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雑誌目次

雑誌文献

精神医学23巻2号

1981年02月発行

雑誌目次

巻頭言

科学論文を書く

著者: 稲永和豊

ページ範囲:P.108 - P.109

 科学論文の書き方について教わるのはいわば口伝的な方法によるものであって,今迄きびしい教育を受けたこともないし,また教室の若い研究者にどのように科学論文を書くかを教えたこともない。しかし考えてみると実に大切なことである。いくつかの雑誌の査読者(referee)としてかなり多くの論文を読ませてもらったが,感心させられるような立派な論文もあるし,どうかと思われるような論文もある。論文の最後に「……教授の御校閲を感謝する」と謝辞が述べられているが,教授の校閲が行なわれているにしてはあまりにもひどいと思われる論文もある。
 査読の経験を通じて希望したいことは,邦文の論文であれば字句の誤りを少なくしてもらいたいということである。現在医学部を卒業した若い研究者の中にも字句の誤りが多い人がいるのに驚かされることがある。「臨床神経学」の査読を数年間担当したが,論文の内容そのものよりも字句の訂正にかなりの時間をさかれたものである。日本人にとって母国語で論文を書くのに辞書など不必要であるという先入観があるらしいが,適当な国語辞典を側において,少しあやふやな点があれば直ちに辞書をひく習慣をつけて欲しいものである。たとえば,岩波の国語辞典の最新版を持っていて,論文を書く時はいつも側におくようにしておけばよい。

展望

WHOの精神衛生研究活動

著者: 篠崎英夫

ページ範囲:P.110 - P.122

I.はじめに
 筆者が,厚生省からWHOに出向してから約2年が経った。WHOを外から眺めていると,一体何を指向して活動しているのかはっきりしないものと思う。しかし中に入って実情がわかると,世界的な精神医学の動向に呼応して活動が体系づけられ,運営されているのがわかる。時には政治的外圧により,又,時には内部人事にからんで,指向が変ることもあるが,中期,長期にわたって見ると,確かに一つの流れのあることがわかる。
 WHO精神衛生研究活動の中で,日本人専門家の果たす役割は大きいはずであるが,今までのところ,残念ながら大いに寄与しているとは言えない。言葉の問題も一つにはあるだろうが,何よりもWHOとの接触の機会の少ないことが,その一番の原因であろうと思う。
 WHO加盟150余カ国の大部分は開発途上国である。WHO及び国連のポリシーからして,これら開発途上国には優先的に事業が流れるので,これらの国々の専門家とWHOとのつながりは深い。又,先進国の欧米諸国は,古くからそれぞれの旧植民地とのつながりがあり,WHOからの技術援助の大部分はこれらの国々の専門家によって行われてきたので,これ又WHOとのつながりは密である。極端に言えば,先進国の中で,WHOに米国,ソ連に次ぎ3番目の拠出金を出している日本だけが,WHOとのつながりが薄いと言える。
 筆者は,この2年間に,なるべく多くの日本の専門家に事業に参加して頂くように配慮してきた。その結果,徐々にではあるが,日本の専門家とWHOとの協力関係は改善されてきているように思える。
 そこで,より一層多くの日本の精神衛生分野の方々に,WHOの事業を御理解頂き,積極的に参加して頂くために,ここにWHO精神衛生研究活動の概況を御紹介する次第である。

研究と報告

精神分裂病の急性期症状消褪直後の寛解後疲弊病相について

著者: 永田俊彦

ページ範囲:P.123 - P.131

 抄録 分裂病の寛解過程をみていくと急性期症状の消褪直後に一過性の欠陥分裂病様の状態像が出現してくることがある。英語圏の諸家はこれをpostpsychotic depressionとして記述しているが,筆者はこれを「寛解前期」(中井)の遷延化と考え「寛解後疲弊病相」と命名した。この病相では言語活動は著明に低下しているため急性期の治療関係を通してのみ彼らの内的世界に接近し得る。ここでは,睡眠過剰,分裂病特異性の作業の障害,対人場面での「振舞い」の障害,「自明性の喪失」(Blankenburg)の内省,「負い目」の体験,未来・過去の時間体験の障害,その他の諸現象が認められた。これらを急性期との関連から3群に分け若干の検討を加え,この病相からの離脱について言及した。

