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雑誌目次

論文

精神医学22巻5号

1980年05月発行

雑誌目次

特集 睡眠研究—最近の進歩 巻頭言

特集にあたって—睡眠研究と精神医学

著者: 大熊輝雄

ページ範囲:P.464 - P.465

 1979年7月東京で第3回国際睡眠学会が開催され,海外諸国からの約150人を含む約500人の睡眠研究者が参会して,現在における睡眠研究の最先端の諸問題について活発な発表と討論が行なわれた。唾眠に関する専門の国際学会が欧米以外の地域,とくに日本で行なわれたことは,睡眠研究が独立した学際的な研究分野としての地歩を確立したことを意味するとともに,わが国における睡眠研究の水準が海外でも高く評価されていることをあらわしているといえよう。
 東京での国際睡眠学会では,269題の一般演題のほかに,「仏教経典における夢と睡眠」と題する特別講演と,それぞれ4つのシンポジウム,ワークショップが行なわれた。シンポジウムの主題は,「細胞レベルでの睡眠の機序」,「生物リズムとしてのヒトの睡眠」,「睡眠ポリグラムの自動分析—その方法と応用」,「睡眠・覚醒リズムの発現機序と同調因子」,ワークショップの主題は,「睡眠薬:評価法,新しい方法論,使用法,乱用」,「睡眠障害研究最近の進歩」,「睡眠の神経内分必学最近の進歩」,「睡眠研究の現状と将来の方向」であり,これらは,最近における睡眠研究の中心課題をほぼ網羅したものといってよいであろう。

生体リズムとしてみたヒトの睡眠

著者: 遠藤四郎 ,   福田秀樹

ページ範囲:P.466 - P.476

I.はじめに
 ヒトの成人は夜暗くなると眠りにつき,朝明るくなると目覚め活動する生活を繰り返している。この睡眠-覚醒リズムは,数多くの生体リズムの中でも代表的なものである。この睡眠-覚醒リズムを変化させること―例えば夜勤後の昼の睡眠や時差のあるところでの睡眠―は容易なことではない。また,1日1回の睡眠ではなく,2日に1回の睡眠(infradian rhythm)や,1日に何回かの睡眠(ultradian rhythm)をさせるようにcircadian rhythmとしての睡眠-覚醒リズムをくずすと,心身の機能が低下してくる。Kleitman38)(1963)は,1日28時間の生活リズムで洞窟で生活したところ,この生活リズムに同調できず,覚醒時に眠くて仕方がなく,食事時間に食べられないことを報告している。生体リズムとしての心身の機能には,その機能が最大限に発揮され,最大値を示す時刻がある。例えば,体温は早朝に最低値を示し,午後から夕刻にかけて最大値を示す。このように100以上の生体機能は,その最大値を示す時刻がそれぞれ異なっており,その間にある関連をもっているが,昼夜逆転した生活では生理機能の間に非同期を起こす。この際には,通常最も能率のあがる時間に疲労を感ずることが起きる。
 睡眠-覚醒リズムは,あたかも24時間の明-暗に一致して起こっているようであるが,時間の手がかり(Zeitgeber,time cue)を除くと,ヒトの睡眠-覚醒リズムはフリーランを起こし,1日が25時間前後になり,必ずしも正しく24時間ではない。したがって,生体時計のoscillatorは,time cueに同調し(entrain),体外時間と同調している。一方フリーランの条件下で,体温は25時間前後の生体リズムを起こすのに,睡眠-覚醒リズムが33時間といったものもあるなど,生体リズム間に内的非同期のあることも明らかになり,ヒトではmultioscillator systemが推定されている。このような生体リズムと睡眠の関係について,circadian rhythmとしての睡眠-覚醒リズム,REM睡眠の日周リズム,ultradian rhythmとしてのNREM-REM睡眠からなる睡眠内周期(intra sleep cycle),外部時計と非同期時の睡眠,生体リズムとしての睡眠の最近の研究,臨床との関連について,以下で検討を加えていくことにする。

