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雑誌目次

雑誌文献

精神医学23巻8号

1981年08月発行

雑誌目次

巻頭言

児童精神科医療についておもうこと

著者: 白橋宏一郎

ページ範囲:P.746 - P.747

 これまで多くの人により何度か述べられてきたことを,再び繰返さなければならない。それは,児童精神科医療に従事しているものにとっては不可避の問題であるからである。
 日本児童精神医学会が発足し,機関紙“児童精神医学とその近接領域”が刊行されたのは1960年のことであり,以後20年余にわたって発表された研究の数々には優れた業績も多いことは今更いうまでもなかろう。また,この領域への関心は明らかに年々たかまりつつあり,従事する医師も増加している。それにも拘らず,ある人は児童精神科医療は精神科医療の私生児だといい,わが国の精神科医療の実態に詳しいある外人教授は,わが国で最も遅れているものは児童精神科医療であると指摘されたと聞く。

展望

哲学と精神医学—1960年以後

著者: 加藤敏 ,   宮本忠雄

ページ範囲:P.748 - P.767

Ⅰ.序にかえて
 この展望は主に1960年以後,哲学と精神医学の関係を直接の主題にした研究をふくめ,2つの学問領域の接点で展開された主要な議論を叙述しながら,哲学と精神医学の今日的関係を概観しようとする。その際,精神医学のなかでも現象学的一人間学的立場が自覚的に2つの学問領域の接点に身をおいていることを考慮するなら,この方面の研究成果や方法論をめぐる議論が論述の中心にすえられるのは当然の成り行きといえる。
 それに先立ち,本展望に関係のある範囲で現代精神医学と哲学それぞれの動向を大づかみにみておきたい。精神医学,とりわけ精神病理学は,反精神医学の登場に象徴される各種の社会文化的要因により,自己の存立基盤を根底から脅かされている。こうした状況をJanzarikは「基盤危機」84),Fedidaは「自己同一性の問題化」58)とそれぞれ表現し,またBlankenburgはKuhnの意味での「パラダイム危機」32)と認識する。そうした状況認識と,1970年代以後,方法論をはじめとして精神医学の原理的問題を扱った研究が数多く発表されたことは無関係ではなかろう。たとえば,独語圏ではBlankenburg32),Janzarik84),Kisker103),Glatzel66〜68),Heimann76),Zeh199),v. Baeyer8)らの研究,仏語圏ではMarchais123〜126)の一連の研究,本邦では臺188),安永197)らの研究があげられる。このような方法論的研究の増加は今日の精神医学の注目すべき動向のひとつとみなされ,精神医学はあらたな「自己理解」を導く哲学的反省を求められている。その意味で精神医学は第二の「精神病理学総論」の時代を迎えているといっても過言ではない。v. Baeyer8)やTellenbach183)がその再生を確信する現象学的人間学の退潮の理由の一端には上記の事情が関係していると思われる。しかしそうしたなかにありながら,後にみるように,現象学的精神医学があらたな方法論的自覚のもとに着実な成果をおさめているのも事実である。

研究と報告

分裂病者における対鏡症状について

著者: 臼井志保子 ,   島弘嗣

ページ範囲:P.769 - P.776

 抄録 対鏡症状の認められる男性の分裂病者4名を検討し,共通する問題点を取り出した。それは,①顔の問題,②身体像の障碍,③ナルシシズムの問題,④自己の由来の問題,⑤性の同一性の問題,⑥創造妄想,にまとめられた。これらの問題のもつ意味を考察することによって,対鏡症状が,自己の由来に関する疑惑,人物の重複ないし変身の体験,受動的な愛情欲求の主題を三大主徴とする家族否認症候群と密接な関わりをもっているということ,鏡が危機に頻した彼らの自己同一性及び身体像の確立のための手段となっているということが明らかになった。しかし,自己自身(鏡像)を媒介とした自己同一性の確立は何の展開ももたらさないばかりでなく,それぞれの問題が互いに深く結びつき,彼らをますます鏡を見ることに追い込んでいくことによって,結局自己を自己ならざるもの(鏡像)にひき渡し,彼らを破滅に導く危険性を秘めているものであるということが考察された。

