文献詳細
文献概要
研究と報告
覚醒水準の変動に伴う閉瞼時眼球運動の性質
著者: 一瀬邦弘1 小島卓也1 安藤晴延1 島薗安雄1 安藤克巳2
所属機関: 1東京医科歯科大学神経精神医学教室 2金沢医科大学神経精神医学教室
ページ範囲:P.537 - P.544
文献購入ページに移動近年神経学の進歩に伴って前庭系や脳幹の障害の局在と眼振の関係が詳しく研究され,臨床診断上も有用な所見が得られている。
一方,AserinskyとKleitman1)の逆説睡眠の発見以来,眼球運動の測定は,睡眠の研究の分野でも欠かすことのできないものとなっており,現象としての眼球運動の特殊性が認識されるようになった。そしてこれらに伴って覚醒時の眼球運動についても注目されてきており,心理学的な面からはSingerとAntrobus2)はimageを抑えようとすることと,眼球運動の速い動きを対応させ,AmadeoとShagass3)は速い眼球運動の増加を注意の集中に伴う非特異的な現象と考えた。
一方,島薗らは,実験場面や刺激に対する反応などから,被験者が心的緊張を示す時には速い眼球運動が多く出現し,くつろいだ状態では振幅の小さい遅い動き,そして睡気が生じると大きく遅い眼球運動が見られると述べている。そして慢性分裂痛患者やうつ病者では小さくて速い動きが頻繁に出現するが,刺激を与えた場合の反応の仕方は両者で異なることが明らかにされている4〜12)。
その他,幻覚惹起物質や,向精神薬の投与時の閉瞼時眼球運動についても報告がある13〜15)。
このように閉瞼時水平方向の自発性眼球運動は,心理学的・生理学的な変化を微妙に反映していると考えられる。しかし脳波パターンと関連させながら眼球運動の変化を詳しく調べた報告はみられない。
そこで著者らは高い覚醒水準ないしは緊張を示す時期から自然に入眠に至る過程において,脳波と閉瞼時の自発性眼球運動の変動の間にどのような関係がみられるかを検討しようと試みた。そこで健康成人を対象とし,脳波パターンを指標として,緊張の状態から,はっきりした覚醒→くつろいだ状態→まどろみの状態へと推移する経過について,意識水準の段階化を行い,その段階と眼球運動の関係を詳細に比較検討した。
掲載誌情報