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研究と報告
2人の治療者をつかいわけた精神分裂病の症例—つかいわけの出現とその精神療法的意義をめぐって
著者: 渡辺雄三1
所属機関: 1松蔭病院
ページ範囲:P.363 - P.369
文献購入ページに移動I.はじめに
精神科医(以下医師と呼ぶ)とClinical Psychologist(以下CPと呼ぶ)とが,1人の患者に対して並行して精神療法的関係を作ってゆく時,患者が治療者をつかいわけることが時としてみられる。
特に,CPが精神医学的,疾病論的枠組から比較的自由な形で患者とのかかわりを作る時,患者が医師に対しては自分の内的体験を隠して,一見自覚的な,病識めいたことを話す一方,CPに対しては内的体験を率直に語り,しかもそれを医師には秘密にしてくれるようにと要請する事態が現われてくることがある。
例えば,医師に対して「入院の時に話したことはやはり病気だと思う。自分の考えている理想の世界と現実の世界とのずれが大きいので,ああしたことを考えてしまう。もう幻聴も妄想も何もない」と語りながら,すぐあくる日のCPとの面接では,まったく華やかな幻聴,妄想体験を語り,それを医師には絶対に秘密にしておいてくれるように頼み,そうしたつかいわけが数カ月にわたって続いた症例(症例1)がある。
吉松9)は,2人の治療者が1人の患者に対して,並行して精神療法的働きかけを行なうことを重複精神療法(multiple psychotherapy)と呼び,その問題点について考察しているが,本論では,重複精神療法において医師とCPとを明確につかいわけた2人の精神分裂病者の症例を取り上げ,つかいわけの出現と,その精神療法的意義とについて,若干の考察を試みることにする。
精神科医(以下医師と呼ぶ)とClinical Psychologist(以下CPと呼ぶ)とが,1人の患者に対して並行して精神療法的関係を作ってゆく時,患者が治療者をつかいわけることが時としてみられる。
特に,CPが精神医学的,疾病論的枠組から比較的自由な形で患者とのかかわりを作る時,患者が医師に対しては自分の内的体験を隠して,一見自覚的な,病識めいたことを話す一方,CPに対しては内的体験を率直に語り,しかもそれを医師には秘密にしてくれるようにと要請する事態が現われてくることがある。
例えば,医師に対して「入院の時に話したことはやはり病気だと思う。自分の考えている理想の世界と現実の世界とのずれが大きいので,ああしたことを考えてしまう。もう幻聴も妄想も何もない」と語りながら,すぐあくる日のCPとの面接では,まったく華やかな幻聴,妄想体験を語り,それを医師には絶対に秘密にしておいてくれるように頼み,そうしたつかいわけが数カ月にわたって続いた症例(症例1)がある。
吉松9)は,2人の治療者が1人の患者に対して,並行して精神療法的働きかけを行なうことを重複精神療法(multiple psychotherapy)と呼び,その問題点について考察しているが,本論では,重複精神療法において医師とCPとを明確につかいわけた2人の精神分裂病者の症例を取り上げ,つかいわけの出現と,その精神療法的意義とについて,若干の考察を試みることにする。
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