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雑誌目次

雑誌文献

精神医学20巻2号

1978年02月発行

雑誌目次

巻頭言

ベシュライベンのことなど

著者: 木村敏

ページ範囲:P.118 - P.119

 外国の論文を読んでいて,文句なしに感心することがひとつある。それは症例の態度や行動記載がいかにも精彩に富んでいて,患者がまるで眼の前にいるようにその様子をまざまざと思い浮かべられることである。生活史や家庭歴,それと患者自身が語ってくれた言葉の記載は,日本の論文でも結構詳しい。患者の体験内容を了解したり深層心理学的に解釈したりするにはそれで十分間に合う。しかし精神医学の臨床にとって一番大切なことは--精神療法にとってはもちろんのことだが,それ以外の治療にとっても,さらには診断にとってすら--そのつどそのつどの面接場面において診察者が直接に感じとる患者の全体的印像を的確につかまえておくことだと私は思っている。だから,患者の表情,態度,振舞いかた,話しぶりなどの真に迫った描写が論文に記載されているのといないのとでは,その症例のもっている現実性を再構成しうる度合いは大いに違ってくる。この点に関するかぎり,西洋人の書いたものは日本人(だれよりもまず私自身を含めて)のものとくらべて,残念ながら格段に上等である。
 私たちが学生のころ,精神科のポリクリでは患者の状態像のベシュライベンを徹底的にしぼられたものだった。患者が診察室のドアを開けて入ってくるときの様子から始まって,椅子に腰をおろす仕草,診察者に対する態度,表情,言葉使い,声の大きさや抑揚等々を,それも全部ドイツ語の形容詞を使ってことこまかに描写させられて辟易した記憶は,いまでもまだ生々しく残っている。精神科に入局してから,なんとかベシュライベンが上手になる方法はないものかと先輩に相談したら,クレペリンの臨床講義を読めといわれた。読んでみるとさすがに見事なものである。しかし最近レインが皮肉たっぷりに引用している通り,クレペリンの記載からは患者をまるで物体のように観察する冷やかな眼差しが感じられて,読んでいてあまり良い気持ではなかった。

展望

アルコール症の疾病概念をめぐって(そのⅡ)—アルコール依存の機構とアルコール症

著者: 斉藤学

ページ範囲:P.120 - P.147

I.はじめに
 嗜癖化した飲酒行動が病気とみなされ,医療的に処遇されるようになった経過,その際の疾病概念,それに対する世人の反応などを「そのⅠ」に述べた。ここでは飲酒という行動の嗜癖化そのものに焦点を当て,その過程を明らかにするような最近の知見を要約していきたいと思う。その際まず嗜癖行動一般がいかなる機序のもとに生じ,人間行動全体にどのような意味を持つかを検討し,次いで薬剤摂取の嗜癖化つまり薬物依存に共通する現象を見,最後にアルコール依存に特異的な諸問題を取り上げることにしよう。こうした構成をとることによってアルコール依存と他の嗜癖行動との比校が容易になり,その位置づけが可能になるであろう。こうした作業が終わってアルコール依存の機構と意味が明確になった後で,再びアルコール症の概念を取り上げ,両者(アルコール症とアルコール依存)の関係を検討してみるつもりである。
 嗜癖行動に関する科学は近年急速に発展しその内容は日を追って豊かになっている。何分,薬理学,行動心理学から,社会学,文化人類学に至る多岐にわたる領域にまたがる問題であり,一編の論文でその全貌を伝えることは難かしいが,できる限り網羅的に輪郭をたどりながら必須と思われる諸知見の集録に努めよう。

研究と報告

緊張病性昏迷の脳波

著者: 山口直彦 ,   田中勇三 ,   大西道生

ページ範囲:P.149 - P.158

I.はじめに
 昏迷はJaspers11)によれば,「意識は覚醒していて,運動制止の状態で一言も発せず,心的現象の了解可能な徴候を示すことなく,自己との関係を持とうとするすべての試みに向かって無反応にとどまっている状態」である。このように昏迷は一つの外に表われた状態像として定義される。もちろん,その時の内的体験は抑制,制止,阻害,困惑,幻覚妄想などいろいろである。疾病学的にみても,この状態は精神分裂病だけではなく,うつ病,心因反応,ヒステリー,てんかん,器質性精神障害などにもよくみられ,心的機能の解体がある水準にまで達すると生じてくる非特異的な生体の反応と考えることができる。一口に昏迷といっても,筋緊張の面からいえば弛緩性昏迷と緊張性昏迷,その程度からいえば完全な昏迷から亜昏迷,精神病理学的には幻覚妄想が豊富な例から体験の乏しい例まで,種々の段階が考えられる。精神分裂病圏内では,昏迷は運動性亢奮とともに緊張病症状群の中に入れられ,定型的分裂病よりもむしろ非定型群によくみられる症状である。緊張病症状の場合,多動,無動などの運動性の症状,自律神経症状およびその身体随伴症状,経過の挿間性または周期性などの特徴から,その基盤に生物学的な機能変化が予想されるのであって,Gjessing, R. 7)の周期性緊張病に関する研究をはじめとする多くの生物学的研究はこれを裏づけるものである。その中には脳波学的研究も含まれるのであって,われわれも最近,緊張病性昏迷をきたした10症例について,その脳波像の変化を詳細に検討し,新しい知見を得たので報告する。

