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研究と報告
少量の再注射で急性幻覚妄想状態の再現をみた慢性覚醒剤中毒の7症例
著者: 佐藤光源1
所属機関: 1岡山大学医学部神経精神医学教室
ページ範囲:P.643 - P.648
文献購入ページに移動Ⅰ.緒言
覚醒剤の慢性使用が使用開始時にはみられなかった異常な精神症状を引き起こし,現象学的に精神分裂病,とくにその幻覚妄想状態と同様の状態をもたらせることは周知の事実である。このため,慢性覚醒剤中毒は精神分裂病の病因を追求する好適な研究モデルとして取り上げられ2,5,10,17,21,22),これまでにも種々の方法を用いた研究が行なわれてきた。とくに,分裂病の病因としてドーパミン過剰仮説1,7)が脚光をあびている現在,その研究モデルとしての価値は一層大きなものになっている。
本邦における慢性メトアンフェタミン中毒の流行は第二次大戦の敗戦を契機に始まり,大流行のあと1955年にはほぼ制圧されている。しかし,その後も根強く存続し,最近になって再び増加して戦後第2のピークをなしつつあるといわれている。慢性覚醒剤中毒の臨床的研究はこれまでにも多くみられるが,1950年代の広範な資料をもとにした立津らの詳細な記述19)で代表され,最近遭遇する慢性覚醒剤中毒者の病像の理解に役立っている。しかしながら,その著書のなかで提起された問題点,つまり,排泄のはやい覚醒剤がなぜ脳に永続する機能変化を残すのか,再注射なしにどうして再燃して内因性精神病様状態を来すのかという疑問は,その後の多くの研究にもかかわらず十分明確にされてはいない。
覚醒剤の慢性使用が使用開始時にはみられなかった異常な精神症状を引き起こし,現象学的に精神分裂病,とくにその幻覚妄想状態と同様の状態をもたらせることは周知の事実である。このため,慢性覚醒剤中毒は精神分裂病の病因を追求する好適な研究モデルとして取り上げられ2,5,10,17,21,22),これまでにも種々の方法を用いた研究が行なわれてきた。とくに,分裂病の病因としてドーパミン過剰仮説1,7)が脚光をあびている現在,その研究モデルとしての価値は一層大きなものになっている。
本邦における慢性メトアンフェタミン中毒の流行は第二次大戦の敗戦を契機に始まり,大流行のあと1955年にはほぼ制圧されている。しかし,その後も根強く存続し,最近になって再び増加して戦後第2のピークをなしつつあるといわれている。慢性覚醒剤中毒の臨床的研究はこれまでにも多くみられるが,1950年代の広範な資料をもとにした立津らの詳細な記述19)で代表され,最近遭遇する慢性覚醒剤中毒者の病像の理解に役立っている。しかしながら,その著書のなかで提起された問題点,つまり,排泄のはやい覚醒剤がなぜ脳に永続する機能変化を残すのか,再注射なしにどうして再燃して内因性精神病様状態を来すのかという疑問は,その後の多くの研究にもかかわらず十分明確にされてはいない。
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