アルコール性小脳変性症を疑わせた2症例—臨床所見とコンピューターX線断層像
著者:
中村潔
,
中川英範
,
相沢均
,
今野渉
,
藤田雅彦
,
三田村幌
,
岡本宜明
,
小片基
ページ範囲:P.1213 - P.1220
I.はじめに
1905年Andre-Thomas39)は,慢性アルコール中毒症を基盤として発症した小脳失調を臨床的に記述するとともに小脳皮質とくに虫部の上部に病理学的変化を認めたことを記載した。これに続いてJakob,Lhermitte,Noicaらにより類似症例の臨床病理学的記載がなされた22)。またRomano34)は慢性アルコール中毒者5例に認められた下肢の運動失調などの特徴的な臨床像から,これらをalcoholic cerebellar degenerationと診断し報告している。その後もSkillicorn36),Chodoff7),Alajouanineら1),Deckerら9)により臨床的観察の報告がなされた。さらに1959年に至り,Victorら42)は小脳症状を伴う慢性アルコール中毒症50例につき臨床病理学的に詳細に検討した。彼ら42)はそれまでの文献中に報告されていた120例についても整理し,他の型の小脳変性症と鑑別点を吟味した結果,アルコール性小脳変性症が臨床病理学的に一つの疾患単位であることを示唆した。その後も,Ames4),Allsop & Turner3),Grahamら13)により報告された症例を数えると,諸外国では今日までにほぼ200例に達するようである。一方,本邦においては著者らの知る限り,河部ら17)の学会抄録で1例を認めるのみでアルコール性小脳変性症の報告例はきわめて少ない。
他方,慢性アルコール中毒症者の気脳写像に脳萎縮を反映した異常所見の認められることは文献的に考察されており27),近年CT所見に関しても報告がある10〜12,14)。しかし,本邦では,岡本ら30)の報告以外にいまだみられないようである。すなわち,岡本らは慢性アルコール中毒者82例中20%に小脳萎縮所見を認めた。今回われわれは,臨床的に種々の小脳症状を呈し,脳CT像で小脳萎縮所見を認め,これらのことからアルコール性小脳変性症と思われた2症例を経験したので報告したい。