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文献概要
特集 精神分裂病の遺伝因と環境因
分裂病家族のTransmission論
著者: 川久保芳彦1
所属機関: 1日本大学医学部精神神経科
ページ範囲:P.747 - P.754
文献購入ページに移動I.はじめに
分裂病のtransmissionについて述べる場合,分裂病の成因論との関係は重要である。
元来,transmissionといえば遺伝学的研究と同義的に考えられ,古典的遺伝学的研究は精神医学的診断を基礎とし,染色体的レベルの意味でのtransmissionを診断の一致という面から把握されてきた。
しかし,分裂病の診断そのものが多様化するにつれ,遺伝学的研究も精神医学的診断を基礎とするよりも,精神病理学的・症候論的様相を呈する状態のスペクトルとして取り上げ,その面での共通性としてtransmissionをとらえてゆく傾向を示して来ている。つまり,遺伝的立場をとる研究者も分裂病のtransmissionというよりも,子供のもつvulnerabilityの素因を親に求めるという視点の転換が行なわれてきているように思える。
かような視点の転換は古典的遺伝学的研究にみられる比較的単一的transmissionの考え方からより複雑な考え方へと導くだろう。
特に分裂病の家族研究が進むにつれ,環境的要因としての親子関係―特に対人関係面―が重要視されるに従って,transmissionの考え方はより複雑さを呈してこよう。例えばtransmissionは親のもつ形がそのまま子供に伝わると考えるのが基本的であろうが,対人関係を重要視した場合,相称的相互関係ばかりでなく補完的相互関係も無祝できず,transmissionの一つの型として広く考えねばならないし,また,Wynne, L. C. 1)のいう家族における意味の注入と隠匿the injection and the concealment of meaningや,親から子供に対する意味の排除forclusionの概念などもtransmissionの中に含まれるだろう。また,transmissionを個から個へという考え方ばかりでなく,集団から個へというtransmissionも考えられるだろう。
かようにながめてみると,分裂病の成因に関する遺伝学説と環境説とが接近し,両学説を含めた考え方―例えば後成説Epigenesisの如く―が進むにつれ,分裂病の成因とtransmissionとの関係は複雑となり多様化してこよう。
TransmissionについてFleck, S. 2)は家族におけるtransmissionとして4つのレベルをあげ説明している。
そこで,参考の意味もあり,Fleckの4つのレベルを簡単に列記してみよう。
A)細胞および細胞に準ずるレベル
1)遺伝
2)生前の環境
B)生物学的・心理学的レベル
1)母親の行動を通してのtransmission
2)ボディ・イメージと自己境界に関する概念化
3)言語と思考
C)関係のもち方の指導
1)モデル
2)文化的
3)同輩のいる環境への準備と指導
D)社会化
1)コミュニケーション
2)成人-同一性のトレアランス
3)他人への世話
4)家族からの解放
以上である。
このFleckの4つのレベルをみても,transmissionの考え方が単一的レベルからより複雑なレベル,そして,個人の発育過程に沿ったより深いレベルからより浅いレベルまでに及んでいることが理解されよう。
ところで,筆者は本小論において家族のtransmission論について述べなければならないが,上記の如くtransmissionは複雑であると同時に,transmissionの機制や様相については明確とはいえない。
したがって,transmissionそのものを述べることは甚だ困難である。
そこで,今回はいままで行なってきた家族研究の資料からtransmissionとして考えられる資料を取り出し,transrnissionを考える場合の問題点を提起するにとどめ,transmission論を述べるという重責を果たしたいと思う。
なお,分裂病のtransmissionについて述べる場合,分裂病の病型が常に問題になってくる。
筆者がこれから述べる資料はすべて比較的急性に発病してさまざまな症状が発現する時期があり,それに続いて,あらわな症状の消退する時期が比較的長く続き,やがて,再発するような経過をとる病型の分裂病患者とその家族の資料である。したがって,これから述べるtransmissionに関する記述はすべての分裂病について述べているわけではないことをはじめにお断わりしなければならない。
