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雑誌目次

雑誌文献

精神医学21巻3号

1979年03月発行

雑誌目次

巻頭言

消されてしまった中精審

著者: 秋元波留夫

ページ範囲:P.222 - P.224

 中精審(中央精神衛生審議会のこと)といっても,いまの若い世代の精神科医の諸君にはピンとこないかも知れない。しかし本来それはわが国の精神障害(精神衛生法によれば精神疾患だけではなく,てんかん,精神薄弱はもちろんアルコール症,薬物嗜癖,それに神経症まで国民の心身の健康に重大な関係をもつさまざまな障害が含まれる)に関する医療・福祉・世論の啓発などの問題について国の施策を諮問するために厚生大臣によって設置された機構である。だからそれは精神科医の日常の活動にとって好むと好まないとにかかわらず無関係ではあり得ない重要な,用いようによっては精神科医療の発展に役だつ機構なのである。
 いま,厚生省が所管しているいわゆる精神衛生関係予算(実際は後述のようにその大部分が医療費だから,精神衛生関係予算と称すのは事実に反する)は850億(昭和53年度)をこえている。この国民の血税がほんとに精神障害の人たちのために役に立つように使われているかどうかを監視し,不届きなことがあればどしどしきびしい批判を加えその改善を要求するのが中精審の使命である。だから,この建前からすれば精神科医療に責任をもつ精神科医は中精審の動向に無関心であり得る筈はない。

展望

大学精神医学

著者: 小見山実 ,   高橋徹 ,   榎本稔 ,   小谷野柳子 ,   大森健一

ページ範囲:P.225 - P.241

I.はじめに
 大学生は年齢からいえば青年後期にあたり,ひとりの人間として自立していく過程にある。一方,彼らは大学という制度に規定されている青年の集団でもあって,大学という特定の社会的状況へと適応しつつモラトリアムの時期を送らねばならない。
 ところでわが国では戦後,盛んな教育熱とあいまって大学の数と規模の著しい増大があり,いわゆる大学の「大衆化」現象が生じている。こうした状況で大学生活に適応することは,種々な困難が伴うと考えられる。最近における大学生の留年者や休退学者の著しい増加,勉学障害などは,それを反映した現象であろう。これらの問題は一部ジャーナリズムでもとりあげられたが,われわれ精神科医にとってもactualな問題であり,今後,大学精神医学への要請がしだいに高まっていくことは容易に想像されることである。
 さて大学精神医学の課題の中心が精神障害学生の診断,治療にあることはいうまでもないが,その対象はさらに全大学人の精神障害の疫学や予防にまで及び,またそれらを実践するためには大学管理の方法や機構の問題ともかかわり,きわめて広い範囲にわたっている。したがってDörner, K. の言うように16),大学精神医学を,大学制度に関連する社会精神医学の一つの特殊な形態として定義することが妥当であろう。
 以下,大学精神医学の主要な問題について展望をすすめることにしたいが,各国,各大学でそれぞれ事情が異なり,またアプローチする理論的背景の違いもあって,多面的な様相を呈し,共通な視点で論ずることが難しいことをあらかじめ述べておきたい。
 まず大学生に精神障害の急激な増加がみられるかという疑問が生ずるが,それを裏付けるような事実は知られていない。米国では学生が来談する頻度は30数年間ほぼ同じであるという82)。また大学生の間にどのくらいの障害学生がいるかということについてもまだ確実なことはわかっていない。米国では全大学生の10%は情緒的葛藤を持ち,その解決に専門的援助が必要であるということは広く受け入れられている19)。たとえば米国の大学を代表するハーバード大学の過去10年間の経験によれば,毎年全学生の8〜9%が精神医学的サービスを求めたという。そのほかいくつかの報告があるが,欧米ではおよそ少なく見積もって10〜15%という数字が一致する見解ではないかと思われる28,93)。これにsubclinicalな者まで含めるとさらに大きな数となろう。Smith, W. H. は12%の臨床的な障害者のほかに30%のsubclinicalな者がいると述べている16)
 わが国では,同様に受診者数によると東大では全入学者の4%強(昭和37年以降の入学者で保健センターで診療・アフター・ケアを受けた学生,昭和42年3月現在)39),京大では1.7%(昭和33年)という数が報告されている30)。いずれも欧米に比べ低い率となっているが,これは精神衛生的な風土やそのサービスの方法の違いによるものであろう。わが国では大学の精神衛生というと,精神健康面で問題のある学生の選別(スクリーニング)に関心が集中しているようなので,この問題から取り上げることにしたい。

