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研究と報告
躁うつ病の非定型病像に関する一考察—思春期症例を中心に
著者: 乾正1
所属機関: 1大阪大学医学部精神医学教室
ページ範囲:P.957 - P.964
文献購入ページに移動I.はじめに
「内因精神病」を,「精神分裂病」と「躁うつ病」に二分するというKraepelin, E. の体系に封じ込めきれないいわゆる「中間症例」に対しては,これまで数多くの概念や見解が提出されてきた。この疾病学的な位置は「非定型精神病」2,3)という新しい臨床単位を設定することにより一応の妥協が成立したかにみえる。しかし,その独立性については今なお整理が行なわれておらず議論が続いている。このこと自体が古典的二分主義に対する疑問と批判であるといえるし,またあらたに臨床単位を設けるという立場を認めるにしても,このような混乱を生ずる最大の理由は古典精神病の範囲が明確に規定され得ないこと,つまりそれぞれの非定型病像をどのように取り扱うかという境界設定の困難さにある。
私は先に,人格統合機能の低い個体では躁うつ病はとくに思春期に非定型病像を呈しやすい傾向のあることを,精神遅滞者の症例について報告した4)。この非定型病像は,躁うつ病の病像に意識障害や幻覚妄想など,人格統合機能の破綻を反映した症状が加わったものである。そしてこれは,現在非定型精神病として分類されている疾患群の中心的位置を占める病像と同一であった。
今回は思春期の病相の一部において非定型病像を呈した3例の症例について報告する。これらの症例には知的欠陥はみられなかったが,その個体の人格統合機能の低格性を示唆するいくつかの特徴があった。この特徴を抽出し,思春期の特性との関連において精神遅滞者の症例と比較しながら,躁うつ病の非定型病像,さらには非定型精神病について若干の成因論的考察を試みた。
「内因精神病」を,「精神分裂病」と「躁うつ病」に二分するというKraepelin, E. の体系に封じ込めきれないいわゆる「中間症例」に対しては,これまで数多くの概念や見解が提出されてきた。この疾病学的な位置は「非定型精神病」2,3)という新しい臨床単位を設定することにより一応の妥協が成立したかにみえる。しかし,その独立性については今なお整理が行なわれておらず議論が続いている。このこと自体が古典的二分主義に対する疑問と批判であるといえるし,またあらたに臨床単位を設けるという立場を認めるにしても,このような混乱を生ずる最大の理由は古典精神病の範囲が明確に規定され得ないこと,つまりそれぞれの非定型病像をどのように取り扱うかという境界設定の困難さにある。
私は先に,人格統合機能の低い個体では躁うつ病はとくに思春期に非定型病像を呈しやすい傾向のあることを,精神遅滞者の症例について報告した4)。この非定型病像は,躁うつ病の病像に意識障害や幻覚妄想など,人格統合機能の破綻を反映した症状が加わったものである。そしてこれは,現在非定型精神病として分類されている疾患群の中心的位置を占める病像と同一であった。
今回は思春期の病相の一部において非定型病像を呈した3例の症例について報告する。これらの症例には知的欠陥はみられなかったが,その個体の人格統合機能の低格性を示唆するいくつかの特徴があった。この特徴を抽出し,思春期の特性との関連において精神遅滞者の症例と比較しながら,躁うつ病の非定型病像,さらには非定型精神病について若干の成因論的考察を試みた。
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