精神分裂病の親子発症例について

著者: 田中雄三 ,   小野田倉三 ,   川原隆造 ,   久田研二 ,   挾間秀文 ,   田中潔

ページ範囲:P.133 - P.142

 抄録 鳥取,島根両県下の精神病院のうち8施設の協力を得て,分裂病の親子発症例23組について調査を行ない以下の結果を得た。
 1)分裂病親子発症例23組のうち,母子発症例は17組,父子発症例は6組で,母子発症例が父子発症例より著しく多かった。
 2)病型別にみると親の病型は,妄想型(10名)が最も多かった。子の病型は破瓜型が16名で多数を占めていた。また,親子の病型の一致例は9組(約39%)であり,このうち破瓜型の一致例が最も多く7組であった。
 3)調査時の精神状態は,親子とも完全寛解例はなく,組合せとしては親子とも軽快,あるいは親軽快,子社会的寛解という例が多かった。全体的にみると親より子の方に精神状態のよいものが多かった。
 4)親子の初発年齢を比較してみると,親では30歳以上で初発する例が半数近くあるが,子では20歳前後の発症が最も多かった。
 5)その他,罹病期間,入院回数,教育歴,家族構成などについても調査し若干の検討を加えた。

Pellagra sine Pelle Agra—精神科・神経内科領域の気付かれない疾患

著者: 石井惟友 ,   西原康雄 ,   鈴木高秋 ,   菊池昌弘

ページ範囲:P.143 - P.151

 抄録 450剖検例中Betz細胞や橋核神経細胞などに著しいcentral chromatolysisを呈するものが16例見出された。これら16例の臨床所見を調べてみると,遷延する譫妄状態,四肢特に両下肢の痙縮・筋強剛,痙攣,末梢神経炎,下痢,顔面にdyssebaciaなどの皮膚症状,全身るいそう,低蛋白血症,貧血などが記載されており,ペラグラを示唆する症状と考えられる。肺結核患者5例ではisoniazid服用中に精神神経諸症状が起り,isoniazidによるペラグラ発症例と思われる。栄養状態の良くなった今日でも,精神科・神経内科領域の患者には典型的な皮膚症状を呈さないペラグラ(pellagra sine pelle agra)があり,日常診療上,注意すべきである。ペラグラの最も大事な所見は精神神経症状であり,3Dの一つであるdementiaで代表されているが,譫妄状態を呈することの方がより特徴的であり,"delirium"のDとして憶える方がよいと考える。

てんかん患者の電解質異常(Ⅱ)—てんかん患者の血液放置において観察された血球内外の電解質変動異常

著者: 武井満 ,   関章司

ページ範囲:P.153 - P.159

 抄録 てんかん発作の発生機序や抗てんかん剤の作用機序を考えるうえで,細胞内外の電解質動態を知ることは重要であり,これまでてんかん患者の低Ca血症は知られている。しかし細胞内の電解質代謝については方法的に困難な点が多く臨床での知見は乏しい。
 そこで血液を採血後血清分離せず放置すると血球内外で電解質の移動がおこる現象を利用して,てんかん患者の細胞内外における電解質動態とその機構について検討した。その結果,てんかん患者は血球外のCaが低下しているばかりでなく血球内のCa代謝についても異常が推定された。更にNaとKの双方の能動輸送に関与するエネルギーの異常が推定され,そのひとつとしてNa+-K+-ATPaseの活性の促進が考えられた。以上のことを抗てんかん剤の作用機序と副作用という観点から考察し,臨床症状に及ぼす影響との関連について論じた。

Pickwick症状群を呈した精神分裂病の1例

著者: 数川悟 ,   佐野譲 ,   山口成良 ,   炭谷信行 ,   倉田孝一

ページ範囲:P.161 - P.167

 抄録 19歳で発症し,独語,被害・誇大妄想などで49歳より入院中の55歳,男子精神分裂病患者に多食,いびき,肥満,日中の傾眠がみられ,チアノーゼを伴う呼吸困難発作を生じた。Broca指数+24.3%,赤血球数524万。動作緩慢で著明な精神作業能力の低下を認めたが,入眠時幻覚の他に内的体験の異常はない。終夜睡眠ポリグラフィーで周期性無呼吸が認められ,精神分裂病に伴ったPickwick症状群と診断した。睡眠は不安定で,Stage 1とStage 3の増加,Stage 2の著明な減少がみられ,sleep spindleが非常に乏しかった。換気停止はStage REMでは閉塞型が多いが,Stage 1では中枢型であった。カロリー制限をし,ベッド頭部を挙上し側臥位で睡眠させることで症状の改善がみられた。精神症状とPickwick症状群の合併について検討し,無呼吸出現に中枢性の機序の関与が示唆されることから,本症状群における中枢性病因の可能性について考察した。

