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特集 精神分裂病の遺伝因と環境因
遺伝モデルに関する仮説(展望)
著者: 阿部和彦1 小田昇2
所属機関: 1産業医科大学精神医学教室 2大阪市立大学神経精神医学教室
ページ範囲:P.713 - P.719
文献購入ページに移動双生児での分裂病に関する一致率の調査,および分裂病の親から生まれて養子に行った人々の追跡調査の結果の発表などにより,分裂病への易罹病性(なりやすさ)には個人差があり,遺伝的な因子が何らかの影響を与えているという説が多くの研究者に支持されるようになってきた。
分裂病の一卵性双生児での一致率は最近の報告では30%前後のものが多い。一致率は双生児の一人が発病した後,追跡調査された年数が長ければ上昇する傾向があるので1),最近報告された一致率も追跡期間を延長すれば少しは増加することが予想されるが,いずれにしろ100%からはほど遠い値であろう。したがって分裂病になりやすい「素質」を持った人々の一部が発病すると考えるのが適当であろうが,この素質については脳内,または他の器官をも含む代謝上の特徴を想定している人々,ある種の性格特徴が遺伝する結果分裂病になりやすくなると主張する人々などがあり,種々の仮説がある。
後者の例として,Bleuler2)は,衝動や興味を調和させて,意志や態度を形成する能力の低下という形で,またMednick23)によれば,まわりの人人の不親切さに対する敏感さが遺伝し,このような特徴をもっている結果として分裂病になりやすくなるという考えである。
このような素質が如何にして親から子へとうけつがれるかが次に問題となる。素質が如何なるものかという問題と同様,素質の遺伝形式についても現在のところ結論は出ていない。この文では,現在までに出された仮説の主なものをあげ,それぞれ実際に観察された所見とどのような点で合致または矛盾するかについて簡単に述べてみようと思う。
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