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雑誌詳細

文献概要

特集 睡眠研究—最近の進歩

睡眠サーカディアン・リズムの発現機序

著者: 川村浩1

所属機関: 1三菱化成生命科学研究所

ページ範囲:P.553 - P.559

Ⅰ.睡眠とサーカディアン・リズム
 動物の睡眠には,ほぼ1日の周期をもったリズム(サーカディアン・リズム)がみられる。ラットのように1日のうち何度も睡眠と覚醒を繰り返す動物でもそうであるし,ヒトのようにある程度成長すると夜まとめて連続的に眠る場合でも同様である。このような睡眠と覚醒の1日のリズムは,住んでいる環境の夜,昼の手がかりを動物が感受している場合平均して正確な24時間の周期を示す。しかしこの手がかりを取り去るとリズムの周期は正確な24時間ではなくなる。サーカディアンと命名されたのはこのためである。Richter15)はラットの車まわし運動を観察し多くの実験を行なった。ラットは夜間活動し,昼間は眠っている動物である。この車まわし運動は,ラットの両眼球を摘出し,光による昼夜の手がかりを失わせ,音や匂いなどの刺激による手がかりも与えないように注意して飼育しても大体24時間の周期のリズムを現わす。図1は井深6,9)によって記録されたラットの睡眠のサーカディアン・リズムである。周期が正確に24時間でないため眼球摘出前の対照記録では夜間睡眠が少ないパタンを示していたが,しだいにずれて,両眼球摘出45日目前後(3段目)では外界の夜に当る暗期に睡眠が多く,照明の与えられている明期に睡眠が少ない。つまりリズムの周期がこの場合24時間よりやや長いためしだいに睡眠のピークが後へずれて位相が反転したのである。このことはラットの体内にほぼ24時間の周期(この周期は個体によってかなり一定している)をもった時計が存在することを示している。つまり外界の手がかりなしにリズムが自由継続(フリーランニング)することは,体内時計の存在を現わす一つの証拠なのである。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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