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雑誌目次

論文

精神医学23巻5号

1981年05月発行

雑誌目次

巻頭言

不器用な精神病理学を

著者: 高柳功

ページ範囲:P.424 - P.425

 私の恩師,西丸四方先生は,近頃の精神病理の論文はよくわからないと嘆かれる。「頭が惚けてしまって」と,やや自嘲気味にいわれるが,あいかわらずのお仕事ぶりをみていると,とても言葉通りには受けとれない。むしろ西丸先生一流の痛烈なアイロニーがこめられているように聞こえる。
 精神病理学は「臨床的ファクトにもとづいて考えられ,かつ臨床というプラクシスの場へ返球できるような病理学」(笠原 嘉)でなければならず,本来は臨床に密着した学問である。それがいつの間にかむずかしくわかりにくい学問になってしまった。西丸先生と同感である。

展望

モノマニー学説とフランス慢性妄想病の誕生(Ⅱ)

著者: 影山任佐

ページ範囲:P.426 - P.436

 フランス慢性妄想病,特にマニャンの慢性妄想病誕生の歴史を紹介する。マニャン(Magnan)ら14)によるとエスキロール(Esquirol)を境に2つの時期が区別され,1835年頃に大きな転換期を迎えた。即ち,エスキロール以前には知性狂気(folie intellectuelle)は情動障害に続発するものと考えられていたが,それ以降知性狂気は原発性に考えられるようになった。これが特に諸外国でその後発展を遂げたパラノイアの始まりである(マニャンら14)。そしてマニャンら14)の主張ではエスキロールのモノマニーは病的状態の正鵠を射た分析を実現したが,この状態の性状に関する認識の進展には貢献するところが少なく,分類上の困難を招いた。彼ら15)によれば,エスキロールの知性モノマニー,本能性モノマニー,情動性モノマニーはマニャンらの慢性妄想病,変質者の妄想病(Délires des dégénérés),心的変質注1)の衝動や強迫,挿間性症候群に相当するものであるとした。マニャンら14)によると,エスキロールの思想はモレル(Morel)の時代まで精神医学を支配していたが,エスキロールの分類方法は症候学的方法であり,このため無限に疾病単位(entités morbides)が増大し,この方法論の誤りが明らかとなった。モレル(1857)16)はこの症候学的方法を病因論的方法に代え,「人類の変質」注2)を考え,彼の遺伝性精神病注3)を記述することによって,「モノマニーに対して決定的打撃を与えた」(マニャンら14))。このような疾病分類の病因論重視への転換が認められる一方,エスキロールのモノマニーの混乱を収拾し,主として妄想に着目しながら特殊な病型を分離しようとする動きがラゼーグ(Lasègue)10)と共に始まった注5)。即ち,「あるひとつの,あるいは幾つかの明確な類型を考察するかわりにありとあらゆる狂気の変種のうちからたまたま取り出したひとつのあるいは幾つかの症状ごときに人々は没頭していて,ある研究者は自殺傾向を,他の研究者は盗癖を選ぶという具合で……デリールを,悟性の全体を関わり合いにするような全体性デリールと,知性のある側面だけは多少とも無疵のまま残すような部分性デリールに分けることは非のうちどころのない,驚くほど正確な区別である。ところが,それが細部にわたりはじめて科を属に属を種に,という具合に細分されるようになるにつれて,そうした区分の試みは不満足なものとなってしまった」。「部分性精神病の研究に専念してみると,無視し得ぬほどに明白なある事実が際立ってみえてくる。つまり,部分性精神病においては,知性の病態と,限局した一定の症状を持つ病態が存在するということである」。「今しがた私が取り上げた正しいと思われる指示に従えば,これまでは辛うじて類似したところしかほの見えなかったところに驚くべき一様性が認められる。そのような例として,私は被害妄想病の名のもとに示す妄想類型を提示してみよう」(ラゼーグ)10)。このような動向はGuislainにも認められる。マニャンら15)によると,1852年にベルギー人ギラン(Guislain)は,メランコリーから非難妄想病(délire accusateur),或いは,非難単一妄想病(monodélire accusateur)を分離し,この妄想病の特徴をマニー状態(un état maniaque)と考えた。「このマニー患者は,自分を非難するのではなくて,被害者(victime)である。友人や近親者,想像上の者に非難を浴びせかける。彼は悪人に取り囲まれていると信じる。彼は悪意の対象となっている。彼に対して陰謀がたくまれている。"私は憎まれている……。何かの影響が私に向けられている。これは電気や磁気である"」(ギラン,マニャン15)らの引用)。同年1852年に,前述したようにラゼーグ7)は「被害妄想病」(délire de persécution)を記述した。