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雑誌目次

雑誌文献

精神医学21巻4号

1979年04月発行

雑誌目次

巻頭言

精神科入院医療の進路

著者: 渡辺栄市

ページ範囲:P.338 - P.339

 現在わが国の精神科入院患者の必要病床数は人口万対25という率が,昭和43年以来引き続いて用いられている。人口を概算して1億1千万と一応考えても,万対25であれば27万5千床になる。しかし昭和52年6月末現在の厚生省統計によれば,在院患者数は29万5千5百で,万対在院患者の率は26.1であり病床利用率は102.8になり患者の在院数は漸増して来ている。
 しかし,医療審議会の必要病床数の答申にはこの基礎になる万対25の上に老人病棟,小児病棟,アルコール中毒者等が特殊病床としてうわのせ加算されることになっているから,それらを加えれば大体入院病床数は答申のわく内におさまっているのではないかと思う。

展望

抗分裂病薬と脳の形態学

著者: 貝谷壽宣 ,   岩田毅 ,   難波益之

ページ範囲:P.340 - P.351

I.はじめに
 精神科医は,分裂病の神経病理を追求することに対して今日諦観の傾向にある。過去の分裂病についての脳組織病理学は,数多くの魅惑的な所見を提出してきてはいるが―たとえば大脳皮質とりわけⅢ,Ⅳ層の神経細胞が脱落するLuckenfelder=Miskolczy(1933)82),視床内側核等におけるSchwundzelle=C. und O. Vogt(1948)113),大脳皮質神経細胞尖頂樹状突起の肥大と好銀性の増加=立津(1960)108)―,しかし広く一般的に認められるまでに至っていない90)。分裂病脳の組織病理学は,臨床的診断基準の不確実性,分裂病以外の付加的疾病による脳変化などのために大きな壁につき当ってしまった。このような状況で分裂病脳の病理形態学を求めようとすれば,従来の方法論を離れて新しい見地に立つ必要が生じてきた。すなわちこの問題は最近分裂病の諸症状に著効を示す薬物の研究から1つの解決の方向が求められようとしている。本邦においても抗精神病薬の作用部位や作用機構の検討が注目されてきている67,111)。実際に近年の抗精神病薬の進歩はめざましく,薬物なしの精神病治療は考えられない。抗精神病薬は分裂病の諸症状に特異的効果を持つとまで述べる学者もある25)。さらに抗精神病薬の再発予防効果も優れており,退院1年後の非服薬者の再発率は服薬者の3倍以上である49)。このようなことから最近の論文にはしばしばantischizophrenic drugsという言葉が使用されている。本稿においても,抗うつ剤や抗不安薬と区別する意味も含めて抗分裂病薬とした。現在までに抗分裂病薬による脳の形態学的変化に関する総説はすでに数編みられるが4,33,55,59,91),これらは主に中毒性変化や抗分裂病薬の錐体外路性副症状に関するものが主であり,抗分裂病薬の作用機構を取り上げたものは少ない。本稿では従来の組織病理学とともに,抗分裂病薬の作用機構についての神経化学や精神薬理学の所見を考慮しながら,抗分裂病薬の中枢神経系における形態学的な影響について新しい方法―ラジオオートグラフィー,電子顕微鏡(電顕),組織培養,組織化学および計量形態学―による研究の文献展望をする。また一部は著者自身の研究結果も報告する。これにより分裂病に形態学的側面からアプローチできる可能性を探索したものである。

