文献詳細
文献概要
特集 精神鑑定
精神鑑定の経験から,他
著者: 新井尚賢1 久山照息2 桜井図南男3 佐藤時治郎4 諏訪望5 田村幸雄
所属機関: 1大橋病院 2湊川病院 3前九州大学 4弘前大学神経精神科 5埼玉医科大学神経精神科センター
ページ範囲:P.1391 - P.1402
文献購入ページに移動私たちはたまたま,2審あるいは3審で精神鑑定を命ぜられる場合に,時には遭遇することもあるが,それには種々な動機もあろう。たとえば,それまでの公判中に気づかれなかった被告人の症状が見つかったとか,拘禁などによる心理的影響から拘禁反応を起こしたのに気づいたとかいうこともあろうが,ここで困ることは,精神鑑定を命ぜられたことに対し,被告人が異常なほどに鑑定そのものに拒否的態度を示す場合があることである2)。これと関係があるが,精神鑑定を一時的に受けたものの被告人は,鑑定業務が進行するに従いその結果が予見されたりすると好訴的態度が少しずつ増強されたり,時には好訴妄想といわざるを得ないような場合がある。殊に多いのが心気的・被害的な内容である。このような場合には,そのまま鑑定自体も押し切ることができるが,あとあと好訴的態度が強く表面に残ることも少なくない。パラノイア状態とも考えられる。これに反して始めから鑑定を拒否する場合,妄想形成にふさわしい環境要因が備っていることがあり,被告人のいわゆる"人権じゅうりん"という被害意識がその中心であり,検事,裁判官,さらに弁護人にまで及ぶばかりでなく,特定の多人数の者に対しても同様である。激しい憎悪,侮辱などに終始し,他人には依然拒絶的時に攻撃的に立ち向い,そのままでは到底鑑定を受けることを拒否する。もちろん鑑定はできない。長く出廷もせず裁判がそのままで,日時が流れると,被告人はふっと鑑定に対する何らかの目的,期待される何らかの利益,漠然とした不安感などが,時によって混沌と錯綜し,何とか鑑定を受けたいという気持になることもある。心気,被害,被毒などの妄想態度などの場合は,このままの状態では公判維持ができるかどうかという鑑定事項である。被告人は検査に対する不安感ことに注射,脳波などは極端におそれている。これだけであると,鑑定人と被告人が面接場合において一応接触を保つことができるようである。もちろん身体的の検索などは最後まで拒否することもある。こうした鑑定は形をかえて,あとあとまで続くであろうが,刑が確定するまではまだまだである。
掲載誌情報