マニャンら15)によれば,「ラゼーグがそのモノグラフィー(1852)で貢献したのは,エスキロールによってリペマニーと名づけられた症状複合群から,体系化された被害観念の存在を特徴とする部分性デリールを示す一群の患者を分離したことである」。しかし,このマニャンらによればラゼーグには批判されるべき点がある。第1にラゼーグは状態期のみを重視し,疾患の経過を無視した。とはいえ,ラゼーグは前駆期を明示しているし,経過の早さの違いにも注目した。しかし,ラゼーグは治癒するものと治癒しないものを同一疾患に入れてしまっている。第2にラゼーグの被害妄想病は幻覚を伴っていたり,伴わなかったりする。「結局ラゼーグの被害妄想病はエスキロールのリペマニー患者から,これを分離することによって前進への第一歩を踏み出した。しかし,この病種は,殆んど専ら症候学的特徴,即ち明瞭な被害観念(idée nette de persécution)に基づいているために種々雑多なものを含まざるを得なかった。これが現在の論争を呼び起こしている残念な混乱のある点である」(マニャンら15))。但し,バドゥラ(Baddoura)1)によると,ラゼーグは1854年に「進行発展性慢性妄想病」(délire chronique àévolution progressive)を記述した。バドゥラによると,これは,妄想病の慢性に注目した最初であるという。バリュク3)によるとラゼーグの後にLegrain du Saulleは「慢性被害妄想病」(Délire des persécutions chroniques)を著わした。また,マニャンら15)は,ラゼーグの被害妄想病は種々雑多なものを含むゆえ,遺伝的観点(病因論)と経過の点から純化させなくてはならないことを述べ,これ以降彼の慢性妄想病に至るまでの歴史を以下に触れるように概述した。即ち,1860年の「精神病概論」17)の中でモレル(Morel)は「心気症性狂気」(folie hypochondriaque)の中で被害妄想病患者が誇大的(ambitieux)になる場合を記述した。これに対してマニャンら15)は彼らの変質論の立場注6)から独断的に次のように批判している。「モレルにとって,患者はまず,心気症患者でなくてはならない。周知のように心気症は変質的遺伝負因者(l'héréditairedégénéré)の症候であることが最も多く,また,慢性妄想病は後者に現われることは極めて稀である。心気症-被害-誇大妄想患者(l'hypochondriaque-persécuté-ambitieux)が慢性妄想病の特徴を示すことはありそうに思えない」。次いで,小木8)によると1854年にファルレ(Farlet, J.-P.)は,経過の点から四期に分かれる被害妄想病を記述し,フォヴィル(Foville)は誇大妄想病を記述した(Foville;Etude chinique de la folie avecpredominance du délire des grandeurs, Paris, 1871)。後者についてマニャンら15)は次のように述べている。「ラゼーグの被害妄想幻覚者(hallucinés persécutés)で,誇大妄想幻覚者(hallucinés ambitieux)になるものを,フォヴィルは,新しい病種,誇大妄想病(mégalomanie)とした。もし,フォヴィルが誇大的になる被害妄想患者のみを含めているのならば,我々はお互いに了解しあえる。しかし,フォヴィルは,私の慢性妄想病者(長い経過の後に誇大的となる幻覚性被害妄想病者)のみを含んでいるのではない。その他にフォヴィルは次のようなものを含ませている。
 1.突発的に幻覚や誇大観念が現われるmégalomanie。
 2.誇大観念はあるが幻覚を欠いている。
 3.誇大と被害観念が同時的に存在する。
 4.誇大妄想が現われ,その後に被害妄想が出現する。
 以上から,フォヴィルの誇大妄想病(mégalomanie)には妄想の特徴の観点からだけでなく,その起始と経過の点からも非常に様々な患老を含んでいる。また,フォヴィルの報告した12例の中で4例は遺伝的変質者である」。前述したように,父のJ.-P. ファルレは1854年に被害妄想病を記述したが,息子のJ. ファルレは,1878年5)に,これとは異なった種類の被害妄想病(バル2)のType de Farlet注5),persécuté-persécuteur)を記述した。この論文5)によるとラゼーグらの被害妄想病はメランコリーとモノマニーとの中間を占めている。悲哀的観念(idées tristes)によって前者に,能動的部分性デリール(déire partiel avec activité)によって後者に属しているからである。被害妄想病患者は一般的には非常に能動的である。従ってメランコリーは2種に分類される。