研究と報告

異常体感を主徴とする青春期分裂性精神病の臨床的研究—ロールシャッハ・テストの成績について

著者: 小波蔵安勝 ,   木村美津子

ページ範囲:P.353 - P.361

I.はじめに
 青春期は,精神分裂症をはじめとする諸種精神障害の好発時期のひとつである。この時期に発病する精神障害の一類型として,さきにわれわれは,以下に述べるような特徴を有する症例群を取り上げ,その臨床的考察を行なった4)。この症例群は,これまで単純に,いわゆる精神分裂症の破瓜型に属すると診断されがちであったと考えられる。その特徴とは,以下のような諸点である。
 病像は,「離人体験を主とする自我障害およびそれに密接な関連を有する異常体感」さらに能動性の低下,自覚的思考障害,閉鎖的生活などが主体をなす。そして精神分裂症一般に認められる被害・関係妄想,幻聴あるいは被影響体験などの出現が極めて少なく,仮に出現したとしてもごく一過性である。経過は慢性傾向が著しく,状態像は絶えず不安定である。しかし,慢性経過をとりながらも,いわゆる人格水準の著しい低下や感情面での著明な鈍麻などに至ることはごく稀である。以上のような病像と経過からみて少なくともこれを破瓜型分裂症と区別しておくことは臨床上有益であるとわれわれは考えた。疾病に対する病者の姿勢をみると,病者は比較的正しい洞察を有していて,表面的にはcontactもよく,治療意欲は持続的に保たれているものの,独断的・主観的に自己像を規定する傾向が強い。したがって,そのような病者のあり方が精神療法的接近には困難な問題を提供する場合が多い。これらの症例群の発症年齢の平均は18歳であった。病者の訴える異常体感は,これらの症例を特徴づける主症状の一つである。すなわち,狭義の体感異常(Düpre, P.)に属するものから,身体表象の障害として,あるいは神経症性心気症状と考えられるものまで広範囲のものが含まれており,執拗かつ持続的に訴えられる。この異常体感の性状は,全体的にみれば身体表象障害を基底としている。
 すでに述べたように4),正しい身体表象は幼少時期の対人関係や家族を含めた社会的関わりの過程の中で形成され発展するものであり,いわば社会的経験に基づく身体機能であるともいえるであろう。ところが病者の養育状況や家庭環境には,病者の自己同一性確立が行なわれるにあたって著しく障害となるような,両親の役割りの欠陥,対人関係の病理性など種々の問題点が指摘される。このような生育歴を背景にして,病者の自己像の構造的脆弱性,自我解体に伴う精神的・社会的孤立,病者の関心の自己ならびに自己身体への集中傾向などが指摘され,そこに身体のあり方の変容への基盤がみられる。すなわち,ここには自我構造の脆弱性をもたらす状況と,身体表象障害を基底とする異常体感の由来や発生の素地が見出される。
 このような前報告に引続き,本稿では,とくにこれらの症例における自我構造の特徴ならびに人格面の特徴についてロールシャッハ・テスト(以下ロ・テストと略記)を用いた検討を行なってみたい。
 ロ・テストは現在行なわれている投影法人格検査の中で臨床的にとくに繁用されているテストであり,病者の心的機能やその方向性を捉える上で極めて実証的な手段であるといえる。自我心理学的および精神分析学的観点からも,自我発達の水準や自我機能などが質・量両面から把握されるところから,臨床精神病理学的研究の補助手段として有効なものであるといえる。このような点からみて,われわれの症例の人格特徴をより明確にし得るテスト方法としてロ・テストを用いることとした。

2人の治療者をつかいわけた精神分裂病の症例—つかいわけの出現とその精神療法的意義をめぐって

著者: 渡辺雄三

ページ範囲:P.363 - P.369

I.はじめに
 精神科医(以下医師と呼ぶ)とClinical Psychologist(以下CPと呼ぶ)とが,1人の患者に対して並行して精神療法的関係を作ってゆく時,患者が治療者をつかいわけることが時としてみられる。
 特に,CPが精神医学的,疾病論的枠組から比較的自由な形で患者とのかかわりを作る時,患者が医師に対しては自分の内的体験を隠して,一見自覚的な,病識めいたことを話す一方,CPに対しては内的体験を率直に語り,しかもそれを医師には秘密にしてくれるようにと要請する事態が現われてくることがある。
 例えば,医師に対して「入院の時に話したことはやはり病気だと思う。自分の考えている理想の世界と現実の世界とのずれが大きいので,ああしたことを考えてしまう。もう幻聴も妄想も何もない」と語りながら,すぐあくる日のCPとの面接では,まったく華やかな幻聴,妄想体験を語り,それを医師には絶対に秘密にしておいてくれるように頼み,そうしたつかいわけが数カ月にわたって続いた症例(症例1)がある。
 吉松9)は,2人の治療者が1人の患者に対して,並行して精神療法的働きかけを行なうことを重複精神療法(multiple psychotherapy)と呼び,その問題点について考察しているが,本論では,重複精神療法において医師とCPとを明確につかいわけた2人の精神分裂病者の症例を取り上げ,つかいわけの出現と,その精神療法的意義とについて,若干の考察を試みることにする。