睡眠障害—睡眠過剰,睡眠時無呼吸,不眠などをめぐって

著者: 菱川泰夫 ,   飯島壽佐美

ページ範囲:P.477 - P.490

Ⅰ.睡眠障害の頻度
 今日では,先進工業国の人口の10%近くのものにかなり深刻な睡眠障害がみられ,それに一時的な不眠をしばしば体験する人を加えると,睡眠障害に悩んでいる人は20〜25%あるいはそれ以上にも達すると推定されている7,33,48,52)。わが国には,睡眠障害についての大規模な疫学的調査は見当らないが,一応は健康に社会生活を営んでいる300名の成人について調査したところ,そのうちの約20%になんらかの睡眠障害の訴えがみられたとの報告がある46)。このことからも,わが国においても睡眠障害は非常に多いものと推測される。
 睡眠障害には,不眠だけでなく,睡眠過剰もある。アメリカでは睡眠過剰のために悩んでいる人は10万人に近いと推定されている12,28)。この数値をわが国に当てはめてみると,人口がアメリカの半分として,わが国では約5万人が睡眠過剰に悩んでいることになる。この数値は実際よりも小さい可能性がある。藤沢市の高校生と中学生の全員を対象とした最近のHonda(1979)43)の調査によれば,昼間に著しいねむ気があり,ナルコレプシーが疑われたものは調査対象の0.16%にも達していた。更に,睡眠障害には夜尿,夢中遊行症,夜驚症などとさまざまなタイプのものがある。このように,睡眠障害に悩む人は非常に多く,しかも,その障害は非常に多様なのである。

小児の睡眠をめぐる諸問題

著者: 瀬川昌也

ページ範囲:P.491 - P.499

I.はじめに
 小児は発達過程にあることが特異的であり,小児期の睡眠を論ずる上にも,この特異性を考慮する必要がある。
 生物の発達過程にみる基本的行程は,個々の細胞群あるいは系の固有のパターンによる時間的空間的に連続した発達に加え,相異なる系の統合が加わり,より複雑な機構へと発展する。これを中枢神経系にあてはめると,空間的な神経伝達路の発達に伴い,時間的には,各神経細胞(群)の固有の活動—抑制サイクル,および,それらが統合される過程であり,早期に成熟する脳幹神経系に対する遅れて発達するより上位の中枢神経系からの抑制機構の発達を表わすといえる。
 一方,睡眠諸現象にみる発達の過程は,個々の現象が持続性に出現する状態から,活動・静止を繰り返すパターンに調整され,次いで,おのおの別個の現象が互いに相関を関連させ,より統合された段階へと進む。これは,発達段階における睡眠の研究が,生体の発達をより適確に表現し得ることを示唆している1)。特に,睡眠の諸要素が脳幹,中脳の神経核により直接的に支配されていることを考えると,睡眠各要素の発達を検索することは,それを支配する神経系の発達とともに,それに抑制性の統御を与えるより中枢の神経系の発達をみることとなり,それぞれの機能の正常,異常,また,発達の良否を判定するに有力な機会を与えてくれる。
 本項では,睡眠諸要素の発達およびその異常を,文献的に考察し著者等の知見を加え概説を試みた。

身体疾患と睡眠障害

著者: 片山宗一

ページ範囲:P.501 - P.508

I.はじめに
 疾病は夜間睡眠中にも休むことなく進展するが,睡眠の経過に伴う自律神経機能あるいは体液性因子の分泌動態の変化によって,その症状が大きく変容を受けることがある。その極端な場合が古くから,夜間の発作性疾患として内科領域で知られているものである。代表的な疾患として,循環・呼吸器領域では夜間心臓喘息,夜間狭心症,不整脈,気管支喘息,消化器疾患では十二指腸の夜間痛,逆流性食道炎の胸痛,また神経疾患では周期性四肢麻痺,restless legs syndrome,群発頭痛などの血管性頭痛,脳血栓の夜間発症などがある。夜間睡眠中には,自律神経トーヌスが睡眠段階に応じてtonicに変化し,とくにREM睡眠期にはautonomic stormといわれるほどの大きな変動がみられ,このほかに体動,呼吸,外来刺激その他によりphasicな変化が生じ,これらが心・血管系,呼吸器,消化管,泌尿器など広汎な自律神経機能に大きく影響するものと考えられる。本論文では代表的な夜間発作性疾患として夜間狭心症を中心に,その病態生理を述べ,次いで上記の他の疾患についても概観したい。
 また身体疾患による睡眠障害も不眠症の一因として重要な問題であり,同時に取り上げることにする。

