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雑誌目次

雑誌文献

精神医学20巻8号

1978年08月発行

雑誌目次

巻頭言

精神障害者の休・復職判定について

著者: 藤田繁雄

ページ範囲:P.810 - P.811

 紙面の都合で精神分裂病(以下分裂病と略)者の復職判定を中心に述べる。
 私の理解するところでは,分裂病に関する疾病概念は医学的には現在まだ確立途上にあり,「分裂病の“治癒”とは何か」についてもまだ最終的な結論は出ていないし(精神医学,7巻3号),またその予後観についても,古典的・固定的なものに対し,治療による予後の変化が論じられており,新しい予後観とも言うべきものが現われつつあるのが,今日のわが国の精神医学の状況であると思う。従ってタイトルについて論ずることはある意味では無理なことと思う。しかし精神科医である以上さけて通れない面があるのが現実であるので,問題提起の意味で,某企業体での私の十数年間の経験の一部を述べ,ご批判を請う次第である。

展望

薬物依存をめぐって—第1部

著者: 加藤信 ,   広瀬徹也

ページ範囲:P.812 - P.828

I.はじめに
 1963年,WHOによって薬物依存という用語が提唱されて15年を経た今日,薬物依存の概念はわが国でも広く理解されてきたようにみえる。ここ数年の間に,薬物依存に関する国際的なシンポジウムがいくつかわが国で開催された脚註1)ことは,現実的要請もさることながら,この問題に対する関心の高まりによるものと考えられる。
 薬物依存の概念はきわめて記述的(descriptive)であるため,臨床医にとって必ずしも有用な概念とはいい難い面がある。また,臨床医が実際の診療場面で直面するのは,薬物依存という状態(state)よりも,その状態から派生した種々の問題である場合が多い。中毒や嗜癖という言葉が未だに捨て去られていないのは,このような事情によると考えられる。しかし,薬物依存概念によって個々の薬物に伴う問題が明確にされてきたことを忘れてはならないであろう。
 本展望では,薬物依存とそれに伴う臨床的な問題との相互関係を明らかにすることを目的として,最近の業績を紹介する。

研究と報告

反応性躁病について

著者: 福間悦夫

ページ範囲:P.829 - P.833

I.はじめに
 反応性に起こるうつ状態は,臨床上しばしば経験されるが,反応性に起こる躁状態は稀である。すでにSchneider, K. 3)は,反応性躁病"reaktive Manie"について述べているが,反応性躁病は臨床的な意味をもたない——ともいっている。しかし,反応性に起こったと考えられる症例を観察することは,現在未だ不十分である躁病の状況論に寄与するところ少なくないものと思われる。
 ここでは,自験例3例を中心に,その精神病理を検討してみたい。

非定型精神病者と覚醒てんかん者の精神病理学的比較(第1報)

著者: 新宮一成 ,   河合逸雄

ページ範囲:P.835 - P.842

I.はじめに
 てんかん患者は従来いわゆるてんかん性性格を示しやすいと考えられてきたが,むしろてんかん者の中には,対照的な2つの性格類型があるとJanz1)は考えている。すなわち,彼のいう睡眠型のてんかん者は,従来から言われてきたてんかん性性格(迂遠性,粘着性等)を示すが,覚醒型のてんかん者は,これとはかなり違った性格(外向的,小児的,不安定で影響を受けやすいこと等)を示すというのである。いわゆるてんかん性性格は,執着性格に相通ずるところがあるのではないかと考えられ,大熊ら2,3)は,心理テストの成績を中心に,両者を比較検討している。一方,覚醒てんかん者の性格は,かつて河合4)によって「受身の外向性」として特徴づけられたが,こちらのほうは,いわゆるヒステリー性性格との類似がみられるのではないかと考えられる。ヒステリーとてんかんとの関連領域については,これまで症候論的あるいは脳波学的に,数々の興味ある検討がなされてきた5,6)。またここで問題にしようとしている非定型精神病においても,主として脳波学的な見地から,てんかん性の要素について検討が行なわれてきたし7〜9),さらに,非定型精神病者の病像は,しばしばヒステリー的色彩を帯びてくることが観察される10)。特に近年ヒステリーという診断名が用いにくくなるに従い,われわれは「二重意識」や,転換症状とも体感幻覚ともつかぬ症状を示す急性の精神病を,ヒステリーと呼ばず非定型精神病の内に入れる傾向にある。これらの点から,ヒステリーを介して,河合11)の指摘するように,非定型精神病と覚醒てんかんとは,互いに密接な関係を保っているのではないかと推察される。ここではいわゆるヒステリー性性格を,非定型精神病者および覚醒てんかん者の性格の尖鋭化として捉えながら,両者の人間像を考えてゆこうと思う。