音刺激負荷による実験的睡眠障害

著者: 中川泰彬

ページ範囲:P.159 - P.169

I.はじめに
 睡眠障害は精神科臨床のみならず,一般臨床においてもしばしば遭遇する症状である。
 睡眠障害の臨床的,精神生理学的諸研究はこれまで幅広く包括的に行なわれてきたが,主として睡眠に対する自覚的体験と神経生理学的諸現象,とくに睡眠脳波との相関において検討を進められてきている。
 睡眠障害が著明に認められる精神分裂症,うつ病などにおいては睡眠障害の原因が精神病理学的あるいは神経生理学的に想定されうるが,その因果関係は明白ではない。一方原因の明確な睡眠障害も存在する。これらは正常者にある種の薬物投与時の睡眠障害,日常の正常範囲外の強度の刺激,たとえば騒音下での睡眠障害などである。このように睡眠障害も一様に考えられない。睡眠障害の原因と考えられる因子も質的,量的に異なっていることが多く,その障害時の生理学的現象も多様であると想定される。正常者に強度の外的刺激を与えることによって睡眠障害を実験的に作り出し,その神経生理学的な検討を行なうことは睡眠障害の生物学的側面を知ることであり,また複雑な睡眠障害の解明に一つの手がかりを与えるものとして有意義と考える。

ミオクロニーを伴ったIctal Stuporの1例

著者: 加藤秀明 ,   伊藤逸郎 ,   森俊憲 ,   吉田弘道

ページ範囲:P.171 - P.177

I.はじめに
 Lennox8)は1945年,それまで主として大発作の重積状態に使用されていたstatus epilepticusに対し,小発作の重積状態にpetit mal statusの呼称を初めて使用した。以後種々の名称で報告されてきたが,Niedermeyerら10)(1965)は小発作重積症とするには非定型なものが多いとし,ictal(spike-wave)stuporの名称を提唱した。最近はictal stuporとして報告されることが多いようであるが,これもstuporという語義の多様さやあいまいさなどで必ずしも全面的に認められたものではない。なお,細川6)はictal stuporをpetit mal status properとspike-wave status syndromeに分けることができるとし,さらにこれに精神運動発作重積症を含める考え9)もある。これまでに多くの報告や総説があるが,臨床および脳波的にきわめて多岐にわたっており,さらに症例の蓄積と整理が必要と思われる。
 われわれは最近主として前胸部,上腕部に限局したミオクロニーを伴ったictal stuporの1例を経験した。これまでに報告されたictal stuporのなかにはミオクロニーを伴ったものはほとんどないといってよく,また病態生理を考えるうえでも興味ある症例と考えられる。本稿において,本症例のictal stuporにおける位置づけと病態生理について若干の考察をしたので,その結果を報告する。

入浴てんかんの3症例

著者: 大沼悌一 ,   兼子直 ,   福島裕 ,   佐藤時治郎

ページ範囲:P.179 - P.183

I.はじめに
 入浴によって誘発される反射てんかんは,きわめて稀であり,外国においては,Allen1),Mofenson2),Keipert3),Mani4),Stensman5)らの報告があるが,本邦においては,1972年の著者らの1例報告6)があるのみである。最近,われわれは,さらに同様の入浴てんかんの2症例を経験したので,前回報告した第1例のその後の経過を含めて報告する。

