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研究と報告
在宅慢性分裂病者の精神病理学的特性—長期在院者との比較から
著者: 永田俊彦12
所属機関: 1同愛記念病院神経科 2現所属:順天堂大学医学部精神医学
ページ範囲:P.1059 - P.1068
文献購入ページに移動I.はじめに
慢性分裂病者の精神病理学的研究は多岐にわたるが,そのほとんどが精神病院に長期間在院する入院患者(以下長期在院者と略す)が対象とされ,未寛解のまま社会の中で生活している在宅慢性分裂病者(以下在宅者と略す)の精神病理学的研究は乏しい。筆者の知る限りでは,いわゆる「放置」されている患者の症例報告1)等を散見する以外はJ. Wirsch2)が在宅者を除外して慢性分裂病者の病像統計を作っても無意味であると述べ,在宅者は分裂性世界と現実生活を調和させて「長期在院者が直面する人格の混沌や硬化という危険から遠ざけられている」と論述しているにすぎない。他方,近年になって長期在院者の社会復帰活動が盛んになるにつれ,長期在院によるホスピタリズムが彼らの退院を阻害していることが明らかとなり,また彼らの病像そのものがホスピタリズムとの複雑な絡みあいであるという見方もされている3)。
では,入院医療という,いわゆる人工的加工(Anstaltartefakte)をあまり受けていない在宅者には,長期在院者とは異なった精神病理学的特性が見出せるのか,また,在宅者にはホスピタリズムと同質の現象が起こりえないのか。筆者はこのような素朴な疑問をもちながら,在宅者の医療に携わってきたが,そのなかで,在宅者に若干の精神病理学的な特性を見出すことができた。しかしながら,他方では,ホスピタリズムと同質の現象を見逃すわけにはいかなかった。本稿では在宅者と長期在院者の若干の精神病理学的異同について報告したい。
慢性分裂病者の精神病理学的研究は多岐にわたるが,そのほとんどが精神病院に長期間在院する入院患者(以下長期在院者と略す)が対象とされ,未寛解のまま社会の中で生活している在宅慢性分裂病者(以下在宅者と略す)の精神病理学的研究は乏しい。筆者の知る限りでは,いわゆる「放置」されている患者の症例報告1)等を散見する以外はJ. Wirsch2)が在宅者を除外して慢性分裂病者の病像統計を作っても無意味であると述べ,在宅者は分裂性世界と現実生活を調和させて「長期在院者が直面する人格の混沌や硬化という危険から遠ざけられている」と論述しているにすぎない。他方,近年になって長期在院者の社会復帰活動が盛んになるにつれ,長期在院によるホスピタリズムが彼らの退院を阻害していることが明らかとなり,また彼らの病像そのものがホスピタリズムとの複雑な絡みあいであるという見方もされている3)。
では,入院医療という,いわゆる人工的加工(Anstaltartefakte)をあまり受けていない在宅者には,長期在院者とは異なった精神病理学的特性が見出せるのか,また,在宅者にはホスピタリズムと同質の現象が起こりえないのか。筆者はこのような素朴な疑問をもちながら,在宅者の医療に携わってきたが,そのなかで,在宅者に若干の精神病理学的な特性を見出すことができた。しかしながら,他方では,ホスピタリズムと同質の現象を見逃すわけにはいかなかった。本稿では在宅者と長期在院者の若干の精神病理学的異同について報告したい。
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