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特集 向精神薬をめぐる最近の諸問題
向精神薬の適用と問題点—精神神経薬理学からみた抗分裂病薬の作用機序
著者: 森浩一1 川北幸男1
所属機関: 1大阪市立大学医学部神経精神医学教室
ページ範囲:P.125 - P.136
文献購入ページに移動クロールプロマジンの精神医療への導入以来,精神薬理学の分野での目覚しい進歩は,神経化学,神経生理学,神経解剖学などの基礎的諸研究の結びつきからもたらされたといえる。そこでは,脳における神経伝達物質を中心とした代謝系の諸変化を明らかにするとともに,向精神薬の作用機序を理解するための様々な努力がなされてきた。この向精神病薬の作用機序の研究は,主に動物実験によらなければならないのは当然のことながら,精神疾患の生化学的な理解のためには,精神薬理学は,現在もっとも有効な研究方法の一つになりつつある。ここでは向精神薬のうち,とくに分裂腐を対象とする抗分裂病薬をとりあげて,最近の知見をみてゆきたい。
種々の系列の抗分裂病薬に共通した,ドーパミン作動遮断という作用機序から,精神分裂病の病因については,ドーパミン過剰説が諸説のなかでもっとも有力であるように考えられて来ていたが,ここ数年間に,慢性分裂病脳の神経化学的分析がなされ,脳のモノアミン含量に著るしい増加はみられないという重要な結果が相次いで報告されている。他方,放射活性化された神経伝達物質や,薬物の受容体への特異的結合を利用した,新しい受容体標識法を用いて慢性分裂病脳をしらべると,シナプス後部ドーパミン受容体の感受性の増加がみられ,これが分裂病の病因に関係があるのではなかろうかという報告もある。これらの結果を考えるとき,現時点では,分裂病の病因について,従来のシナプス前部ノイロンのモノアミン代謝を中心とした考え方から,シナプス後部ノイロンの受容体を中心とした考え方にかわっていく転向点にあるように思われる。この時点で,分裂病の病因に関する仮説と,抗分裂病薬の作用機序という交点で,受容体を中心として検討を加えることにより,今後の新しい発展への方向づけが期待できるのではなかろうか。
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