拒食・やせと分裂病様状態を呈する小児の1例について—Anorexia Nervosaと精神分裂病との関係

著者: 友成久雄 ,   早稲田芳男

ページ範囲:P.185 - P.192

I.はじめに
 神経性無食欲症については古くより多くの症例報告や総説がなされており,その発症には特異な精神力動が認められるとされている。しかし,本症には広汎な例が含まれ,また小児科や内科の領域でも多数例が扱われており,その成因についてはまだ十分解明されているとはいえない。
 ところで,著者らは,濃厚な精神障害の遺伝負因をもち,神経性無食欲症(以下ANと略記する)の形で発病して,次第に分裂病様状態を呈するようになった10歳の女児を経験した。児童の精神障害については一般に多軸的診断がなされているようであるが,本例については種々検討の結果,その基本的障害は分裂病であると考えられた。したがって,本例は症候群としてのANを伴う例であるが,しかしその発症には種々の心理的・環境的問題が関与していると思われ,興味ある症例と考えられるので報告し,二,三の点について考察を加えたいと思う。

古典紹介

—C. Wernicke—Acute Hallucinose

著者: 影山任佐 ,   中田修

ページ範囲:P.193 - P.200

皆さん!
 私が本日皆さんに供覧する患者は,32歳の商人K. であります。ご覧のように,栄養のよい,一見全く分別のある(besonnen)男で,この教室(Klinik)にやって来たいきさつを,自分でちゃんと説明できます。彼は5日前の晩,想像上の迫害者(Verfolger)訳注2)に対する保護を求めて,自分でこの病院(Anstalt)にやって来ました。彼はこの市の反対のはずれに住み,居酒屋を併設した食料品店の主人であります。彼の家の向かいに1人の時計屋がいますが,その者が彼に対する追及の張本人だというのです。患者がそう考えるのは,時計屋が少し前に,患者が店員を解雇したことに文句を言ったことがあり,今度,患者を迫害する一味(Bande)全体の先頭に立って叫んでいたからだというわけです。夕方,患者が会計をするために自室に静かに坐っていますと,突然,「さあこれから,あいつ(er)は計算するぞ」という一味の声が聞こえ,その後に,総計はいくらか,彼がどういう帳簿を手にとるか,彼がなにを書くか,を予言する声も聞こえました。それで彼は,おそらく反射鏡のようなもので,自分の一挙手一投足が見られ,自分の考えが知られているのだ,と推論しました。というのも,窓の位置からするとそんなことは絶対に不可能でありますのに,彼は反射光に気づいたとか,迫害者の姿を見たと,信じこんでいます。また彼は,自分に迫害者の声が聞こえるのは,自分にわからないようにしかけられた電話のせいだろうと考えています。そのうえ,とても下品な悪口も聞こえたので,彼は安心させてもらいたいと思って,通りを警備している警察官をさがしに外に出ました。しかし,近くに警察官が見あたらないので,ビール店に入り,夕食をとりました。それから店を出ましたが,店を出たところで警察官に出会いました。彼は警察官に事情を話しました。警察官はわざわざ彼の家まで同行してあたりを見まわしました。そして警察官は,自分には誰も見えないし,悪口も聞こえないと言い,帰っておやすみなさいと彼にすすめました。警察官が一緒にいるときは,実際にすべては静かでした。彼は家に帰ってベッドに横になりましたが,間もなく,例の動き(Spiel)が始まるのに気がつきました。今度は,自分の考えが復唱されるのが聞こえたり,考えが彼に吹きこまれたりしました。しかも今度は,警察(Commissarius)が彼から馬鹿げた内容の考えを「引き出し」,それを根拠に彼を告発して処罰させようとしているように思われました。電話線が庭のほうに張られていて,それを使って連中(Leute)が彼の考えを盗聴しているように思われました。彼は,ベッドに寝ているときに,自分の顔が光に照らされたように感じました。こういうことがあったり,下品な悪口が聞こえたり,たとえば,「やつ(der Kerl)訳注3)は夕食を食べたばかりだが,すぐに処刑されるぞ」とか,「家の外には,あいつを石で打ち殺す連中が張り込んでいるぞ」というような,恐ろしい言葉が聞こえたりしましたので,彼はひどく不安になり,保護を求めるために,立ち上がりました。通りでは,彼はもしもしと呼びかけられたり,誰もが彼を知っているようであったり,すべてのものが彼の後をつけ,後からこう叫んでいました。「いま,あいつがやって来た。あいつはそこにいるぞ。乞食!長靴みがき!オーデル河にあいつをほうりこめ!」。彼は不安にかられて,あてもなく通りをうろつきましたが,いつも沢山の人に駆りたてられ,追跡され,そして最後に,息をきらし,汗びっしょりになって,私たちの教室の近くにあるビール店にたどりつきました。その店で彼は火酒(Schnaps)を1杯注文し,首を吊るための紐はないかと言いました。そういうことで,彼は病人と認められ,私たちの教室に行くように教えられました。この病院での第1夜の大部分を,彼は眠らずに過ごしたということでした。彼は自分の居場所をよく心得ており,いくぶん安心したようでしたが,相変わらず,外にいる大勢の連中が,彼をオーデル河に引っぱって行ってほうり込めと叫んでいるのが,彼に聞こえていました。1度だけでしたが,彼は3頭の象が自分の部屋に入って来たように思ったことがありました。これはおそらく,彼の妄覚にちがいありません。散剤(フェナセチン,2.0g)を投与したせいか,彼は眠れるようになりました。患者は,ここ,教室では,彼にとっていかがわしいことは起こるはずがないことをよく知っているようです。しかし彼は,連中が迎えに来たら,病院では彼を連中に引き渡すだろうと考えています。質問に対して患者は,切迫した運命に対する不安から免れるために,いまでも自殺したいのはやまやまだと答えます。患者は事業上の事柄についてははっきりと説明し,「最後の手配」を済ませたいと望み,連中のどんな要求にも「無抵抗に従い」たいと述べています。不安が全身を占拠していて,ときたま心悸亢進と心窩部圧迫がそれに加わる,と言います。彼は,不安は持続的に聞こえる声のせいだと言います。彼は声の内容を言葉通りにこう述べます。「後生だから。処刑しないで。あれは善人だ,屑っかすだ,いまあいつが笑い,医者が書いている。(病歴の記載に口出しして)なんでもかでも書きつけるなんて,とんでもない馬鹿げたことだ。あれは詐病をやっているんだ。あいつは気違いかもしれないが,詐病もやっているんだ。こんな詐病者だのにひとはなんと思っているんだろう? K. は詐病をやっているんだ。K. よ,おまえは聞こえないのか。お前は詐病をやっているんだ。なんでもかでも書きとるなんて,一体どういうわけなんだ。医者はお人好しだ。医者は馬鹿だ。医者はのろまだ」。医師が患者に「外で誰か悪口を言っていないか注意してごらん」と言うと,患者はその通りの言葉が復唱されるのを聞きました。同じようにしばしば,彼に向けられた質問や,彼自身の考えが,連中によって復唱されました。医師たちについてや,彼から全く遠く離れている,皇帝などについての悪評が,入院当初の数日間は,彼の「頭のなかにふきこまれ」ましたが,後には彼はそれらと同じ内容の声を聞きました。ここに来る途中で彼が聞いた,悪口や下品な話し声は,あるときはたしかに1人の声として聞こえたと言いますし,あるときは指揮者の指揮にしたがっているように合唱する声として聞こえたと言います。合唱でこう叫んでいたと言います。「さあこれから,あいつは市の外濠に行くぞ」。しかしそのとき彼はこう考えました。「いや,俺は断じて行かないぞ」。彼は皇帝の急報が,「8日以内に首を落とすべし」と伝えているのを聞き,伝令がその急報を検察官に手渡しているのを見ました。彼は二,三度,処刑の鐘がなりひびくのを聞きましたが,そのひびきはあたかも彼の切迫した死を告げているようでありました。