山口県下I島における精神分裂病者の精神医学的,社会医学的調査

著者: 柴田洋子 ,   金子耕三 ,   加藤能男 ,   青木勇人 ,   尾作克彦 ,   松本誓子 ,   加藤佑子 ,   原田弘二 ,   村田穰也

ページ範囲:P.843 - P.852

Ⅰ.緒言
 精神分裂病の地域的発現頻度,血族結婚と関連した遺伝生物学的見地からの研究,また地域社会における生活状況などに関する精神医学的研究は,特定地域の一斉調査によって古くから行なわれている。著名なものとしてはBrugger8),Strömgren(1928年),そしてわが国では内村,秋元ら1,7,20)のものなどがある。
 当教室においても,昭和31年以来,埼玉県下の2地区3),茨城県U島4),千葉県下の2地区5),八丈島2),山口県Y島6,18)などにおいて精神医学的調査を行ない,その結果を報告してきた。今回は,前記Y島と僅か10数kmの近距離の同一洋上にあり,共に離島で環境,風土が類似しているにもかかわらず,精神医学的見地から差異が想定されたI島を対象として調査を行なった。本稿ではとくにI島における分裂病の問題を取り上げ,Y島ならびに当教室における過去の調査結果との比較検討を行なうこととする。

睡眠過剰を伴ううつ病について

著者: 臼井宏 ,   永井久之 ,   後藤多樹子 ,   鹿野寿満 ,   長瀬輝誼 ,   郡暢茂 ,   土居通哉 ,   武村信男

ページ範囲:P.853 - P.862

I.はじめに
 一般に抑うつ状態は入眠困難,睡眠中断,早朝覚醒などの睡眠障害を伴うものとされ,Jung12)のように不眠をうつ病の中軸症状とする見解もある。一方,睡眠過剰Hypersomniaを伴ううつ病のあることも,三宅19),谷26),Kraines13),Jaspers10)らによりかなり古くから指摘されているが,いまだ十分注目されるには至らず,そのような症例を集めて検討を加えたのはMichaelis15,17)だけである。われわれは8例の睡眠過剰を伴ううつ病を観察したのでここに報告し,若干の考察を加えたい。

経口避妊薬がひき金となって発症した躁うつ病の1例

著者: 久山千衣 ,   渡辺昌祐 ,   横山茂生 ,   久保信介 ,   岩井闊之

ページ範囲:P.863 - P.868

I.はじめに
 経口避妊薬の副作用として抑うつ症状を中心とする精神症状がみられることは,欧米では1967年頃から系統的な研究調査が行なわれ,広く認められているところであるが,経口避妊薬が一般に発売許可されていないこともあって身体的副作用ほどには問題視されていない。本邦では,経口避妊薬とまったく同じ作用をもつ薬物が月経困難症などの治療目的に使用されており,避妊の目的で服用している人口もかなりの数にのぼると思われるのであるが,経口避妊薬の副作用としての精神障害を論じた文献は,日本産婦人科学会内分泌委員会の経口避妊薬に関する集計の中で簡単にふれられている1)ほか,高橋の総説2)がみられるのみで,症例報告はほとんどみられていない。
 今回われわれは,経口避妊薬がひき金となって発症したと思われる躁うつ病の1症例を経験したので報告し,経口避妊薬服用時にみられる精神症状についての海外文献をまとめ考察した。

高齢に発症したCreutzfeldt-Jakob病の1例—核内封入体が認められた症例

著者: 斎藤惇 ,   近藤孝子 ,   長谷川行洋

ページ範囲:P.869 - P.876

I.はじめに
 Creutzfeldt-Jakob病(以下C-J病と略す)は,初老期の痴呆の1つとして考えられてきたが,栄養障害や中毒など何らかの外因を考えようとする立場がはやくからあり,同じ初老期の痴呆であるAlzheimer病やPick病と同じ範疇に入れることに疑問をいだく人達がはやくからいた1)。1968年のGibbs,Gajdusek2)らの仕事で"transmissible"な疾患であるということが示されて以来,感染性の疾患であろうという考え方が強くなり,第7回国際神経病理学会(1974年)においてもC-J病をInflammatory(Infectious)Diseaseとして扱っている3)。一方,transmissibleであった症例がすべて亜急性海綿様脳症(以下SSEと略す)の病理組織所見を示し古典的C-J病とは異なることなどから,従来から支配的な考え方である古典的C-J病とSSEが同一であるという考え方に批判的な立場をとる人もいる4)。また白木5)は第14回日本神経病理学会における本疾患に関するシンポジアムの中で,古典的C-J病,SSE,thalamic typeなどそれぞれをC-J症候群とみて,各々の原因について検討していくことが必要であろうと述べている。このように従来から病理組織像の性質と臨床像が類似しているこどから,一括してC-J病として扱われてきた亜型についてすべてが同じ原因で発症しているのかとうか未だに疑問が残されているわけで,今後とも詳細な症例の検討がなされていく必要があるように思われる。
 われわれは病理組織学的には視床に強い病変をもち,終脳外套皮質の広範な海綿様状態とエオジン好性の核内封入体が認められ,臨床的には比較的高齢で発症し,Korsakoff症候群をはじめとし興味ある精神症状と視覚異常,運動障害なとを示しながら約2年の経過で死亡したC-J病の1例を経験したのでここに報告する。

