文献詳細
研究と報告
文献概要
I.はじめに
従来より,てんかん患者に往々に分裂病様状態が出現することはよく知られており,症状論的にも,病因論的にも,臨床脳波学的研究成果をふまえて種々の検討がなされている。
しかしこのような立場はどちらかというとその脳生理学的発生機序に関心が注がれるあまり,その精神症状に関しても,その病的過程から説明されがちであり,その症状を有する「てんかん者」の存在様式自体が問題とされることは少なかったようである。
だがこの問題はその存在様式を単に現象学的,人間学的に了解するということにとどまらず,Tellenbach以来,精神症状の治療の困難性が指摘され,今なおいわゆるTherapieresistenz3)が問題とされる以上,病者に治療的接近を試みる際に,大きな示唆を与えてくれるものと思われる。
われわれは,そのような頑固な治療抵抗性を示す,25歳のてんかん性精神病患者の精神症状発現以来,約6年間にわたる臨床的観察を通じて,種種の抗けいれん剤,抗精神薬の投与によっても,あるいはその一時的中断によるけいれん発作の発現によっても容易に精神症状の改善が見られなかったにもかかわらず,そのような状況のもとで,治療者と共にバレーボールに参加するという共同行為を通じて,治療の転換がはかられ,その後寛解状態に至った症例の報告を通して,病者の住んでいる世界を現象学的に明らかにし,その環境世界とのかかわり合いの身体性の地平での問題点を示唆しながら,治療的働きかけの側面についても言及したい。
従来より,てんかん患者に往々に分裂病様状態が出現することはよく知られており,症状論的にも,病因論的にも,臨床脳波学的研究成果をふまえて種々の検討がなされている。
しかしこのような立場はどちらかというとその脳生理学的発生機序に関心が注がれるあまり,その精神症状に関しても,その病的過程から説明されがちであり,その症状を有する「てんかん者」の存在様式自体が問題とされることは少なかったようである。
だがこの問題はその存在様式を単に現象学的,人間学的に了解するということにとどまらず,Tellenbach以来,精神症状の治療の困難性が指摘され,今なおいわゆるTherapieresistenz3)が問題とされる以上,病者に治療的接近を試みる際に,大きな示唆を与えてくれるものと思われる。
われわれは,そのような頑固な治療抵抗性を示す,25歳のてんかん性精神病患者の精神症状発現以来,約6年間にわたる臨床的観察を通じて,種種の抗けいれん剤,抗精神薬の投与によっても,あるいはその一時的中断によるけいれん発作の発現によっても容易に精神症状の改善が見られなかったにもかかわらず,そのような状況のもとで,治療者と共にバレーボールに参加するという共同行為を通じて,治療の転換がはかられ,その後寛解状態に至った症例の報告を通して,病者の住んでいる世界を現象学的に明らかにし,その環境世界とのかかわり合いの身体性の地平での問題点を示唆しながら,治療的働きかけの側面についても言及したい。
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