猫憑きの1例—その民俗学的,社会文化精神医学的研究

著者: 東村輝彦 ,   三好新之祐

ページ範囲:P.371 - P.377

I.はじめに
 アニミズムや太古思考は,現代社会に生きているわれわれの意識を支配する基層文化の中に残っていて迷信や俗信,祖霊信仰などに現われるが,この原始心性が特に顕著に現われるのは,島崎1)が指摘しているように分裂病などの精神病の場合であろう。なかでも憑依状態は,病理現象そのものの中に古代の心性をかいまみることができるという点で興味ある現象と言えよう。しかしながら,憑依状態に関する従来の研究は,精神病理学的ならびに社会文化精神医学的立場に立つものが多く,民俗学的観点を取り入れた研究に乏しかった。最近,佐藤ら2)は蛙憑きの2例について報告し,病態に現われる蛙と,民俗学的に言われている蛙には,その意味合いに類似性がみられ,病者の心性は,時に民俗学的事象を通して理解が深められることを指摘し,また,高江州ら3,4)は動物憑依を民俗心理および民間伝承との関係でとらえていこうとする見解を述べている。憑依状態に関するこのような研究は,民俗学と精神医学の学際的研究として小田ら5)が提唱している民俗精神医学Folkloristic Psychiatryの一分野に属するものであって,病者の心性ひいては古代の心性を理解していくうえで,今後さらに深められていくべき主題と言えよう。
 われわれは,猫になった,猫がのりうつったという猫憑きGaleanthropyと呼ぶべき状態に引き続いて,亡き祖母の霊がのりうつったという症例を経験したが,その憑依現象の中に,困難な現実からの逃避や窮境からの脱出の願望6,7)などの心的機制を認めるとともに,崇りや怨霊,祖霊,動物霊などに関して,古代の心性が析出していると思われる心意現象がみられたので,民俗学的ならびに社会文化精神医学的観点から検討を加えてみたいと思う。

入院アルコール中毒者の長期予後

著者: 片岡憲章 ,   遠藤雅之

ページ範囲:P.379 - P.386

I.はじめに
 わが国におけるアルコール中毒の臨床統計学的研究は,秋元の松沢病院における研究が最初であると考えられるが,当時はアルコール中毒者はむしろ稀なものと考えられていたようである。しかし,戦後の経済復興に伴うアルコール飲料消費の増加は,結果的にアルコール中毒者の増加を生ぜしめるに至り,その実態についての報告13〜16)も数多くなされるようになってきた。また,最近アルコール中毒者の治療予後に関する報告10,17〜19,21,22)がみられるようになり,予後に関連する因子として,特に社会的因子の重要性が指摘されている。しかしながら,いずれの報告も比較的短期間の予後調査資料が中心であり,現在なおアルコール中毒者の長期予後については不明であるといっても過言ではないと考えられる。
 われわれは,一地方精神病院におけるアルコール中毒者の診療場面において,再入院を繰り返す症例が高度の精神的身体的障害と,さらには社会不適応状態を呈し,悲惨な状況に落込んでいく過程を観察するに及んで,その予後が不良であるという印象を強く抱いている。しかし,一方では入院治療後に当院を退院したままの症例がいかなる転帰をとっているのかという素朴な疑問も抱いている。
 そこで,このような疑問を明らかにするために当院へ入院歴を有するアルコール中毒者の実態について既に報告7)を行なっているが,今回は当院入院歴を有する全アルコール中毒者の予後調査を行ない,その横断面的にみた長期予後について主に検討を加えたので報告する。

双生児の一方にみられた入浴てんかん症例—特に出産時障害との関連について

著者: 伊藤陽 ,   栗田勇 ,   今野公和

ページ範囲:P.387 - P.394

I.はじめに
 入浴が直接の誘因となって,てんかん発作が引き起こされる現象は,入浴てんかん(hot water epilepsy)などの名称で今までに世界で約80例の報告がみられる。入浴てんかんでは温覚刺激と触覚刺激が発作誘発に重要な役割を果たしており4)体性感覚刺激によって発作が誘発される体性感覚てんかん(somatosensory epilepsy)の範疇に属する反射てんかん(refiex epilepsy)であると考えられる11)。体性感覚以外の知覚刺激によって引き起こされる反射てんかんには,読書てんかん(reading epilepsy),言語性てんかん(language-induced epilepsy),聴原性てんかん(audiogenicepilepsy)などが知られており,さらに特殊な型として触覚性驚愕てんかん(startle epilepsy inducedby tactile)があるが,いずれも反射てんかんとして類似のメカニズムによって起こってくることが推定される3)
 本邦における入浴てんかんは大沼ら9,10)による3症例がある。今回われわれは双生児の一方に入浴てんかんのみられた症例を経験したのでその臨床病像を報告する。またこの症例自体は出産時障害の既往は明らかでなかったが,発作を有しないもう一方の児には出産時障害によると思われる右上肢の麻痺と脳波異常を認めたので,出産時障害と入浴てんかんとの関連について若干の考察を行ない,さらにわれわれの症例と従来の報告例とを比較しながら入浴てんかんの病態について検討を加えたい。