分裂病のtransmissionについて述べる場合,分裂病の成因論との関係は重要である。
元来,transmissionといえば遺伝学的研究と同義的に考えられ,古典的遺伝学的研究は精神医学的診断を基礎とし,染色体的レベルの意味でのtransmissionを診断の一致という面から把握されてきた。
しかし,分裂病の診断そのものが多様化するにつれ,遺伝学的研究も精神医学的診断を基礎とするよりも,精神病理学的・症候論的様相を呈する状態のスペクトルとして取り上げ,その面での共通性としてtransmissionをとらえてゆく傾向を示して来ている。つまり,遺伝的立場をとる研究者も分裂病のtransmissionというよりも,子供のもつvulnerabilityの素因を親に求めるという視点の転換が行なわれてきているように思える。
かような視点の転換は古典的遺伝学的研究にみられる比較的単一的transmissionの考え方からより複雑な考え方へと導くだろう。
特に分裂病の家族研究が進むにつれ,環境的要因としての親子関係―特に対人関係面―が重要視されるに従って,transmissionの考え方はより複雑さを呈してこよう。例えばtransmissionは親のもつ形がそのまま子供に伝わると考えるのが基本的であろうが,対人関係を重要視した場合,相称的相互関係ばかりでなく補完的相互関係も無祝できず,transmissionの一つの型として広く考えねばならないし,また,Wynne, L. C. 1)のいう家族における意味の注入と隠匿the injection and the concealment of meaningや,親から子供に対する意味の排除forclusionの概念などもtransmissionの中に含まれるだろう。また,transmissionを個から個へという考え方ばかりでなく,集団から個へというtransmissionも考えられるだろう。
かようにながめてみると,分裂病の成因に関する遺伝学説と環境説とが接近し,両学説を含めた考え方―例えば後成説Epigenesisの如く―が進むにつれ,分裂病の成因とtransmissionとの関係は複雑となり多様化してこよう。
TransmissionについてFleck, S. 2)は家族におけるtransmissionとして4つのレベルをあげ説明している。
そこで,参考の意味もあり,Fleckの4つのレベルを簡単に列記してみよう。
A)細胞および細胞に準ずるレベル
1)遺伝
2)生前の環境
B)生物学的・心理学的レベル
1)母親の行動を通してのtransmission
2)ボディ・イメージと自己境界に関する概念化
3)言語と思考
C)関係のもち方の指導
1)モデル
2)文化的
3)同輩のいる環境への準備と指導
D)社会化
1)コミュニケーション
2)成人-同一性のトレアランス
3)他人への世話
4)家族からの解放
以上である。
このFleckの4つのレベルをみても,transmissionの考え方が単一的レベルからより複雑なレベル,そして,個人の発育過程に沿ったより深いレベルからより浅いレベルまでに及んでいることが理解されよう。
ところで,筆者は本小論において家族のtransmission論について述べなければならないが,上記の如くtransmissionは複雑であると同時に,transmissionの機制や様相については明確とはいえない。
したがって,transmissionそのものを述べることは甚だ困難である。
そこで,今回はいままで行なってきた家族研究の資料からtransmissionとして考えられる資料を取り出し,transrnissionを考える場合の問題点を提起するにとどめ,transmission論を述べるという重責を果たしたいと思う。
なお,分裂病のtransmissionについて述べる場合,分裂病の病型が常に問題になってくる。
筆者がこれから述べる資料はすべて比較的急性に発病してさまざまな症状が発現する時期があり,それに続いて,あらわな症状の消退する時期が比較的長く続き,やがて,再発するような経過をとる病型の分裂病患者とその家族の資料である。したがって,これから述べるtransmissionに関する記述はすべての分裂病について述べているわけではないことをはじめにお断わりしなければならない。
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