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特集 妄想
妄想患者とのつき合いと折り合い—してはいけないらしいことと許されるだろうことと
著者: 中井久夫1
所属機関: 1名古屋市立大学医学部精神医学教室
ページ範囲:P.138 - P.142
文献購入ページに移動 われいまだ妄想を知らず,いわんや妄想患者の精神療法をや,というのが,いちばん正直なところかも知れない。
私の思考の中で,妄想はいつも焦点に据えられたことがなかった。妄想はどうも私にとって思考の中心にやってくることを拒むようだった(本稿はしたがって苛酷な課題論文である)。私は患者の話を聞いてはきた。時には耳を傾けて聞いたこともないではない。けれども,私は患者の妄想を聞いたのではなかった。患者の語るところをあるいは沈黙を聞いたにすぎないのである。
私の思考の中で,妄想はいつも焦点に据えられたことがなかった。妄想はどうも私にとって思考の中心にやってくることを拒むようだった(本稿はしたがって苛酷な課題論文である)。私は患者の話を聞いてはきた。時には耳を傾けて聞いたこともないではない。けれども,私は患者の妄想を聞いたのではなかった。患者の語るところをあるいは沈黙を聞いたにすぎないのである。
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