解説

—C. ヴェルニッケ 著—急性幻覚症

著者: 中田修

ページ範囲:P.200 - P.202

 ここに訳出したのは,Carl WernickeのGrundri β der Psychiatrie(1900)のなかの一つの講義(第25講)である。これは急性幻覚症(akute Halluzinose)についての臨床講義の記録であるが,アルコール幻覚症の原典であると言ってよい。
 はじめに筆者がこの論述の訳を「精神医学」誌の古典紹介の一つとして選んだ経緯を述べたい。個人的なことを述べて申し訳ないがご容赦いただきたい。私はアルコール精神病については,そのもっとも代表的な振戦せん妄の症例を,ずっと前に観察する機会があった。すなわち,私が精神医学を専攻してまだ日が浅いころに振戦せん妄の症例を主治医として受け持ったことがあった。また,それよりも前に,四エチル鉛中毒と進行麻痺が合併した症例で,遷延性せん妄の病像をつぶさに観察する機会があった。四エチル鉛中毒については現東邦大教授新井尚賢氏と共同で昭和21年に学会で報告した。ところがアルコール精神病のもう一つの代表でもあるアルコール幻覚症については,その症例に遭遇する機会になかなか恵まれなかった。松沢病院に数年間勤務していたが,同病院に長期に入院している精神分裂病の患者の1人に,アルコール幻覚症ではないかという意見も出されていたが,当時の病像からその例の急性期の状態に深く立ち入る興味を覚えなかった。しかし,それからずっと後になって,すなわち昭和44年に,偶然にもアルコール幻覚症の1例の精神鑑定をする機会に恵まれた。私はこの症例に強い関心を覚え,アルコール幻覚症と犯罪という視点で内外の文献を渉猟した。ところが,アルコール幻覚症の犯罪についての報告が症例報告としても,わが国にはほとんど全くないことを発見し,同年,「アルコール幻覚症による殺人の1例」と題する論文を発表した(共著者:永江三郎,木戸又三;犯罪誌,35;188,,1969)。