周期性傾眠症の7例—特に臨床像と経過の考察を中心として

著者: 小川一夫 ,   田中守 ,   中沢正夫

ページ範囲:P.395 - P.405

I.はじめに
 周期性傾眠症は1925年,Kleine1)によって初めて報告されたが,1936年にはLevin2)がこれらの中に過食を伴う一群の存在に注目し,periodic somnolence and morbid hungerなる症候群を提唱した。この症候群は1942年に,CritchleyとHoffman3)によってKleine-Levin Syndrome(以後KLSと略記す)と名付けられたが,現在までのところ周期性傾眠症とKLSの関係や,それらの病因,症状の評価などについての見解は未だ一致していないのが実情である。最近,われわれは周期性傾眠症と考えられる7症例(このうち3例は発病後12年以上経過しておりほぼ治癒したと思われる症例)を観察する機会を得たので,これを報告し,特にその臨床症状の特徴と,発病以後の臨床経過の特徴について考察を加えてみたい。

脳脚幻覚症が疑われた1症例

著者: 竹下久由 ,   挾間秀文 ,   川原隆造 ,   深田忠次

ページ範囲:P.407 - P.414

I.はじめに
 脳脚幻覚症hallucinose Pedonculaireは,J. Lhermitte16)(1922年)によりはじめて報告され,ついでVan Bogaert(1927年)により組織病理学的検討が加えられた1)。本幻覚症は脳脚部の病変に対応する身体的所見と,夕暮から夜間にかけて出現する幻視を主徴とする幻覚症状,睡眠リズムの障害などを特徴とした比較的稀な幻覚症である。わが国でも脳脚20),脳橋13),赤核黒質18),橋被蓋部11)などに病変をもった類似の症例が報告されており,また本幻覚症と密接な関連をもつ間脳症候群における幻覚やナルコレプシーの幻覚などについても本多12),臺ら26)の詳細な報告がある。
 著者らは脳脚幻覚症と思われる1症例に,終夜睡眠ポリグラフィを行なう機会を得たので本例を紹介し,幻覚症状の出現と睡眠機構との関連などにつき若干の考察を加えて報告する。

脊髄造影術後,頭蓋内に造影剤が残存し,幻覚妄想状態を呈した2症例

著者: 内藤明彦 ,   和知学 ,   関郁夫 ,   中村忠男

ページ範囲:P.415 - P.420

 頭蓋内に脊髄造影剤の遺残がみられ,幻覚妄想状態を呈した2症例について報告した。両例とも脊髄造影術施行後に精神症状が発現し,発症年齢はともに40歳以降の遅発性症例であった。CTスキャンで症例1に脳萎縮が認められた。脳内に残存する造影剤がlipiodo1であると推定されたことから精神症状の発現と1ipiodolの脳内遺残との間に関連がある可能性について考察を行なった。

神経遮断剤惹起性遅発性ジスキネジアに対するCyproheptadineの効果の二重盲検法による検討

著者: 越野好文 ,   山口成良 ,   倉田孝一 ,   細川邦仁

ページ範囲:P.421 - P.426

 不活性プラセボーを対照薬として,CHDの薬剤性遅発性ジスキネジアに対する臨床効果を二重盲検法で比較した。
 対象は精神病院入院中の慢性患者42人で,年齢・性別およびジスキネジアの重症度を組み合わせて,2人で1組とし,21組作った。各組の一方にCHD,他方にPLを無差別に割りつけた。各群のジスキネジアの重症度は「高度」4人,「中等度」9人そして「軽度」8人であった。薬剤は4週間投与した。4週後に,CHD群では2段階の改善を示した例(+2)が3人,1段階の改善を示した例(+1)が11人で,不変は7人であった。PL群では十2はなく,+1が7人で,不変が12人であった。悪化例が1人,脱落例が1人みられた。すなわち,CHDはPLに比べて,ジスキネジアに対して,有意な抑制効果を示した。重篤な副作用はみられなかった。
 CHDのジスキネジア抑制効果は,薬物投与中のみにみられることが多く,CHD中止後も抑制効果が持続した例は少なかった。また,4週間の投薬期間中に,最初みられた抑制効果が次策に失われた例があった。

