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文献詳細

雑誌文献

精神医学21巻12号

1979年12月発行

文献概要

研究と報告

一過性全健忘(Transient Global Amnesia)の脳波について

著者: 児玉久1 赤松和彦2 中岡清人3

所属機関: 1広島大学医学部神経精神医学教室 2赤松神経科内科医院 3恵愛会柳井病院

ページ範囲:P.1341 - P.1348

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I.はじめに
 一過性全健忘Transient global amnesia(以下TGAと略す)については,1956年に最初の報告者といわれているBender1)が,その特異な記憶保持の障害を示した症例を発表して以来,主として欧米を中心に今日まで本症に類似の症例も含めて,およそ250例以上の報告がある。本邦においても1970年頃から本症が注目され,野上ら22)がその4症例について初めて発表して以来,30例以上の報告をみる。Benderは発表当初本症にsyndrome of isolated episode of confusion with amnesiaなる名称を付したが,1958年にFisher6,7)らが12症例を,次いで1964年にはさらに5症例を追加して17症例について詳細な報告を行ない,その際に彼らが用いたTGAという呼称が今日では一般化し,本邦においても一過性全健忘という名称を用いる人が多い。
 本症の臨床症状の特徴については,特異な記憶障害が一過性に現われるとか,後遺症を残すことなく完全に回復し,しかもほとんどの症例では再発をみないなどいくつかの特徴が指摘されているが,このような臨床症状の特徴とともに,各種の臨床検査の一環として脳波が取り上げられ,ことに前記のような特異な臨床経過を示すにもかかわらず,多くの症例では脳波は正常であることも,本症の特異な点として注目されてきた。しかしBenderの報告以来,本症の脳波にも非特異的ではあるが異常所見を示す症例が稀ならずあることが報告されるようになり,本症の脳波に関しては改めて再検討を要するとの意見も最近きかれるようになった。
 筆者らは過去7年間にTGAと思われる14症例を得,この中10例に脳波検査を行ない,さらにこの中の2例はエピソード中に記録を得た。このエピソード中の脳波は2例とも非特異的ではあるが異常所見を示し,8例はエピソードから回復して後の脳波であるが,いずれも正常であった。今回われわれはとくにエピソード中に記録し得た2症例の脳波所見について種々検討を加え,文献的検索とともに若干の考察を行なったのでここに報告する。なお8症例については別の機会に改めて報告する予定である。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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