,および物質代謝に対する影響,とくに肝障害を発することが往々にしてあり,それが臨床的応用の妨げになつていた。かつ副作用の少いといわれるCatronでもAmphetalnine類似の精神賦活作用があるため,かえつて不安,不眠を増強する傾きのあることが拍摘されていた。
 そこでMAO阻害剤で副作用の少く,効果のあるものの中で,Nialamideが注目されていた。昨年(1959)リスボンでNiamideに関するシンポジウムが開かれ,そこでいくつかの効果が確認された。すなわち,1)あらゆる型の,種々の程度の抑うつ状態を改善する。2)知能の遅れている子供の精神活動,社会生活,情緒的不安定性を改善する。3)狭心症の発作,ならびに痛みを減ずる。3)手術不能の癌や,種々な神経痛やリウマチ性疾患の痛みをとる。精神科領域だけについてみても,抑うつ気分,神経的な不安,判断,対人関係,社会性を改善させ,またとくに食思不振によい結果をえている。分裂病に対しても,生活指導を容易にし精神的意欲を増加させることがあると報告された。さらに注目すべぎことは,精神薄弱児の行動や学校の学習態度によい変化がみられ,学友や教師に対して好ましい接触がえられるようになる。しかも注意集中力を増し,学業への興味を増し,泣き虫でなくなり,むやみに物を投げたり,ひつこみ思案であつたりすることがなくなり,したがつて学校に行くのを好むようになるという。精神薄弱児には,往々にして運動麻痺などが合併して,手足の不自由な子がいるが,この運動障害に対しても非常な改善がみられた。このような情緒性に対する効果は,さらに精神病質者の治療にも希望がもてるようになつてきたと報告された。
 一方正常人に対しては,目だつ効果はなく,ただ病的状態を調整し,正常化の方向に向かわせるのだと考えられている。MAOの活性を変えることがどのように作用して,精神的な変化を起こさせるのかについては,多くの記載がないが,この種の薬剤がほかの酵素系や,また現在知られている以外の他の酵素にも作用して,物質代謝に影響を与えるものと考えている。
 今回われわれの使用したNialamide(商品名Niamide)は,Pfeizerで合成されたMAO阻害剤であつて,毒性をできるだけきりさげることを目標にしたものであるとされている。これを台糖ファイザーから試供されたので,うつ状態を主とする精神疾患に使用して成績をえたのでその一部を報告したい。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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