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雑誌詳細

文献概要

特集 創刊20周年記念 第1部

履歴現象と機能的切断症状群—精神分裂病の生物学的理解

著者: 臺弘12

所属機関: 1山田病院 2社会福祉法人創造印刷

ページ範囲:P.453 - P.463

Ⅰ.緒言
 分裂病は原因のわからない病気だとよく言われている。しかしこの言い方は正確ではない。われわれは,分裂病といわれる疾患の発現と経過の連鎖のうち,いくつかの輪を知っており,その過程をかなり見通すことができ,それらに対してある程度有効な治療的手段をもっている。笠原22)は分裂病成因論として11の仮説を数え上げているが,そこに混乱をみることも論拠の豊かさをみることもできるのである。現在,われわれに未開の最大の領域は,分裂病の病態生理学的な分野であってこれがわからないからこそ,仮説はばらばらでつながらず,疾患を全体として理解し,治療的努力をその中に正しく位置づけるのがむずかしいのである。
 分裂病の理解には大きな物語が必要である。分裂病について人間学的な観点や社会心理学的側面から述べられた物語はしばしば魅力的である。だが,「目的や願望から物事を解釈しない」ことと,「経験に照らし合せて推論を検証する」(そしてその上で新たな推論を構築する)という科学的方法の要件を満たさない限り46),物語はフィクションの域を出ることはできない。分裂病の生物学的理解には,精神病理学的な記述を生物学的用語に翻訳し,さらに実験的な接近を可能にするようなモデルをつくることが必要である。本論文は,私の臨床的経験と実験的研究,および最近の精神生理学的,精神薬理学的知見をもとにして,なるべく適用の広い生物学的仮説を組立てようとしたものである。私はすでに「分裂病症候論の統一的理解をめざして48)」という論文を書き,最近また本論の要約ともいうべき小論49)を書いたが,本論文がこれらと重複する点のあることをお許しいただきたい。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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