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文献概要
研究と報告
40歳台の妄想・幻覚精神病
著者: 林三郎1 上田宣子1
所属機関: 1兵庫医科大学精神神経科
ページ範囲:P.247 - P.255
文献購入ページに移動I.はじめに
今日の精神医学において,精神分裂病の疾病概念の混乱の中で,概念の基本的な修正が多くの人達によって論じられている。
精神分裂病と呼ばれる疾患群の本質についての研究・治療は現代の最大の課題であるが,内因性精神病のより細分化された疾患概念を詳細に記載していくことによって,新しい疾患概念の把握の可能性を示そうとする方向にKretschmer18),Pauleikhoff21),Weitbrecht28),藤縄9)らが存在する。他方,新たな「単一精神病」概念において,一つの可能性を見出そうとする方向にConrad4),Ey5,6),Janzarik12),千谷25)らが挙げられる。さらにこれと関連して,向精神薬物療法が,診断を異とする各種の精神病でも類似の病像を示すものに同じく有効であるという治験から,Rennert23),Kühne19)らの精神病の普遍的病因論がある。
われわれは上述の状況をふまえて,40歳台の妄想・幻覚精神病の数例について報告するが,特に取り上げたいのはこれらの症例において,共通の特徴として,初発年齢が40歳台であり,そのすべてが男性であり,性格と状況との関連が明確であり,かつ向精神薬物療法で簡単に治癒したという事実が認められたなどの点である。
内因性精神病の発病要因として年代と性別を重視する観点は別に目新しいものではない。すでに内因性精神病の好発年齢,妄想主題の年齢や性別との関係については多くの研究がある。たとえばKretschmerの「敏感性関係妄想」,Pauleikhoff20)の「30歳台の妄想・幻覚精神病」などが有名であるが,Friedmann8)の「軽パラノイア」,Gaupp10)の「頓挫パラノイア」,さらにJanzarik13)の「対人接触欠損のパラノイド」などの研究があり,わが国では藤縄の「20歳台後半における一過性妄想精神病」,植元26)の「思春期妄想症」などの論文がある。藤縄は,精神病と年代の問題について,生理学的,心理学的な年代の特性だけでなく,生活史的,性格的ならびにその年代での対人的布置などに特徴がみられ,その年代における挫折が特有の症状群,疾患類型を形成する可能性を示すと述べている。つまりある年齢層において,その年代と性別は固有の問題性をはらんでいるものであり,歴史的,社会的背景によって影響されるものではあるが,男女のその年代の固有の危機をもはらんでいるものである。この問題については児童精神医学,思春期および老年期の精神医学において研究されている。しかし中年期(40〜55歳,van den Berg27))について,教科書的には遅発性精神分裂病(M. Bleuler1)),妄想型精神分裂病,嫉妬妄想を主とした妄想発展,更年期精神病などが挙げられているが,中年期の固有の問題性,危機あるいはその年代と性別のもつ固有の意識構造と精神病とのかかわりについての研究は少ない。
われわれは上述の如く,年代と性別-生活史-性格-発病状況-病像-治療状況-経過から,予後良好な40歳台の妄想・幻覚精神病の一群を見出すことができたと思うので症例を報告し,年代と性別に固有の意識構造がいかに精神病に関与しているかを考察する。
今日の精神医学において,精神分裂病の疾病概念の混乱の中で,概念の基本的な修正が多くの人達によって論じられている。
精神分裂病と呼ばれる疾患群の本質についての研究・治療は現代の最大の課題であるが,内因性精神病のより細分化された疾患概念を詳細に記載していくことによって,新しい疾患概念の把握の可能性を示そうとする方向にKretschmer18),Pauleikhoff21),Weitbrecht28),藤縄9)らが存在する。他方,新たな「単一精神病」概念において,一つの可能性を見出そうとする方向にConrad4),Ey5,6),Janzarik12),千谷25)らが挙げられる。さらにこれと関連して,向精神薬物療法が,診断を異とする各種の精神病でも類似の病像を示すものに同じく有効であるという治験から,Rennert23),Kühne19)らの精神病の普遍的病因論がある。
われわれは上述の状況をふまえて,40歳台の妄想・幻覚精神病の数例について報告するが,特に取り上げたいのはこれらの症例において,共通の特徴として,初発年齢が40歳台であり,そのすべてが男性であり,性格と状況との関連が明確であり,かつ向精神薬物療法で簡単に治癒したという事実が認められたなどの点である。
内因性精神病の発病要因として年代と性別を重視する観点は別に目新しいものではない。すでに内因性精神病の好発年齢,妄想主題の年齢や性別との関係については多くの研究がある。たとえばKretschmerの「敏感性関係妄想」,Pauleikhoff20)の「30歳台の妄想・幻覚精神病」などが有名であるが,Friedmann8)の「軽パラノイア」,Gaupp10)の「頓挫パラノイア」,さらにJanzarik13)の「対人接触欠損のパラノイド」などの研究があり,わが国では藤縄の「20歳台後半における一過性妄想精神病」,植元26)の「思春期妄想症」などの論文がある。藤縄は,精神病と年代の問題について,生理学的,心理学的な年代の特性だけでなく,生活史的,性格的ならびにその年代での対人的布置などに特徴がみられ,その年代における挫折が特有の症状群,疾患類型を形成する可能性を示すと述べている。つまりある年齢層において,その年代と性別は固有の問題性をはらんでいるものであり,歴史的,社会的背景によって影響されるものではあるが,男女のその年代の固有の危機をもはらんでいるものである。この問題については児童精神医学,思春期および老年期の精神医学において研究されている。しかし中年期(40〜55歳,van den Berg27))について,教科書的には遅発性精神分裂病(M. Bleuler1)),妄想型精神分裂病,嫉妬妄想を主とした妄想発展,更年期精神病などが挙げられているが,中年期の固有の問題性,危機あるいはその年代と性別のもつ固有の意識構造と精神病とのかかわりについての研究は少ない。
われわれは上述の如く,年代と性別-生活史-性格-発病状況-病像-治療状況-経過から,予後良好な40歳台の妄想・幻覚精神病の一群を見出すことができたと思うので症例を報告し,年代と性別に固有の意識構造がいかに精神病に関与しているかを考察する。
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