睡眠薬研究の最近の動向

著者: 大熊輝雄

ページ範囲:P.509 - P.516

I.はじめに
 Benzodiazepine系薬物が睡眠薬として使用されるようになって以来,睡眠薬の主座はbarbituratesからbenzodiazepinesに移った観があるが,現在もなお,より良い睡眠薬の開発が必要であることはいうまでもない。
 理想的な睡眠薬の充たすべき条件としては,(1)十分な睡眠促進効果をもつこと,(2)できるだけ自然睡眠に近い睡眠を生じ,睡眠にひずみを与えないこと,(3)起床後の日中の精神活動,身体活動に障害を与えないこと,(4)連続使用しても耐性を生じないこと,(5)依存形成性がないこと,(6)毒性が低く過量使用のさいにも安全性が高いこと,(7)なるべく生体内に存在する物質であるかそれに近い物質であることなどが挙げられよう。
 このような条件を充たすすぐれた睡眠薬を開発するためには,これらの諸要因を正確に評価,検討するための方法を確立する必要がある。睡眠薬開発のさいの試験法についてはアメリカFDAの指針(「睡眠薬の臨床試験に関するFDA指針」,「薬剤の臨床試験に関するFDAの一般指針」)があるが,これはおよその方針を示したもので,この方面の諸研究の進歩に伴って補充されていくべきものと考えられる。
 本稿では,最近の睡眠薬研究の動向のうち,(1)新しい睡眠薬の開発,(2)睡眠薬が昼間の精神機能に及ぼす影響の研究,(3)ポリグラフィによる睡眠薬研究法の進歩などについてその概略を述べることにする。

睡眠,夢と精神病

著者: 中沢洋一 ,   大川敏彦

ページ範囲:P.517 - P.523

Ⅰ.精神病の睡眠
 1.精神分裂病の睡眠
 精神分裂病は発病の初期や,精神症状が悪化すると睡眠障害を伴うことが多い。それが精神症状によって二次的に生じたものか否かの判定は困難なことが多いにしても,精神分裂病の病態生理が不明の今日においては,その睡眠ポリグラフィー的研究を試みる価値はある。
 また,夢と精神分裂病の体験的世界の類似性も昔から多くの臨床家によって指摘されているが,REM睡眠の発見で夢の客観的,生理学的な研究の扉が開かれるようになって,精神分裂病の睡眠ポリグラフィー的研究が進められたという側面もある。たとえばFisher1)は精神分析学的な立場から,精神病や精神分裂病の症状は,REM睡眠が覚醒期に侵入した結果生じたという仮説を提唱した。彼は,精神分裂病では内在性のREM pressureが増加しているか,あるいはREM pressureに抵抗するエゴの弱体化があるのだと考えた。

睡眠ポリグラムの自動分析

著者: 古閑永之助

ページ範囲:P.525 - P.533

Ⅰ.まえがき
 睡眠のポリグラフ的記録は今日の睡眠研究の一般的基礎ともいえる技術で,脳波,心電図,筋電図,眼球電位図など複数の生理現象を同時・連続的に記録するという一見単純にみえる技法である。しかし近年の睡眠研究の輝かしい起点となったrapid eye movement,そしてREM-sleepの発見はまぎれもなくこのポリグラフ法の発展に伴うものであり,生理学の世界における一つの"コロンブスの卵"のような役割を果たした。
 ポリグラフ法の本質的意味は,複数の生理現象の間の関係を知ることであり,さらに生理現象の長時間にわたる変動を求めることである。例えば心電図や脳波において,それぞれの波形の解析は当然のことであるが,その2つの生理現象が覚醒と睡眠の各段階でどのような関係にあるのかを求め,さらに24時間にわたってどのように変動するのかを求めるというようなところにポリグラフの積極的な意味がある。この立場に立ってみると,睡眠の生理学的知識は決して豊かではなく,全般に概略的な知識を越えたものは未だ少ない。多現象の継時的変動の中に含まれる情報の量が著しく大きいことが解析を阻んできた。今日ポリグラフ的な方法が広く用いられるようになったのは,電子的処理技術の発展によって多量のデータ処理が実際に可能になってきたという背景がある。かつてはほとんど実行不可能であった莫大な処理量を高速度で行なうことができるようになった。しかしこれらの処理は,元来用手的計測,用手的計算などを土台にして発達してきたものであって,電子的処理装置や演算装置(広義のコンピュータ)を用いることによって何か直ちに異質の世界が造り出されるものと考える必要は無い。しかしまた一方で電子的処理装置が人間の能力を越える面を持っているのも事実で,特に計測について高い分解能(精密さ)を持つことと処理速度が桁外れに速いことは著しいメリットであろう。そしてこの能力を利用することにより,睡眠ポリグラムの解析についても用手的な方法ではまったく不可能な処理の領域が開けてきた。これらは用手的でないという意味で自動分析(解析)とも呼ばれるが,上に述べたように単に自動的に働くという意味のみではなく,精度や速度を高め,さらには莫大な作業量を扱い得るなどの面から,次々に新しい分析法や新しい情報が開拓されており,今後も一層の発展が期待される。