研究と報告

思春期の幻覚・妄想症状

著者: 坂口正道

ページ範囲:P.437 - P.447

 抄録 15歳以下で幻覚・妄想症状を呈して入院観察を要した63例(男子28例,女子35例)について,幻覚・妄想の発現形態を中心に性別,初回発現年齢,知的レベルとの関連や経過型,予後などの資料を提示し,併せて児童期心性や文献的考察を検討し,データ上の諸特徴を論じた。
 (1)経過診断名では分裂病36例,神経症圏6例,知的問題+環境反応型10例などが多い。
 (2)女子に体感幻覚が多く,この関連から思春期における男女両性の症候学的差異を考察した。
 (3)思考伝播,作為体験,妄想気分などが疾患的特異性を有さず広汎にみられた。
 (4)児童期心性との関連性は一般に乏しく成人的な妄想加工やパラノイア傾向もみられなかった。
 (5)いわゆる接枝分裂病との関連からホスピタリズムの問題性について若干言及した。

青年期女性にみられる多食・無気力症候群について

著者: 中河原通夫 ,   新谷昌宏 ,   小見山実

ページ範囲:P.449 - P.455

 抄録 多食症状を示した3症例について検討を行なったところ次の結果を得た。
 1)3症例は,いずれも女性であり,発症年齢は20歳台で青年後期にあたっていた。
 2)多食症状は,結婚,就職という家からの自立に挫折した際に出現していた。
 3)多食症状に伴なって,無気力症状の出現が認められた。
 以上の点から,多食症状は,青年前期に女性の成熟拒否として出現する神経性無食欲症とは異なり,青年後期の男性に認められるapathy syndromeと類似の背景をもつ独立した病態と考えられた。
 さらに,apathy syndromeと多食症状との病態の差異について,青年前期に出現する対人恐怖と神経性無食欲症とを対比させながら,成熟や自立に際しての課題に男女の差があるという観点から考察を加えた。

躁うつ病の発病状況について

著者: 大久保健 ,   市川潤

ページ範囲:P.457 - P.464

 抄録 躁うつ病の発病状況論は,周知の如く,特有な病前性格と,その病前性格をめぐる特徴的な発病状況との間の本質的関連性の認識を基盤として発展してきた。最近の研究の動向は病前性格の発達論および発病状況の成立過程の分析へと焦点が向けられている。本論文では,躁うつ病,うつ病および躁病と診断された計60例の詳細な病歴を資料とし,発病状況のなりたちについて精神病理学的に検討を加えた。その際,とくに誘因それ自体のなりたちが多重的,発展的あるいは持続的である点に注目し,発病に至るまでの病者の生活状況とあわせて全面的かつ継続的な観点から発病状況を考察する必要があることを強調した。また,発病状況のなりたちに関して,3つの特徴ある類型,すなわち重複型,拡大型,持続型に分けて考察した。