動き

アルコールおよび薬物依存に関する国際シンポジウムに出席して

著者: 加藤伸勝

ページ範囲:P.203 - P.206

 昭和52年8月21日から26日の6日間,東京および京都でアルコールおよび薬物依存に関する国際シンポジウムが開催された。本シンポジウムはICAA(International Council on Alcohol and Addictions)が毎年行なっているScientific meetingの一つであるが,それを日本アルコール医学会が主催したものである。ICAAは医学者のみならず,社会福祉関係者等も参加している団体であるが,このシンポジウムは医学者を主体とする学術集会であるので,参加者の数は自ら限定された。しかし,内外のアルコールおよび薬物依存に関する代表的研究者はほとんど網羅されていたといっても過言ではない。ただし,同じ時期にカナダで世界精神衛生大会が開催されたため,精神医学関係の学者の参加が少なかったのがややさびしかった。それでも海外150,国内500の参加者があった。
 東京の会場は高輪プリンスホテルの大小会議場が使われた。8月21日の開会式典は,三笠宮・同妃殿下台臨のもとに厳粛に行なわれ,次いで,小片重男(京都府立医科大学名誉教授)会長座長の下にJ. H. Mendelsonによる"Recent Advancesin Alcoholism and Drug Abuse Research"と題する記念講演で幕が開かれた。同博士の講演は一般的なもので,博士自身のすぐれた研究の紹介が乏しかった点が残念であったが,セレモニーの一幕と考えれば目的は達せられたと思われる。

資料

精神医学領域における雑誌文献の探索

著者: 佐藤和貴

ページ範囲:P.207 - P.212

I.はじめに
 研究室や図書館,あるいは自宅で,毎日,多くの雑誌を見る機会があり,数多くの論文にめぐりあう。このなかから,気のついた文献をメモしたり,自分の研究テーマに関連する論文をカードに書きぬいたり,そんな作業をよくするものである。地味な作業をつみかさねていくうちに,カードがたまったり,コピーした文献が積まれたりする。そこで,同じ種類のものをまとめたり,一定の区分け作業をして,個人ファイルを作る。寄稿を依頼されたり,必要が生じたりしたときには,このファイルをあたることにしておく。
 多かれ少なかれ,研究にたずさわっている人達は,このようなファイルを持っていることだろう。
 このような個人ファイルとはまったく別に,公けの情報ファイルとも言うべきものが存在している。ここで公けの情報ファイルというのは,専門の機関が多数の雑誌に目を通し,著者名,論題名などの必要事項の書きぬきを行ない,これらのデータを主題別にまとめて,ある場合には論文内容の要約をつけて,定期的に出版している資料のことである。
 図書館では,これらの資料を索引誌,内容の要約のついたものを抄録誌と呼んで,ふつうの雑誌とは別に扱い,利用しやすい場所にまとめておかれていろ。
 個人ファイルには個人の行届いたシステムがあり,よさもあるが,個人で目の届かない範囲をカバーする索引誌や抄録誌にもよさがある。両者の連携を考えることにより,文献ファイルの量も増加し,文献探索の効率も向上することであろう。
 そこで,以下に,具体的に資料名をあげて,利用方法について述べていくことにする。

アフリカの精神医療事情

著者: 稲村博

ページ範囲:P.213 - P.223

Ⅰ.まえがき
 機会を得てアフリカを訪れ,医学教育協力のためしばらく滞在して,大学教育や医療の一端にふれることができた。精神医療事情についても,時間のゆるす限り視察をし,また直接診療にも協力した。アフリカは,わが国にとってまだまだ遠い存在であり,あらゆる意味で実情の把握からは遠い。いわんや精神医療事情となると,全くといっていいほど知られていないといえる。
 今回の訪問は,東アフリカのケニアから始まり,西アフリカのナイジェリア,ベニン,トーゴ,ガーナなどであった。広大な大陸からみると一部に過ぎないが,いずれも東西アフリカを代表する諸国であり,ことにケニア,ナイジェリア,ガーナはブラック・アフリカ中最も発展した大学教育や医療を行なっているとみられるから,ある程度アフリカを知るよすがとなろう。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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