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特集 幻覚
19世紀以降における幻覚概念の展開
著者: 大橋博司1
所属機関: 1京都大学医学部精神医学教室
ページ範囲:P.5 - P.10
文献購入ページに移動I.はじめに
「幻覚」hallucinationの語源はギリシア語のαλνω(またはαλνω)からであり,Liddle & Scottの辞書を引いてみると,“to be deeply stirred, excited”とある。引用例としてはHomerosにαλνω=in mad passion,また医学的用語としてはHip Pocratesにto be restless,名詞形としてδαλνsはagitationとなっている。ラテン語はālūcinor(またはhallūacinor)で,やはりto wander in mind,talk unreasonably,etc. があり,名詞形としてalucinatioも挙げられている。
現代(近代)精神医学における幻覚の古典的定義として「対象なき知覚」“perception sans objet”という句がよく書かれているが,この語が誰の言葉であるのか判明でない。しばしばEsquirolの名が挙げられるが,少なくとも彼の著書の「幻覚」の項には,この言葉を発見することができない。またBall(1890)に由来するとされるが(Porot),Eyの指摘によると,これよりもずっと遡るようである。たとえば,Farletの“Maladies mentales”(1864)には「幻覚とは,しばしば繰り返されるように,対象なき知覚perception sans objetである」と書かれているという。
19世紀以降の(主としてフランス語圏の)幻覚概念の展開,変遷をここで概観するこにあたって時間的な制限や文献収集の困難さなどもあり,本稿の多くをEyの大著「幻覚概論」“TraitedesHallucinations”(1973)に依らざるをえなかった。不本意ながら諒とされたい。
「幻覚」hallucinationの語源はギリシア語のαλνω(またはαλνω)からであり,Liddle & Scottの辞書を引いてみると,“to be deeply stirred, excited”とある。引用例としてはHomerosにαλνω=in mad passion,また医学的用語としてはHip Pocratesにto be restless,名詞形としてδαλνsはagitationとなっている。ラテン語はālūcinor(またはhallūacinor)で,やはりto wander in mind,talk unreasonably,etc. があり,名詞形としてalucinatioも挙げられている。
現代(近代)精神医学における幻覚の古典的定義として「対象なき知覚」“perception sans objet”という句がよく書かれているが,この語が誰の言葉であるのか判明でない。しばしばEsquirolの名が挙げられるが,少なくとも彼の著書の「幻覚」の項には,この言葉を発見することができない。またBall(1890)に由来するとされるが(Porot),Eyの指摘によると,これよりもずっと遡るようである。たとえば,Farletの“Maladies mentales”(1864)には「幻覚とは,しばしば繰り返されるように,対象なき知覚perception sans objetである」と書かれているという。
19世紀以降の(主としてフランス語圏の)幻覚概念の展開,変遷をここで概観するこにあたって時間的な制限や文献収集の困難さなどもあり,本稿の多くをEyの大著「幻覚概論」“TraitedesHallucinations”(1973)に依らざるをえなかった。不本意ながら諒とされたい。
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