中年および退行期女性の「村八分」妄想についての人間学的・役割理論的考察

著者: 長井真理

ページ範囲:P.465 - P.472

 抄録 中年期および退行期の女性にみられる単一妄想性精神病は,多くの点で分裂病と異なっている。この差異は,臨床症状だけではなく病者の人格の基礎構造に着目すると,より明確になる。ここでは共同体から排除されるという被害妄想を呈した7症例について,病前の特有の対人関係のあり方から基礎構造への接近を試み,役割理論的見地から考察をおこなった,彼らはもっぱら役割の相でのみ他者と関わり,他者は自己に役割を与えてくれる役割補完者にすぎない。また,自己はそのつどの役割に過度に同一化する結果,役割との間に本来あるべき距離がほとんど失われてしまう。そして,そこから展開されてくる病前状況は役割同一性の危機としてまとめることができる。このようなあり方は,A. Krausが躁うつ病者について見出した構造ときわめて類似している。

貧困妄想を呈したうつ病者の生活史について

著者: 松江克彦 ,   三浦玄三

ページ範囲:P.473 - P.479

 抄録 顕著な貧困妄想を呈したうつ病者自験例9例の生活史を検討した。発病時に貧困観念の発生を了解せしめる経済的事情は認められなかったが,生活史上過去に,長期間にわたる経済的困難の体験が4例においてみいだされた。これらの困難が後年のうつ病による貧困観念の主題化にとって重要なのはもちろんのことであるが,筆者らが特に注目したのは,生活史上みいだされた患者の家庭内状況である。すなわち,患者が複雑な家族構成を持ち,家庭内の権威者の支配下で長い間冷遇されやすい弱い立場にあったという,症例間で類似した家庭内状況が5例において認められた。これらの事情を手がかりとして,自験例の顕著な特徴である労働への執着が生じる過程について,患者が従事していた農業や自家営業の職業特性と家庭内状況を中心にして力動的に考察を加え,労働の結果的産物である財産など経済上の喪失の恐れとして表現される貧困主題が患者にとって持つ意味について論じた。

自閉症児における精神運動発達の特徴—第2報:正常児,精神遅滞児および自閉症児での乳幼児精神発達質問紙の各項目通過率の比較分析

著者: 栗田広 ,   清水康夫

ページ範囲:P.481 - P.494

 抄録 7歳以下の男子自閉症96例と精神遅滞79例で乳幼児精神発達質問紙の5領域ごとに発達年齢と暦年齢のつり合ったペアを選択し,各質問項目通過率を発達年齢ごとに比較した。津守らによる正常群と発達年齢の相応した自閉症群も選択し,同様の比較を行った。自閉症児は機械的な記憶や日常的な経験の反復で習得可能な項目の通過率は,発達年齢相応の対照2群に劣らず,暦年齢相応の正常児にも劣らない項目もある。一方自閉症児は,象徴機能に裏づけられる象徴遊びやルールのある遊びなどの発達が精神遅滞児に比しても劣り,多くの自閉症児は感覚運動的知能の段階より表象的知能の段階への発達的移行が,より特異的に障害されている。自閉症児の特異な能力,反響言語などの自閉症状もこの発達の特異性の表現として把握できる。以上は従来の自閉症児の認知障害研究の結果とよく符合し,自閉症の診断,発達評価における質問紙法の一定の意義を示すものである。

恐怖及び不安症状の年齢による増減と性差について—青少年の調査より

著者: 阿部和彦 ,   増井武士

ページ範囲:P.495 - P.504

 抄録 9〜23歳の男女の対人恐怖,不安症状など合計17項目の各々について,症状を持っている人の割合(有症率)を年齢別,男女別に調査した。恐怖に関する症状は女子に多く,不安症状は男女差がない傾向が認められた。男子に多い症状は対話恐怖と緊張時の頻尿及びつばを吐き出さないと気がすまない,という症状である。前二者と反復性の頭痛は調査対象年齢の後半で有症率が減少せず,持続する場合が比較的多いことを示唆している。
 一方,心気症的症状,視線恐怖及び女子の赤面恐怖は15〜18歳の間で30%以上に達するので,この年代によくある症状といえる。この年齢を過ぎると視線恐怖と赤面恐怖は急速に減少するので,長期的に見れば一過性の場合が多いことになる。不安症状の多くは13〜18歳の間のいずれかの年齢で最大の有症率を示す。
 有症率が男女ともに思春期で最大値を示す項目では,女子が男子に比べて早い年齢で最大値に達する傾向がある。