睡眠とホルモン分泌の相関—向精神薬投与の影響と精神神経疾患の際の変化

著者: 高橋康郎 ,   高橋清久

ページ範囲:P.535 - P.544

Ⅰ.ホルモン分泌の日内変動の特徴
 最近10年間にヒトの下垂体前葉ホルモンを中心に各種ホルモンの血中濃度の日内変動が詳細に検討され,次のような特徴のあることが明らかにされている。
 ①ほとんどすべてのホルモンは間歇的に短時間の分泌を繰り返していること。これはepisodic or pulsatile secretionと呼ばれる。②1日のなかでも,この間歇的分泌が多発する時間帯と稀発の時間帯とがホルモンによって決っているため,その血中濃度は一定の日周期変動を示すこと。③このホルモン分泌の日周期変動は睡眠覚醒リズムと密接な関係がある―リズム論からは一定の位相関係を持っていること。その関係の仕方はホルモンによって異なること。

睡眠・覚醒の神経機構—神経生化学的ならびに神経生理学的側面

著者: 融道男 ,   仙波純一

ページ範囲:P.545 - P.552

I.はじめに
 睡眠の機構を明らかにすることは,不眠などの睡眠障害を扱う臨床精神医学にとって大きな意義がある。従来神経生理学的手法で現象的記述がなされてきた睡眠研究に,神経生化学的,神経薬理学的な手段が導入されて,睡眠の機構を解明する気運が生じた。このようにして見出されたいくつかの事実を確かめるために,更に進歩した電気生理学的な手法が用いられるようになってきている。睡眠・覚醒リズムは動物に実験モデルを求めやすい点から自然科学的研究の好個の対象であり,一つの研究のモデルともいえる。筆者らは主として神経生化学的立場から研究を行なっているが,最近の神経生理学的知見をも含めて睡眠機構の研究の概況をまとめてみたい。

睡眠サーカディアン・リズムの発現機序

著者: 川村浩

ページ範囲:P.553 - P.559

Ⅰ.睡眠とサーカディアン・リズム
 動物の睡眠には,ほぼ1日の周期をもったリズム(サーカディアン・リズム)がみられる。ラットのように1日のうち何度も睡眠と覚醒を繰り返す動物でもそうであるし,ヒトのようにある程度成長すると夜まとめて連続的に眠る場合でも同様である。このような睡眠と覚醒の1日のリズムは,住んでいる環境の夜,昼の手がかりを動物が感受している場合平均して正確な24時間の周期を示す。しかしこの手がかりを取り去るとリズムの周期は正確な24時間ではなくなる。サーカディアンと命名されたのはこのためである。Richter15)はラットの車まわし運動を観察し多くの実験を行なった。ラットは夜間活動し,昼間は眠っている動物である。この車まわし運動は,ラットの両眼球を摘出し,光による昼夜の手がかりを失わせ,音や匂いなどの刺激による手がかりも与えないように注意して飼育しても大体24時間の周期のリズムを現わす。図1は井深6,9)によって記録されたラットの睡眠のサーカディアン・リズムである。周期が正確に24時間でないため眼球摘出前の対照記録では夜間睡眠が少ないパタンを示していたが,しだいにずれて,両眼球摘出45日目前後(3段目)では外界の夜に当る暗期に睡眠が多く,照明の与えられている明期に睡眠が少ない。つまりリズムの周期がこの場合24時間よりやや長いためしだいに睡眠のピークが後へずれて位相が反転したのである。このことはラットの体内にほぼ24時間の周期(この周期は個体によってかなり一定している)をもった時計が存在することを示している。つまり外界の手がかりなしにリズムが自由継続(フリーランニング)することは,体内時計の存在を現わす一つの証拠なのである。

仏教経典における夢と睡眠

著者: 藤吉慈海

ページ範囲:P.561 - P.566

 仏教の経典の中には夢について書かれている例は多いが,夢とは夢みている状態すなわちパーリ語のsupinanta,梵語のsvapnaの意である。夢の中で見た対象は実際には存在しないから,唯識学派では,対象の非存在visaya-abhāvaの譬喩として夢が用いられる。「唯識無境」などと言って,外界の享受は実体的なものであり得ないから,夢にたとえられる。また「夢・幻・空華」などと言って,夢は幻や空華(眼病のために見える幻影の花)などの錯覚とともに,実体性のないもののたとえとして用いられる。また「夢幻泡影の如し」と言って,夢は幻や水泡や影法師のように実体性のない,はかないもののたとえとして用いられている。また「夢定」と言って夢の中で見たものが,精神の安定した禅定中に見たものと似ているので,夢と禅定とは対比的に用いられることもある。
 要するに仏教では,夢(パーリ語spina,梵語svapna,チベット語rmi-lam)は睡眠中において心と心のはたらきが,その対境に応じて種々のことを見ることである。

