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雑誌詳細

文献概要

特集 失行

失行論へのプロレゴメナ

著者: 浜中淑彦1

所属機関: 1京都大学医学部精神神経科

ページ範囲:P.971 - P.978

I.はじめに
 人間や動物の運動に関する研究の端諸は言うまでもなく古代科学(例えばAristotelesのDe motu animalium)に遡るものであり,中でも失行との関連で問題になる身振りgestureは演劇学(例えばLucianusの"cheironomia")などで古くから論述の対象となっていた。ルネサンスにはCardanoが手話法(聾唖)の可能性を論じ,Tuccaroがアクロバットの記録法を考案,17世紀に入るとF・Bacon(1705)が身振りの科学の必要性を指摘,18世紀末から19世紀中葉にかけて相貌(Camper,1774/82:Lavater,1750)や表出運動(Bell,1806;Gratiolet,1865;Darwin,1872)に関する研究が進展し,医学においても例えばDuchenne(1862 & 1867)は自然の状態では単一筋の運動は存在せず,電気刺激によって身振り運動は出現しないことを指摘するに至った。しかしながら今までのところ,18世紀以前には脳損傷による行為障害の明確な記載は知られていないのであって,失行症状への言及はLatham(1861),Jackson(1864)を待たねばならず,失行概念の形成(Meynert 1890〜Liepmann 1900)も神経心理学史上,失語(Bouillaud 1825〜Broca 1867)や失認(Munk 1877〜Freud 1891)のそれより遅れることとなった。Liepmann以後は諸々の失行型が記載され,1960年には国際学会における失行シンポジウムが開催されたが,近年学際的視点の導入に伴って夥しい数の研究が発表されつつある。ここではその主要な趨勢を概観しつつ,今後の失行論への手がかりを探ってみたい。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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