精神分裂病者の頭部CT所見—特に経過及び状態像との関連について

著者: 三上昭広 ,   渡辺博

ページ範囲:P.505 - P.515

 抄録 精神分裂病者の脳の形態的変化について気脳撮影による報告は多数あるが,いまだその一致した結論はない。この問題の再検討を目的として分裂病者191例の頭部CT所見を対照群100例と比較し,更に治療経過,状態像との関連を検討した。所見は前頭部クモ膜下腔(F),前頭部大脳縦裂(I),シルビウス裂(S),前頭頭頂部脳溝(P),側脳室(Lv),第3脳室(Ⅲv)の6部位につき判定した。その結果,分裂病群におけるF,I,S,Lvの拡大出現率は対照群より有意に高く,中でも寛解が困難で対人接触,言語活動,自発性,感情表出の障害が著しい患者群(非寛解群Ⅱ型)における拡大出現率が特に高かった。また分裂病者にみられる拡大の部位には一定の局在傾向は認められず,I. Q.,経過年数と拡大出現率との間には一定の関係を認めなかった。EST施行群の拡大出現率はIにおいてのみ非施行群より有意に高かった。

古典紹介

Adhémar Gelb und Kurt Goldstein—色名健忘について—並びに,健忘失語一般の本性と,言語と外界への行動との間の関係についての研究—第3回

著者: 波多野和夫 ,   浜中淑彦

ページ範囲:P.517 - P.528

6.患者の色彩体験の変化
 我々は先に分類原理の欠如と並行して,色見本の山を見た時の現象的な印象が正常状態から変化を来していることを述べた。分類検査その他類似の状況に於ける患者を直接に観察するだけでも,患者の色彩体験が何らかの病的変化を来しているにちがいないとの動かし難い印象を受ける。だから様々な研究者がこの種の患者には言語障害の他に色彩知覚の一次的障害が存在すると考えたのも理解出来るのである。しかしアノマロスコープなどの色覚検査の結果完全な色覚正常者であることが証明されたので,色覚障害はいわば「より高次の」性質を持つと考えざるを得なくなった。研究者の立場次第でこのことについては種々さまざまな考え方が抱かれることになった。
 Berze(原注29)は名辞健忘の他にも色彩視Farbensehenの一次的障害が存在し,それは通常の意味での色覚異常ではないにしても,「色彩質Farbqualitatが他の要素と対等に注意を喚起すること」が出来ない結果を来すような障害であると考えた。Berzeによればこのことによって色調よりも明度を優先する傾向が生ずるとされる。Berzeはなかんずくこの仮説を患者が明度に従って分類することが多いという事実から引き出したのである。

動き

「第4回日本失語症研究会学術集会」印象記

著者: 鳥居方策

ページ範囲:P.530 - P.531

 第4回日本失語症研究会学術集会は昭和55年11月13日,14日の両日,東京都千代田区大手町の経団連ホールにおいて,京都大学精神神経科大橋博司教授を会長として開催された。初日は大橋会長の開会の辞につづいて午前9時30分より一般演題の発表がなされ,午後はシンポジウム「いわゆる構音失行ないし発語失行をどう考えるか」が,九州労災病院神経内科永江和久博士ならびに大橋会長を座長として行われた。第2日は,大橋博司教授の会長講演,総会,および委員会報告をはさんで,午前と午後に一般演題が発表され,午後3時30分に大橋会長の閉会の辞をもって2日間の日程を終了した。
 大橋教授の会長講演は「失語図式の再検討」と題するものであった。有名なWernicke-Lichtheim(1884)の失語図式を始めとして,これまでに夥しい数の失語図式が発表されているのであるが,特に連想心理学的思想の華やかであった19世紀後半のものが多数紹介され検討された。今世紀に入り,P. MarieやHeadなどの批判,ゲシュタルト心理学の興隆などによって「失語図式」の既念は衰退したかに見えたが,近年Geschwindのdisconnexion theory(1965)の出現によって連合学説が再び脚光を浴びるようになり,これらの「失語図式」が再評価されてもよい状況が生れている。時宜にかなった魅力的な講演であった。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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