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文献詳細

雑誌文献

精神医学23巻10号

1981年10月発行

文献概要

特集 失行

失行テストへの一つのアプローチ

著者: 山鳥重1 小倉純1

所属機関: 1兵庫県立姫路循環器病センター神経内科

ページ範囲:P.979 - P.983

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I.はじめに
 Liepmann1)の定義によれば失行とは「運動機能が把持されているのに目的に合う運動ができないこと」である。もう少し細かくいえば「運動麻痺,運動失調,不随意運動などが(ほとんど)存在せず,また行うべき動作を理解していながら,しかも行為の遂行に障害を示すもの」(大橋2))を言う。しかし実際の臨床場面においては,このような具体的定義をもってしても,患者の示すある特定の運動異常を失行と考えるべきか否かを決し難いことが多い。理由は色々あろうが,そのうちの一つに,失行という概念が「行為」の異常というきわめて広範囲な能力の異常を対象にしているという事実がある。行為とは考えようによれば人間行動の全てともいえよう。従って当然失行概念が捕捉しようとするものも拡大せざるを得ないことになる。
 このことは対照として「失語」を念頭におけば直ちに明らかとなる。失語は言語という「ある社会に共通のsymbolの体系」の障害を指す。言語については大まかな点では誰にでもその内容の了解が可能である。当然何が失われるかについても共通の認識が存在することになる。しかし失行の場合,失語と比較可能な次元での失われるべき「行為シンボルの体系」はない。だから失行を扱うに際しては失語を扱うのとは違う視点が要求されることになる。
 以上の基本認識に立って失行テストを作りあげるために,(1)どのような入力で行為異常が生じるのか,(2)どの身体部分に行為異常が生じるのか,(3)どのような種類の行為異常を問題にしているのか,の3点から従来の失行研究を整理してみたい。その上に立って,必要最小限と思われる要素を抽出し,できるだけ簡易な失行テスト要領をまとめてみるのが小論の目的である。
 ところで今までの失行症の命名ぶりを振り返ってみると,身体部位による命名(顔面失行,躯幹失行など),運動による命名(発語失行,開眼失行,歩行失行など),失行発症の中枢機構についての仮説に基づく命名(観念運動失行,観念失行など)など多くの異質なものが混在していることが分る(表1)。失行症をできるだけ客観的に研究し,新しい方向を見出すためには過去の名称にこだわらず,どのようなテストでどのような行為異常が生じたかを正確に記載してゆくことの必要性が痛感される。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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