左頭頂葉角回部損傷による構成失書の1例

著者: 高坂要一郎 ,   山内俊雄 ,   川村幸次郎 ,   佐藤晋

ページ範囲:P.169 - P.176

 抄録 左頭頂葉角回部の血管性損傷によって暗算の障害および軽度の構成失行をきたした患者について,失書症状の性質を検討した。書字のうち,書き取り,自発書字に際して著明な発動性の低下,字性健忘,錯書が認められ,描画に長時間を要した。障害の性状は字性失書であり,漢字,平仮名,アルファベット,数字がほぼ同程度に障害されていた。この所見は,構成失書における日本語の特性として仮名と比べて漢字がより強く障害されるとする従来の説と異なる。この点についてlogography,phonographyという観点からlogo-,phono-,の部分は構成失書と本質的な関係を有しないこと,即ち構成失書においては表音,表意文字間に本質的な差はなく,障害はむしろgraphyの部分にあることを述べ,Zuttの「自動性」,Straussの「運動覚」が書字行為に与える影響について考察した。また三次元の描画の障害と暗算の障害も構成失書と同一の病変に基づくものであると考えた。

メキシコ・インディオの集落における精神医学的調査

著者: 宮西照夫 ,   東雄司

ページ範囲:P.177 - P.184

 抄録 1971年以来4回,滞在期間83日にわたって,伝統的文化とキリスト教文化の共存がみられるメキシコ・オアハカ州マサテコ族アヤウトラ村(人口約3000名)と,今なお素朴に原始焼畑農耕を営み比較的最近まで西欧文化との接触がみられなかったチャパス州ラカンドン族ラカンハ(104名)およびナハ(61名)村において精神医学的調査を行なった。アヤウトラ村では,罹病期間6〜25年の普遍的病像を呈する6例の定型的慢性分裂病者を観察したが,いずれもある程度社会性が保持されていた。神経症例では伝統的な神を失うことによる生活不安が窺われる。また飲酒による暴力事件や慢性アルコール中毒者の発生状況を上記3村における住民の飲酒形態から考察した。後2村ではいかなる精神障害者にも遭遇することがなかった。

短報

Münchhausen症状群の2例

著者: 渡辺洋一郎 ,   横山茂生 ,   渡辺昌祐

ページ範囲:P.185 - P.188

 抄録 Münchhausen症状群と考えられる2症例を報告し,本症状群の行動特徴や症状発現の特徴を検討すると同時に,本症状群の患者に対する治療的アプローチについても検討した。
 2症例ともに,急性症状,虚言,作為的症状偽造,入院歴を持ち,症例1は混合・多症状型,症例2は異物摂取型である。この2症例の示した症状の差違は知能,医学的知識量の違いに関係があるようであった。また,症例1は疾病利得,ヒステリー症状をも持っているのに対し症例2は知能水準に社会適応能力の低さによる短絡反応的傾向が著明であった。
 これらの患者の治療にあたっては,治療関係の維持に留意し,虚偽の言動に対しても,治療関係が確立するまでは正面から指摘せずに,共感的・支持的態度が必要なこと,更に,家族との緊密な連絡,家族関係の調整,医療施設間相互の緊密な連絡と情報交換の必要性を指摘した。

抗てんかん薬急性中毒の1例—血中濃度と臨床症状を中心に

著者: 国元憲文 ,   長淵忠文 ,   山根巨州

ページ範囲:P.189 - P.191

I.はじめに
 精神科領域でのてんかん治療に際して,自殺企図か偶発的事故かは別として,抗てんかん薬大量服用による急性中毒の症例は決して稀なものではない。近年,急性薬物中毒に対しては早期にperitoneal dialysisが行なわれるようになりつつあり,それによる抗てんかん薬急性中毒治療例の報告もかなり見受けられる1,5,7)。しかしながら,なおperitoneal dialysisが一般的なものではなく,従来からの大量輸液療法に頼らざるを得ないことも実際の臨床場面では比較的多いものと思われる。
 われわれは,最近,投与されていた抗てんかん薬を自殺の目的で大量に服薬し,従来からの一般的治療により回復し得た症例を経験した。この症例について,臨床症状と抗てんかん薬血中濃度(ガスクロマトグラフィー法により測定)との関係を中心に若干の考察を加えたので報告する。

