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文献詳細

雑誌文献

精神医学22巻1号

1980年01月発行

特集 幻覚

分裂病幻覚についての一試論

著者: 小出浩之1

所属機関: 1名古屋大学医学部精神医学教室

ページ範囲:P.17 - P.25

文献概要

I.はじめに
 すでに諸家は繰り返して,分裂病幻覚に精神病理学的に興味深い現象がいくつか認められることを指摘しているが,筆者はそれらの中でも特に次のような点に日頃から関心を持つ。たとえば「私の口で他人が喋る」とか「私の頭で他人が考える」などという訴えである。一言でいえば「自己の内で他の主体が行動したり,体験したりする」という形の自己の主体性の体験の障害である。また幻覚が感覚性,身体性を持つことも興味のある事実と思える。さらには幻聴の相手が「あらかじめすべて自分のことを知っている」とか「自分の先を考えていく」などという表現がされるが,これは時間性の障害とみることができるだろう。また幻聴は意識野的には,その中心でなく,辺縁ないし背景的なものが顕在化してくること,意味方向的には,個人差はあるにしても,大まかには共同社会からも自己の生活史からも疎外されるという方向性をもつこと,これらを精神病理学的に興味ある事実と思う。
 さてこの小論は,分裂病幻覚の以上のような様様な特徴を統一的,有機的に把握しようとする一つの試みである。その際「主体性の体験」ということを議論の出発点にした。われわれの体験に備わっているところの,その体験をほかならぬ「私が」しているという潜在的で自明な主体性のことである。この主体性を成り立たせている基本的な体制として,世界との「共鳴」というあり方を考えてみた。この共鳴体制ということを軸にして,妄想知覚との比較の上で,幻覚の様々な特徴を統一的に把握しようと試みたものである。なお最後に幻覚や妄想知覚を持ち得る条件と病態の慢性化についても少々触れた。
 あらかじめ幻覚の定義について述べなければならない。色々な定義があり得ると思うが,ここでは自己の思考・感情・気分・身体など「自己」という内的領域における病的体験を幻覚とする。またいうまでもなくJaspersからBlankenburg,木村敏にいたる多くの精神病理学者,さらにはMerleau Ponty等何人かの哲学者の主張から少なからぬ影響を受けているが,文中いちいちに出典を附さずにすませることをあらかじめお断りしておく。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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