分裂病の初回入院治療の成績と経過との関係について

著者: 殿村忠彦 ,   鈴木恒裕 ,   加藤淑子

ページ範囲:P.777 - P.785

 抄録 分裂病の経過研究の方法として,規模の大きな調査と並んでもう一つ小規模だがきめ細かな追跡研究があってもよいと考えわれわれの病院のデータを提示した。
 われわれの病院は200床程度の中規模病院で,開設当初からさいわい診断基準,治療方針を同じうする6人のメンバーで10年間治療活動を行った関係上,大ていの入院患者について6人のすべてが知悉しているという特異性があった。
 1)昭和45年9月からの満5年間にわれわれの病院を初診した988人の患者のうち「初めて治療を求めてきて入院の必要のあった分裂病者」138名について,初回退院時の治療効果,治療開始後2年時点・4年時点の社会適応を中心に調査した。
 2)初回退院時完全寛解,不全寛解は70%に達した。初診から2年後の適応状態より4年後の適応状態の方が良かった。初回退院時転帰の良い症例は4年後の適応状態がよい。初回入院期間,発病から治療開始までの期間と4年後の適応状態との間には関係がなかった。

慢性分裂病の認知障害—Dichotic Listening法による検討

著者: 種田真砂雄 ,   志津雄一郎 ,   玉城嘉和 ,   横内恵子 ,   村岡英雄 ,   高見堂正彦

ページ範囲:P.787 - P.797

 抄録 慢性分裂病の認知障害について多くの知見が得られているが,中心のテーマをなしているのは注意障害である。注意は,情報処理における,広さ(量)と深さ(正確さ)のやりくり(trade-off)と定義できる。この見地にたってdichotic listening法を用い,慢性分裂病者の注意を正常者のそれと比較した。右耳には,情緒的に中性の内容の散文を呈示して追唱させながら,左耳に高低2種の純音を呈示,低音を選んでタッピング反応を求め,テスト終了後に散文の内容を想起させた。その結果,慢性分裂病ことに症状活発な者では,脱落型の追唱エラーが多く,タッピングの正答数は少なく,想起に乏しいことがわかった。これらのことより,慢性分裂病者は,注意容量が小さく,処理能力の分配に欠陥があり,短期記憶での処理が遅いと考えた。さらに,追唱に際して言語的処理(文脈的な意味の分析)が浅いため,長期記憶に移送することが不十分となり,再生が乏しくなるものと推測した。

自閉症,精神遅滞の神経生理学的研究—とくに臨床脳波学的視覚,聴覚誘発電位法による比較検討

著者: 千葉健 ,   青木恭規 ,   北脇雅之 ,   白橋宏一郎

ページ範囲:P.799 - P.808

 抄録 知能障害が軽度の自閉症Ⅰ群10名,より重度の自閉症Ⅱ群14名,精神遅滞群12名,統制群12名の4群と自閉症Ⅰ群,Ⅱ群を併せた自閉症群24名,精神遅滞群24名,統制群24名の3群について,臨床脳波学的ならびに視覚,聴覚誘発電位の検索をおこなった。その結果,境界線域,問題所見をも含めた脳波異常の出現率は自閉症群>精神遅滞群>統制群の順になった。つぎに誘発電位における各成分の群平均よりの逸脱は,VEPでは3群比較においてのみ潜時,振幅ともに,AEPは3群,4群の比較ともに潜時でのみ自閉症群(Ⅰ群>Ⅱ群)>精神遅滞群>統制群の順に逸脱をみとめた。また,各成分の潜時の群間比較より,VEPは3群比較で後期成分に,AEPは3群間で早期,後期成分ともに自閉症群>精神遅滞群>統制群の順に延長をみとめ,振幅,左右差にも同様の傾向をみとあ,自閉症と精神遅滞の間には脳機能上何らかの差異が推測された。

