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展望
精神分析学の最近の動向—イギリス篇
著者: 牛島定信1
所属機関: 1福岡大学医学部精神医学教室
ページ範囲:P.1040 - P.1048
文献購入ページに移動I.はじめに
本展望の主眼は,「最近の動向」ということになっているが,この成句のうらには,読者には,「過去の動向」が理解されているという前提がある。ところが,ことイギリスの精神分析となるとわが国とは馴染みがうすく組織的に紹介されたことはないのである。最近になってM. Klein20),J. Bowlby5),D. W. Winnicott36,37),M. Balint2)といった人たちの著作が次々と訳出されているが,これらをそれぞれイギリスの精神分析的潮流の中でどのように位置づけたらよいのか戸惑っておられる向きも少なくないのではなかろうか。さらにまた,最近になって,精神分析的な論文や学会発表などで「対象関係論」の拾頭する兆しがあって,W. R. D. FairbairnやKleinがもてはやされそうな気配である。しかしながら,著者のみるところ,アメリカの自我心理学の行き詰りからイギリス学派の理論を導入しようとする動き(たとえばO. F. Kernberg16),J. F. Masterson26)など)に刺激されて生じた,つまりはアメリカ経由の対象関係論熱ではないかと勘ぐりたくなる趣きがある。しかしながら,アメリカの対象関係論は,イギリスのそれとは,若干異なるような気がしている。
そうした状況を考えると,この小論の意義をイギリス精神分析の案内図的役割に求めたほうがよさそうにみえる。そのため,際立った分析医たちの理論の説明が大まかな記述になることをご承知おき願いたいと思う。
本展望の主眼は,「最近の動向」ということになっているが,この成句のうらには,読者には,「過去の動向」が理解されているという前提がある。ところが,ことイギリスの精神分析となるとわが国とは馴染みがうすく組織的に紹介されたことはないのである。最近になってM. Klein20),J. Bowlby5),D. W. Winnicott36,37),M. Balint2)といった人たちの著作が次々と訳出されているが,これらをそれぞれイギリスの精神分析的潮流の中でどのように位置づけたらよいのか戸惑っておられる向きも少なくないのではなかろうか。さらにまた,最近になって,精神分析的な論文や学会発表などで「対象関係論」の拾頭する兆しがあって,W. R. D. FairbairnやKleinがもてはやされそうな気配である。しかしながら,著者のみるところ,アメリカの自我心理学の行き詰りからイギリス学派の理論を導入しようとする動き(たとえばO. F. Kernberg16),J. F. Masterson26)など)に刺激されて生じた,つまりはアメリカ経由の対象関係論熱ではないかと勘ぐりたくなる趣きがある。しかしながら,アメリカの対象関係論は,イギリスのそれとは,若干異なるような気がしている。
そうした状況を考えると,この小論の意義をイギリス精神分析の案内図的役割に求めたほうがよさそうにみえる。そのため,際立った分析医たちの理論の説明が大まかな記述になることをご承知おき願いたいと思う。
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