短報

Estazolamによる薬剤過敏性肝障害の1例—リンパ球刺激試験による起因薬剤の確認

著者: 斎藤英二 ,   北見啓之

ページ範囲:P.427 - P.429

I.はじめに
 向精神薬による薬剤性肝障害は,使用されはじめた初期より多くの報告1〜3)が行なわれているが,薬剤の種類量と肝障害との関係,出現率などについては必ずしも一定の所見は得られていない。今回,向精神薬療法中に発熱,黄疸が出現し,諸検査により薬剤過敏性肝障害と診断された1例について,リンパ球刺激試験(LST)を行ない起因薬剤を確認したので,若干の考察を加えて報告する。

古典紹介

Marc Dax:Lesions de la moitie gauche de l'encephale coïncidant avec l'oubli des signes de la pensée〔Gazette Hebdomadaire de Médecine et de chirurgie, Paris, 259-260, 1865〕

著者: 杉下守弘

ページ範囲:P.431 - P.436

 1800年9月,私は以前に騎兵隊長であった男と知り合いになった。彼は,ある戦闘中にサーベルの一撃で頭部を負傷し,その後,物事の記憶は完全に保たれているのに,単語の記憶(la mémoire des mots)に重大な変化を蒙った。
 2つの記憶の間のはっきりした差異のために,私はその原因を知りたいと熱望した。

紹介

Schou, M. and Weinstein, M. R. 著 妊娠,出産,授乳期間中のリチウム維持療法の問題点

著者: 江原嵩 ,   渡辺昌祐

ページ範囲:P.437 - P.440

 妊娠中の薬物療法は母親と胎児の2人について考慮せねばならないが,両者の利益は必ずしも一致せず,一方に重きを置いて考えると他方には危険が及ぶというむずかしいところがある。維持療法を目的として投与されている薬剤については特に重要であり,胎児は持続的に薬剤にさらされているが母親は健康と生活を続けるために必須である場合が多い。
 予防的リチウム療法が妊娠可能な年齢の女性に施行されることが多いが,この場合に催奇形性が問題となってくる。動物実験の結果を,人に適用することは安全ではない。それゆえ,われわれは1968年にいわゆる「Li-baby集計」を発足させた。これは当初はスカンジナビア地方の人々のみを対象としていたが,後に世界的規模のものとなった(Schou 1969:Schou, et al 1973a:Weinstein and Goldfield 1976)。「Li-baby」とは,少なくとも妊娠の初めの3カ月間にリチウムの投与を受けていた母親から生まれた子供のことであり,この3カ月間というのは胎児の形態発生が起こる期間である。多くの国々の医学雑誌や専門家会合で注意を喚起して,奇形があっても正常児であってもLi-babyの報告を要請した。表1は集計の現在の状態である。

追悼

下田光造先生を偲ぶ

著者: 王丸勇

ページ範囲:P.442 - P.443

 下田光造先生は鳥取県の御出身で,明治18年3月14日のお生まれである。四高から東京大学医学部に入学,明治44年3月卒業とともに精神病学教室の副手,助手,東京府巣鴨病院医員嘱託となり,大正6年4月には講師,8年4月から巣鴨病院医長,ついで松沢病院医長として勤務された。
 大正10年5月慶応大学医学部教授に就任,同年12月医学博士の学位授与,12年5月独墺留学,14年12月九州大学医学部教授に転じ,昭和20年9月停年まで勤務,この間医学部長,病院長を歴任された。その後は米子医学専門学校,米子医科大学,鳥取大学の校長,学長を経て昭和32年7月退官。余生は米子市皆生で悠々自適の生活を送られた。

菅修先生を偲ぶ

著者: 高橋彰彦

ページ範囲:P.444 - P.445

略歴
明治34年4月 広島県に生まる
昭和2年   北海道帝国大学医学部卒業,東京府立松沢病院医員
  16年   神奈川県立芹香院院長
  24年   神奈川県立ひばりが丘学園園長兼務,この間,日本精神薄弱児愛護協会再建,神奈川県精       神薄弱児親の会結成,日本精神科看護協会設立などに尽力
  33年   国立秩父学園初代園長
  30年1月〜36年12月 日本精神薄弱者愛護協会会長
  36年12月 米国ケネディ大統領に招かれ,精神薄弱に関するパネルに出席
  41年   日本精神薄弱研究協会創立,会長となる
  46年   国立コロニーのぞみの園(心身障害者福祉協会)初代理事長,毎日新聞社社会福祉顕彰
  47年   勲二等旭日重光章
  49年   社団法人日本精神薄弱者福祉連盟創立,会長となる
  50年   国立コロニー退職
  50年〜52年 アジア精神簿弱者福祉連盟初代会長
  51年   朝日社会福祉賞
  53年12月15日 逝去 享年77歳,従三位に叙せられる

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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