精神分裂病におけるL-Dopaの行動への影響—二重盲検比較試験

著者: 稲永和豊 ,   中沢洋一 ,   橘久之 ,   大島正親 ,   小鳥居湛 ,   更井啓介 ,   木村進匡 ,   大熊輝雄 ,   小椋力 ,   岸本朗 ,   高橋良 ,   桜井征彦 ,   田中正敏 ,   小川暢也 ,   伊藤斉

ページ範囲:P.877 - P.889

I.はじめに
 L-Dopaはパーキンソニズムの患者において,その神経症状および精神症状に対して治療効果を持っていることは周知のごとくである。精神症状の面では,L-Dopaによって患者は外界に対して関心を持つようになり,他の人々との接触が増してくる。しかしながらL-Dopaの量がふえてくると,副作用としての精神症状,たとえば激越,攻撃性,妄想様観念,幻覚および錯乱状態がみられることがある3)。精神分裂病におけるL-Dopaの作用は,その使用量によって変化するようである。
 Brunoら4)はL-Dopaの2mg/kgを精神分裂病患者に静注して症状の一過性の改善をみている。
 稲永ら7〜10)は400〜600mgのL-Dopaが精神分裂病において抗精神病薬と併用して効果があることをみており,特に疎通性の改善と感情面での改善を認めている。
 本邦においてはその後相次いで精神分裂病患者に対する少量のL-Dopaの有効性が証明された2,11〜15,17)。以上のopen trialの結果を確認するために,稲永ら10)は二重盲検比較試験を行ない,L-Dopaの有用性を確認した。
 ヨーロッパ(デンマーク)においても,Gerlachら5)によって,単一型精神分裂病に対して,抗精神病薬と少量のL-Dopaを併用することによって好ましい効果が確認された。
 本研究においては,少量のL-Dopaが精神分裂病患者に対して,有効で安全であることを二重盲検比較試験によってたしかめることが出来た。

向精神薬長期服用者の自律神経機能—第2報 プピログラム所見について

著者: 岡田文彦 ,   浅野裕 ,   加瀬学 ,   新富芳子 ,   長沼俊幸 ,   小野寺勇夫 ,   山鼻康弘 ,   富樫弥志満 ,   伊藤耕三 ,   石金昌晴

ページ範囲:P.891 - P.897

I.はじめに
 われわれは前報にて,一地方都市の総合病院併設精神科における向精神薬長期服用中の精神分裂病者の自律神経機能,特に瞳孔機能について検討を加え,対象とした入院患者のうち,36.5%の高率に,対光反応消失の所見がみられることを報告した1)。さらに,点眼薬による検討から,これらの患者の80〜90%までに,瞳孔の交感神経系および副交感神経系の末梢レベルで,ともに著明な神経遮断現象がみられることを明らかにした1)。これらの患者は多種類の向精神薬や抗パーキンソン剤(抗パ剤)を多量に服用しており,このような異常所見出現と服薬量とは密接な関連があると考えられる。
 本論文では,札幌市内の精神病院に長期間にわたって入院中の精神分裂病患者のうち,同様の瞳孔異常を示す12症例について,瞳孔の対光反応と近見反応をより精密に検索することが可能な赤外線電子瞳孔計を用いて検討を加えたので報告する。

新抗うつ薬Nomifensineの使用経験

著者: 更井啓介 ,   児玉久 ,   野村昭太郎 ,   石津宏 ,   天本貴 ,   瀬川芳久 ,   曽根喬 ,   増田勝幸 ,   石井和彦 ,   森脇一浩 ,   中川一広 ,   山岡信明 ,   山崎正数