睡眠諸学会の活動および海外における睡眠研究の施設

著者: 阿住一雄

ページ範囲:P.567 - P.576

Ⅰ.海外の睡眠学会と日本睡眠学会
 1.米国のAPSS睡眠学会 睡眠の科学的研究はすでに前世紀末からなされており,1949年には上行性網様賦活系,視床汎性投射系の存在が注目され睡眠と覚醒の問題について新しい概念が導入された。しかし,今日の睡眠研究の隆盛をもたらしたのは,1953年のDrs. Aserinsky and Kleitmanによる睡眠中に出現する急速眼球運動の発見とその後のDr. DementやDr. Jouvetによる逆説睡眠の研究であることはよく知られている。研究施設の項で述べるように,早くも1958年にはDr. Rechtschaffen(米)が最初の独立した睡眠研究施設を組織したのである。1961年には米国人を中心とした最初の睡眠学会を,睡眠精神生理学会(Association for the Psychophysiological Study of Sleep,略称:APSS)と命名し第1回学術集会を開催している。以後毎年1回米国内で開催され,本年は米国ではないがメキシコシテイの第20回APSS学術集会へと続くのである。筆者は1967年までのAPSSの活動についてまったく知らないので1968年以後の活動に関して簡単にふれる。学術集会の開催地とその世話人であるProgram Chairman,演題数の概算を列挙すると表1のようである。
 この学会の目的は睡眠の精神生理に関心のある多方面の専門分野の研究者達が公式または非公式に意見を交換することである。あとでもふれるが1960年代は米国で夢の精神生理に多大の興味がもたれ心理学者の活躍が目立ったが,1970年代はより生物学的な研究に重点が移った。その委員会の組織は理事長,庶務理事(Secretary),プログラム委員長(3名),出版委員長,会員選考委員長,それに評議員(Member-at-Large)の3名ないし5名で構成されている。プログラム関係は前回と次回の委員長を加えて3名とし,評議員は3名の時代は米国とカナダで計2名,欧州から1名,1976年から5名となり米国とカナダで3名,欧州とその他の地区から各1名という原則であったが現実にはそれにこだわっていない。各委員とも任期は3年となっている。日本からは1973年から筆者,1976年から大川先生,1978年から高橋(康)先生が評議員に加わっている。なおまた理事長と庶務理事は1969年から,Drs. Kales & Pegram,1972年からDrs. Broughton & Emde,1975年からDrs. Weitzman & Karacan,1978年からDrs. Rechtschaffen & Rothとなった。

座談会

睡眠研究の現状と将来

著者: 高橋康郎 ,   大熊輝雄 ,   菱川泰夫 ,   融道男 ,   松本淳治 ,   島薗安雄

ページ範囲:P.578 - P.588

§まえおき
 司会(島薗) 1979年7月27日から31日まで,東京の日本都市センターホールで,第3回国際睡眠学会が行われましたが,ここにお集まりの方々を含めて,いろいろの方に大変ご尽力をいただきました。幸い外人が150人ぐらい,日本人を含めて500人ぐらい参加者があって,特に外国からは睡眠研究の第一人者とみなされる人々,あるいは睡眠を主要な研究テーマにして,それに取り組んでいるような人たちが,アメリカからも,またヨーロッパからも参加してくれました。そのためにただorganizationが良かったというだけではなく,科学的にも大変良かったということを,喜んでくれている人が多いわけです。4つのシンポジウム,4つのワークショップ,それから一般演題もありましたけれども,それぞれの所で大変熱心な討論があって,非常に生き生きとした学会が行われたという印象を強く持ちました。そして全体的な睡眠研究の現状とか,あるいは動向,将来の方向性といったものがこういう学会をやったことによって,従来よりもかなりはっきり浮き彫りにされたという印象を強く持ったわけです。皆さんも同じような感想を持たれたのではないかと思いますので,きょうはこれらの問題についてご自由にお話しいただきたいと思います。
 そこで,早速内容的な話に入りますが,今度の学会では,基礎の,それこそ細胞レベルの問題から,病気,治療のことまで,広い範囲の問題が扱われたわけで,その全部にわたってお話しいただくわけにはいきませんが,特にわれわれ精神医学に携わる者として興味深い点に焦点を置いて,お話し願いたいと思います。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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