研究と報告

アミトリプチリン—ノルトリプチリン血中濃度と抗うつ効果

著者: 渡辺昌祐 ,   横山茂生 ,   久保信介 ,   岩井闊之 ,   久山千衣 ,   浅野裕 ,   山下格

ページ範囲:P.243 - P.250

I.はじめに
 筆者らが行なったうつ病患者を対象としたmaprotiline(MAP)とamitriptyline(ATP)の多施設二重盲検比較試験20)において,薬剤服用3週後に患者の了解のもとに対象患者の採血を行ない,薬剤の血中濃度と治療効果や副作用出現頻度の関係を調べ,MAPについては血中濃度と治療効果は相関傾向が認められたことをすでに報告した21)
 本論文では同一研究において得られたATP服用患者の血液試料18検体のATPとnortriptyline(NTP)の濃度を測定しATP服用量,臨床効果との関係を検討,考察する。
 三環系抗うつ剤の血中濃度と治療効果の相関を検討した研究報告は,1962年Hyaduら12)のimipramine研究に始まり,次第に増加している。本邦では谷向19),浅野ら1,2)の報告が発表されているのみであり,今日なお幾多のデータ集積の必要な時期であるといえる。

てんかん入院患者におけるDiphenylhydantoinおよびPhenobarbital血清濃度とその日内変動

著者: 風祭元 ,   菅野道 ,   花田耕一 ,   西原カズヨ

ページ範囲:P.251 - P.260

 服薬の情況が確実に把握されているてんかん入院患者17名にっいて,ジフェニルヒダントイン(DPH)とフェノバルビタール(PB)の血清濃度を,24時間にわたり4時間ごとに紫外部吸光光度法を用いて測定し,次の結果を得た。
 1)1日3回分服の慣用の服薬スケジュールのもとでは,DPHの平均血清濃度は,午後から夜間にかけて高くなり,午前9時前後に最低値を示した。同一個人で同一服薬量であっても,血清濃度は日によってある程度のばらつきを示すが,血清濃度の口内変動における上記の傾向はほぼ恒常的であった。
 2)primidoneや他のbarbituratesを併用していない患者では,PBの血清濃度はきわめて恒常的で,日内変動はほとんど認められなかった。
 3)DPHの服薬量X(mg/kg/日)と血清濃度Y(μg/ml)との間にはおおまかな相関関係がみられ,全例の平均服用量で算出したDPHの血清濃度/服薬量比(Y/X)は,2.28であった。また,血清濃度と服薬量との関係にMichaelis-Menten型の非線型式をあてはめて検討したところ,みかけの最高速度Vmaxは4.4±0.5mg/kg/day,みかけのMichaelis定数kmは1.3±0.8μ9/mlであった。
 4)PBでは,服薬量Xと血清濃度Yとの間には高度の相関がみられ,平均服薬量におけるPBの血清濃度/服薬量比(Y/X)は,9.73であった。
 以上の所見に基づいて,てんかん患者に対して薬物療法を行なうにあたって,抗てんかん薬の血清濃度を測定する臨床的意義とその問題点について考察した。

てんかん患者と職業

著者: 福島裕 ,   北條敬

ページ範囲:P.261 - P.268

I.はじめに
 欧米においては,すでにてんかん患者に対する組織的なリハビリテーションが進められ,その成果が報告されている1,2,6,7)。ひるがえって,わが国の現状をみると,これまでにいくつかの調査や研究10〜12,14)がてんかん患者の職業の実態や社会適応状況を報告してはいるが,これら患者に対するリハビリテーションについての論考はない。
 著者3)は,さきに,てんかん患者の社会適応状況をその結婚生活の面から検討し,そのなかで男子患者の場合,結婚には有職であることが密接に関係することを示した。勿論,このことはてんかん患者に限らず,非てんかん者ないしは健康者においてもいえることであろう。そして,一般に,職業の問題はより基本的に個人の社会適応状況を示す指標であると考えてよいであろう。そこで,今回,われわれはてんかん患者の職業面の問題を取り上げ,そこに見出される問題点の解明を試みるとともに,さらに,てんかん患者におけるリハビリテーションに関して考察を加えた。