古典紹介

Jakob Wyrsch—「混合精神病について」—第3回

著者: 木村敏 ,   小俣和一郎

ページ範囲:P.193 - P.198

 Ⅲ.
 以上報告した病歴からどんな問題が生じてくるのであろうか? あるいは,そこからなんらかの結論を導き出してもよいのだろうか? まず次の問いに答えておかなくてはならないだろう。それぞれ2つの症例によって示されたこの2つの経過型には,何らかの規則性が見られるであろうか,つまりこれらが互いに独立したものだと―もちろん,それは疾患としての独立性である必要はないのだが―考えてよいのだろうか。それともこれらはただ偶然にできあがったものであって,何らの相互関係ももたないものなのだろうか。そこで我々はまず,これらの経過型をほかの「混合精神病」,つまり2大内因性精神病が同時に,あるいは継時的に出現する経過と比較してみなければならない。私自身の経験からいうと,私はこれまでに上述の4例を含めて総計24例の混合精神病像を長期間にわたって観察することができた。ただしその内の6例は,観察期間が5年未満であり,最終的な判断を下すにはあまりにも短かすぎるので,ここでは除外しておきたい。残りの18例については,多くは初発以来数十年間にわたる経過がはっきりしており,その内の9例,すなわち男性6例,女性3例は,分裂病性の基本症状の上に躁うつ病相が不規則に出現してくるもの,つまり症例1と2で述べた形に相当するものである。これらの病像と経過は,個人差を度外視すれば,若干の点において瓜二つといえるほど極めてよく似通っている。ただ1つ,現在52歳になる元大学生の症例だけは経過がやや異っている。この患者は分裂病の遺伝負因をもち,無力型の体型で,才能があるにもかかわらず病前から自己中心的で小さな点にこだわる性格の持主であった。20歳のとき,過程性の緊張病性シュープがあり,その後も何回か緊張病のエピソードをもち,症例1,2と同様に交替性の気分変動も認められている。この気分変動は一部は反応性に誘発されたものであったが,これは患者が,自らの分裂気質や自閉的な自己過大評価のせいで満足できる職場がなくなってしまい,あちこちでいざこざを起こしたあげく,自分の気分変動を反応性のものと決めこんでいたのかもしれない。他の8例は互いによく似ていて,まとまった1つのグループをなしており,私の考えでは独立した1病型といえそうである。
 残り9例の「混合精神病」(男7例,女2例)はすこしちがっていて,症例3と4はここに含まれる。病像や経過の多様性はこのグループではずっと大きく,個人差を考え合せても説明がつかない。このことをはっきりとさせるために若干の病歴の要点を引用しておく。

動き

第12回国際てんかんシンポジウムに出席して

著者: 大熊輝雄

ページ範囲:P.199 - P.201

 国際てんかんシンポジウムEpilepsy International Symposiumは,1980年(昭和55年)9月6日から10日までの5日間,デンマークのコペンハーゲンでE. Kiorboe会長のもとで開催された。
 国際てんかんシンポジウムは,いわば国際てんかん学会であり,専門家の団体である国際抗てんかん連盟International League Against Epilepsy,ILAEと,患者家族や一般市民など非専門家の団体である国際てんかん協会Internal Bureau for Epilepsy,IBEとの連合体Epilepsy International,IEが開催する学会である。

精神病理懇話会・富山Ⅲ

著者: 武正建一

ページ範囲:P.202 - P.204

 精神病理学の学術集会を持とうという機運がもち上がり,その第Ⅰ回目の集会が開かれたのが昭和53年6月であり,当時の経緯についてはすでに本誌に印象記として述べられている(佐藤壱三:精神病理懇話会・富山,精神医学,21;105,1979)。昨年(昭和55年9月4日〜6日)をもって第Ⅲ回の集会が盛会のうちに行われたが,これは高柳功氏をはじめとする富山在住の実行委員(河合,刑部,武内,谷野,高田,平野,福田ら各氏)の3年間にわたる並々ならぬ努力と笠原嘉氏,宮本忠雄氏,木村敏氏その他の方々の協力のたまものであったと思われる。自然発生的に生れたというこの会の意図はひと先ず年1回の集会を3回行うということにあったので,昨年をもって一つの区切りを迎えたわけであるが,後に述べるようにこの学術集会はさらに主催者と開催地を変えて継続される予定である。
 当初実行委員会の方々も持たれたであろう多少の危惧にもかかわらず,第Ⅰ回,第Ⅱ回と回を重ねるにしたがって各地からの参加者,応募演題共に増加し,今回は参加への演題提出という条件を外したこともあってか180名を越す参加がみられた。第Ⅱ回に続いて今回もある程度演題数を制限せざるを得ない状態であったようで,会場もⅠ,Ⅱ回の呉羽ハイツからより広い富山商工会議所が選ばれた。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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