ページ範囲:P.899 - P.907

I.はじめに
 Nomifensineは西ドイツのヘキスト社によって開発され,図に示すような構造式をもち,従来の三環抗うつ薬と異なるイソキノリン誘導体である1)。薬理学的には動物実験において小量で運動量をやや減じ,大量でその運動量を増し,脳の軽い刺激作用を有するとみられている。また,テトラベナジンやレセルピンの中枢作用に拮抗する点で従来の三環抗うつ薬と類似の作用を有しており2,3),健康人に対しては集中力の増加と反応時間の短縮を来したという4)。なお,覚醒脳波は本剤により速波化し,また末梢の抗コリン作用は従来の三環抗うつ薬より弱い点が特徴とされている3)
 生化学的には生体アミン,ことにカテコールアミン(ノルエピネフリンとドーパミン)の脳におけるシナプトゾームへの取り込みを強く阻害し,セロトニンの取り込みも中等度に阻害し5,6),大量使用で線条体におけるカテコールアミンの代謝回転を増し,in vitroでMAO阻害作用を有し,またc-AMP(各種ホルモンの標的細胞における作用を媒介する)を増加させるとの報告がある7)
 臨床的にはすでにAngstら8)はじめ数編の報告9〜13)がなされており,それによると本剤はイミプラミンと同様の抗うつ作用を有しており,しかも効果発現がやや速く,副作用が少ない点に特徴があるという。
 今回われわれは25例のうつ状態の患者に本剤を用いて若干の経験を得たのでここに報告する。

短報

自閉症児に対するHaloperidol少量療法

著者: 八島祐子 ,   石下恭子 ,   星野仁彦

ページ範囲:P.908 - P.909

I.はじめに
 Haloperidolは,その使用量の多寡によって,臨床的作用の二面性が認められる特異的な向精神薬である。大量投与(5〜10mg/day)では,強力な静穏作用を示し,一方,少量投与(0.2〜1mg/day)では,不随意運動1〜3),多動症状などに有効である。
 筆者らは,多動症状を示す自閉症,および微細脳障害症状群などに対し,haloperidol少量療法が有効であることを経験している6,7)
 今回は,3歳から13歳までの白閉症の男児10例に対し,haloperidol(0.2〜1mg/day)少量療法を3カ月から5年にわたり実施し,好結果を得たので報告する。
 自閉症の診断は,Kannerの早期幼児自閉症の診断基準8,9)に従った。投与方法は,0.02〜0.05mg/kgを,朝,夕2回に分服投与した。0.02mg/kgから漸増し,維持量は0.03〜0.04mg/kgとした。平均投与量は0.03mg/kgで,心疾患の既往歴のある例は対象から除外した。維持量を1〜2年間継続投与した後は,1〜2週間の怠薬,あるいは,意図的に1〜2週間の休薬期間をおいても,多動症状の著しい悪化は認められなかった。

アルコール禁断症状に対するタウリンの予防並びに治療効果

著者: 池田久男 ,   洲脇寛 ,   堀井茂男 ,   松田清 ,   尾原安郎

ページ範囲:P.910 - P.912

I.はじめに
 近年,タウリン(Taurine)の神経系における生理的並びに薬理的作用が多くの研究者の関心を集めている6)。たとえば動物における実験てんかん(けいれん)に対しタウリンが抑制効果を持つことが明らかにされ,抗てんかん剤としてのタウリンの有効性が目下臨床的に検討されつつある2)
 他方,アルコール中毒者の尿へのタウリン排泄の増加(Turner)9)や,慢性アルコール中毒患者のPrepsychotic stateにおける血漿タウリン量の減少(Frederiksen)3)が指摘されている。また実験的にはマウスでアルコールの麻酔作用がタウリン前処置で拮抗されること(Iida)5)や,アルコール禁断によるマウスのけいれんがタウリンで予防並びに治療される(秋山)1)ことが観察されている。これらの事実はタウリンがアルコール禁断症状に何らかの治療的効果をもたらす可能性を強く示唆するものである。
 そこでわれわれは断酒を目的に入院した慢性アルコール中毒患者に,入院第1日よりタウリンを経口投与したところ,対照群に比べてタウリン投与群では明らかに禁断症状の発現が減少することを認めたので,その結果を報告する。

古典紹介

—J. Babinski—Contribution à l'Étude des Troubles Mentaux dans l'Hemiplegie organique cérébrale—〔Anosognosie〕, Anosognosie, Sur l'Anosognosie(大脳性の器質性片麻痺における精神症状の研究への寄与—病態失認)

著者: 遠藤正臣

ページ範囲:P.913 - P.920

 大脳性片麻痺で観察する機会を得た精神症状に私は注意を惹きたいが,患者を冒している麻痺の存在に患者が気付いていないか,または気付いていないようにみえるのがその精神症状の実体である。
 勿論,知能が著しく減退していて,自分に関することに患者がぼんやりした観念しかもてないような症例を私は考慮からはずしている。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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