人工透析療法に関連してみられる精神障害について

著者: 塚田浩治

ページ範囲:P.269 - P.275

Ⅰ.緒言
 慢性腎不全を中心にした腎疾患に対して,血液人工透析療法(以下透析と略す)が施行されるようになってから10数年を経た。この間,透析患者が直面する様々な精神心理学的問題にも早くから関心が持たれ,透析を受ける人の適応性の問題や透析下における心理的状態とその推移などをはじめ1),特殊な中枢神経症状として透析初期にみられる不均衡症状群disequilibrium syndromeや,長期透析後にみられる透析性脳症dialysis encephalopathy等の研究報告がなされてきた8)
 本邦においても,1972年の第9回透析治療学会で,主な演題の一つとして精神障害が選ばれ,神経症傾向を示すもの,イライラ症状,せん妄あるいは錯乱興奮状態を来した症例,自殺例,構語障害例などの症例報告や,心理テストの結果など19の演題が報告されている。他には詫摩らによるせん妄を主とした3症例の報告10)や,平沢らの自験例を中心にした解説があり6),浅井らによる詳細な総説もみられる3,4)
 しかし透析療法の歴史が未だ浅いせいもあってか,これら内外の報告の多くは少数例を対象にした研究調査であり,特に精神症状については個々の症例報告が主となっていて,長期透析患者を含めた多数例に対しての統計的,総合的な研究は乏しいようである。
 透析下における患者の精神心理的側面は,尿毒症としての身体的精神的な背景によって影響を受けるであろうことは勿論のこと,人工透析による生命の維持という心身両面にわたる特殊な状況下で構成されていることから,発来する精神症状も状態像や原因がきわめて複雑なものになることが予想される。
 こうした点をふまえ,今回は比較的多数の透析患者を対象に,透析に関係して発来する,特に精神科的治療を必要とする程度の精神障害についてその特徴や心理的身体的背景要素ならびに発生頻度や予後などについての調査を行なったので,その結果を報告し,併せて透析下における精神症状の発生機制について若干の考察を加える。

精神病状態を呈した小児全身性エリテマトーデスの2症例

著者: 牧原寛之 ,   鈴木順子 ,   高原周治 ,   大場すま子

ページ範囲:P.277 - P.283

I.はじめに
 全身性エリテマトーデス(以下SLEと略す)の臨床症状は多彩であり,その中枢神経症状についても19世紀末のKaopsiの最初の報告以来多数の研究がなされてきた20)。しかしながらその多くは15歳以上の成人が対象であり,かつそこで精神神経症状とか中枢神経症状として記載されているものも,けいれんや片麻痺などの神経症状が多く,純粋な精神症状への言及はきわめて乏しい。さらにそこには,Heine, B. E. 11)の指摘するごとく,精神症状と神経症状の混乱もときとして,認められる。また小児の報告例についても,例えば大堂ら3)は1955年から1975年までに本邦で発表された症例は57例としているが,これら多数の報告にも,精神症状の記載はほとんどない。わずかに岩川14)(「少し異常と思われる程拒否的であった」),柚木ら34)(「大精神病様の発作」,「せん妄,幻覚,強迫観念」),小原ら23)(「異常情緒反応」),および上田31)(「軽度の躁状態」)の短い文章を認めるにすぎない。これは1975年の玉井ら30)の報告でも同様である。ただ細井ら13)は,意識障害を主とするループス精神病(ループス精神病ということばは,SLEによる症状精神病について原田9)が命名したものである。以下この意味でこのことばを用いる)と考えられる,小児の1症例を報告している。今回われわれは,軽い抑うつ状態にひき続き,亜昏迷状態および体感幻覚や幻聴などの精神病様体験を呈した小児SLEの2症例を経験したのでここに報告し,若干の考察を加えた。

特異な精神症状が先駆したanorexia nervosaの1例

著者: 山崎正数 ,   野村昭太郎 ,   更井啓介 ,   木村匡進

ページ範囲:P.285 - P.290

I.はじめに
 Anorexia nervosaは1689年Morton, R. 1)がphthisis nervosaとして18歳の少女の例を記載したのが最初の学問的論文であり,1877年Gull, W. K. 2)がそのような状態に対しanorexia nervosaという名称を提唱して以来,今日,広く用いられている。しかし,本症の患者の中には,ただanorexiaを呈するだけでなく,逆にhyperexiaないしbulimiaを呈する者もあり,より広くdysorexia nervosaやeating disorder3,4)として本症をとらえようとする研究者もある。一方,本症の疾病学的位置付けは未だ一定した見解は得られておらず,単一疾患としてとらえる者5),神経症の範疇6〜9),心身症10),またより狭義の精神病である躁うつ病11)や精神分裂病12,13)との関係を強調する者など様々であり,症状群としておくのがよさそうである。
 このたび,われわれは特異な精神症状が先駆したanorexia nervosaの1例を経験したので,その詳細を報告するとともに,若干の考察を行なう。

