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文献詳細

雑誌文献

精神医学23巻1号

1981年01月発行

展望

最近の神経病理学と精神医学(Ⅰ)

著者: 飯塚礼二1

所属機関: 1順天堂大学医学部精神医学教室

ページ範囲:P.4 - P.14

文献概要

I.はじめに
 精神医学の発展の中で神経病理学の果たした歴史的役割と将来への展望が猪瀬1)によって本誌上に述べられたのは15年前であった。その後の急速な神経科学,なかでも神経生理学と神経化学の発達とともに形態学的方法,ことに神経病理学が,精神医学の発展にどのような役割を果たし得たかについて再びふりかえってみた。その間,G. Peters2)の「神経病理学と精神医学」などの他にはあまりこの種の展望は行われていないように思う。この期間のほとんどを我が国の精神医学界は大きな混乱と動揺に終始していた。一方では世界的な傾向のあらわれとして,我が国においても急速に発展した神経学(Neurology)が神経科学研究の臨床的中心として各地の大学や研究所で独立した教育と診療の体系を持つようになるとともに,他面神経病理学は,病理学の一部門としての位置づけを示すようになった。すなわち,好むと好まざるとにかかわらず「精神神経学教室」の「神経病理学研究室」が神経病理研究の中心であった時期は終わったのである。現在まで我が国の精神医学界にはこれらの事実を直視して考えた論議は多くないように思われるが,それぞれ前者は精神医学の,また後者は神経病理学の,新しいidentity確立の問題とかかわり合う深刻な事柄である。このことは今後精神医学は一体,何を神経病理学に期待するのか,また神経病理学はそれに対してどう答え得るのか考える前にまず正しく把えられなくてはならない。
 猪瀬1)が述べているようにかつて神経病理学が精神医学の基礎的な研究方法の華やかな中心を占めていた時期があった。Griesingerに始まって,Nissl,Alzheimer,Spielmeyerらの名はまさしくこの時代を象徴的に示しており,その業績は更にHallervorden,Spatz,Scholzらによって受け継がれ,広く世界に広められた。これらの人々はいずれも神経病理学者であると同時に精神医学についても深い経験と理解と自らの立場を持っていた。そしてまさしく当時は神経病理学的方法が実り多い成果を精神医学の将来に約束するように見えていた。しかしながら一方で,これらの大先輩達による脳の形態学的研究の発展とともに基本的に困難な問題の存在が明らかになった。その一つは言うまでもなく精神医学にとって最も重要な精神分裂病と躁うつ病に対して神経病理学はほとんど無力であることであり,もう一つは神経病理学が最も重要な役割を演じ得たとされている脳器質的障害に基づく多くの疾患についても精神症状の理解に関しては,神経症状の理解におけるように明確な説得性を提示できず,誠に漠として不充分な段階にとどまらざるを得ないという認識であった。以下この展望はこれらの現状と問題点から出発する。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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