慢性腎機能障害を伴う“Permanent encephalopathy”を疑わせた職業性シンナー中毒症の1例

著者: 寺岡葵 ,   村山英一 ,   堀田直子 ,   津嘉山毅 ,   服部英世

ページ範囲:P.291 - P.295

I.はじめに
 近年,諸種の産業で取り扱われる有機溶剤の種類ならびに使用量は急激に増加し,有機溶剤による健康障害は職業病として関心を集めている。われわれは,塗装工として6年間稼働し,仕事中に意識喪失発作,そのあと分裂病様状態を呈し,脳室の拡大,腎機能障害を認めた慢性職業性有機溶剤中毒によるpermanent encephalopathyと思われる1例を経験した。
 最近,これら有機溶剤を故意に濃厚に吸入するいわゆるシンナー・ボンド遊び,あるいは慢性の暴露を受ける職業性によるpolyneuropathy,myeloneuropathyなどに関して諸家の報告1,2,7,10,15,19)をみるが,中枢神経系の慢性障害について,はっきりと指摘したものは数少ない5,8,17)。本稿では,この特異な症例を呈示し,合わせて5年間にわたる症状の変遷についても触れてみたい。

多彩な神経精神症状を呈した上位脳幹部腫瘍の1症例—とくに無動性無言についてのポリグラフィ的検討

著者: 川原隆造 ,   西田政弘 ,   挾間秀文 ,   内田又功 ,   藤原正

ページ範囲:P.297 - P.306

I.はじめに
 視床下部—辺縁系には情動調節の中枢があるとされているので,この部位に器質性病変がある場合は各種の神経精神症状を呈する。したがって,内因性精神病および神経症との鑑別が必要な場合がある。最近では,頭部コンピューター断層撮影(CT)が臨床診断学に導入され,この方面の診断学的水準を大いに高めていることは周知のとおりである。
 著者らは,上位脳幹部の良性腫瘍により精神症状発症後約9年目に無動性無言を呈するに至った症例を経験した。この症例についてポリグラフィ,ventriculo-peritoneal shunt術などを行なったので無動性無言の発症機序および病態生理に触れて報告する。

特発性両側性対称性大脳基底核石灰化症の1例

著者: 松村晶子 ,   村山英一 ,   堀田直子 ,   津嘉山毅

ページ範囲:P.307 - P.310

Ⅰ.まえがき
 大脳基底核に石灰沈着が起こることは,19世紀のなかばにすでに知られていた1)。しかし,大脳基底核石灰化症が,生前に診断がつくようになったのは,X線が発見されて40年後,1935年Fritzsche2)が頭蓋単純写で脳基底核部に相当する左右対称性石灰沈着陰影を認める同胞3例を報告して,Kasaninら3)がそのうちの1例を剖検で確認してからである。本邦での本症の報告は1962年以降で,現在までに10例を越す報告4〜13)がある。
 われわれは,けいれん発作と痴呆を主徴とし,血清電解質には異常がなく,副甲状腺機能低下症の症状を伴わない,特発性と思われる脳基底核石灰化症の1例を経験したので報告する。

古典紹介

A. Pick:Störung der Orientierung am eigenen Körper—Beitrag zur Lehre vom Bewußtsein des eigenen Körpers〔Psychol. Forsch., 46 ; 303-318, 1922〕

著者: 波多野和夫 ,   浜中淑彦

ページ範囲:P.311 - P.323

 身体意識Körperbewuβtseinの喪失,つまり「身体精神」“Somatopsyche”の欠陥に関する学説のうちで,思弁的理論構成的な論述はあり余るほどにあるのとは逆に,観察によって確かめられた事実は極めて乏しい。今このような事実から,精神衰弱やヒステリーの患者が示した症状,したがってさしあたり純粋に観察によって得られた素材とは見なし難いものを取り除けば,あとに残るものはほとんど無いので,これに関連のある報告はすべてそれだけでもすでに報告たるにふさわしい資格を持つものといえよう。
 1920年の夏休みに,元店員Franz Z. 67歳が入院した。次のような病歴がある。患者は8年前から腸カタル,鼻出血など病みがちである。1年半前から脚の脱力のために床についていた。特に右脚が弱い。入院の14日ほど前のある午後,寒気がすると訴え「体がふるえた」とのことで,顔が蒼白になり,あとでは紫色になった。意識消失はなかった(?)が,尿失禁があり,それ以後はもはや右手を動かすことができなくなった。顔面もゆがんだが,これは次の日にはもうよくなった。最近2年間にだんだんひどくなってきた高度の記憶障害がある。感染疾患はない。1人の死産児がいる。

資料

上海市の精神病院を訪問して

著者: 高木洲一郎 ,   辻本太郎

ページ範囲:P.325 - P.330

I.はじめに
 われわれは昭和53年4月25日から3カ月間,第3期日本医師針灸研修団15名のメンバーとして上海市に滞在した。この間6月14日,上海市の精神病院を見学する貴重な機会を得た。中国医学については,針麻酔による手術が注目を集めているが,中国の精神医療の現状についてはこれまでわが国にほとんど紹介されていないので報告する。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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