抗てんかん剤Acetazolamideの混合唾液中の濃度

著者: 畑田尚哉 ,   東均 ,   乾正

ページ範囲:P.809 - P.814

 抄録 生体内で薬理活性をもっているのは血漿中に遊離して存在する蛋白非結合型薬物であると考えられている。抗てんかん剤の場合も最近は血漿中の総濃度よりも非結合型濃度が重視されるようになった。この非結合型濃度をその唾液中濃度を測定することにより簡単に知ることのできる薬物がある。たとえばdiphenylhydantoinがそれである。
 われわれはpH-changing法によりacetazolamideの体液中濃度を測定しているが今回はその唾液中濃度を定量し,これと血漿中総濃度,血漿水中濃度(非結合型濃度)との関係を検討した。
 Acetazolamideの混合唾液中の濃度と血漿中の非結合型濃度との間には高い相関(直線回帰式Y=0.948X+0.026,相関係数r=0.932)がみとめられた。
 したがってacetazolamideの抗てんかん剤としての治療有効濃度を論ずる場合にも唾液中濃度をもってその指標とみなし得ると考えられる。

分裂病を疑われた第四脳室脈絡叢乳頭腫の1例

著者: 鈴木康夫 ,   太田龍朗 ,   大原健士郎

ページ範囲:P.815 - P.820

 抄録 今回,我々は自閉,自発性欠如,幻覚,被害関係念慮などの精神症状を前景とし,神経学的所見に乏しい,第四脳室脈絡叢乳頭腫の1例を経験した。患者は21歳女性,会社員であったが,発症後3カ月間は2カ所の精神科にて,分裂病として治療をうけていた。しかし,向精神薬を投与しても症状は軽快せず,副作用(傾眠,流涎)のみがあらわれていた。我々は以上のような経過から,器質性精神病を疑い,脳波,CT scanおよびBender-Gestalt testを施行し,結局CT scanのenhancementにより第四脳室腫瘍であることを診断した。本症例が呈した自閉,自発性欠如は腫瘍の部位よりakinetic mutismに近いものと思われた。また幻覚については,脳脚症候群や脳橋症候群など脳幹性幻覚に含まれるものと考えられた。

短報

アルコール離脱反応時に発見された慢性硬膜下血腫の1例

著者: 藤本明 ,   池田友彦 ,   吉岡晋一郎 ,   庄盛郭子 ,   田辺研二 ,   富井通雄 ,   江原嵩

ページ範囲:P.821 - P.823

I.はじめに
 慢性硬膜下血腫が慢性アルコール中毒患者に起こりやすいことは,よく知られている。これは,主として外傷の頻度が高いこと及び栄養障害による血管の脆弱性によるものと推測されている1)。しかし,慢性硬膜下血腫の発生機序に関しては,ただ出血の結果,硬膜下に小血塊が存在するというだけでは不十分と考えられており,発症に至るまでは何らかの不明の(+α)の要因が必要であると考えられている。我々は,今回慢性硬膜下血腫の発症にアルコール離脱反応が関係したと推測される1例を経験したので,この(+α)要因とアルコール離脱反応の関係について若干の考察を加えて報告する。

Diphenylhydantoinにより惹起されたと思われる腎障害の一例

著者: 三田達雄 ,   金津和郎 ,   大西道生 ,   山口直彦

ページ範囲:P.824 - P.826

I.はじめに
 Diphenylhydantion(DPH)はphenobarbitalと共に抗てんかん剤として最も広く使用されている薬剤であるが,副作用も多い3)。しかし,腎障害1,3,5,8)は極めてまれで,本邦においてはわれわれの知る限りでその報告は見当らない。最近,われわれはDPHの長期連用投与により惹起されたと患われる症例を経験したので,自省と注意喚起を促がすために報告する。

向精神薬による抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)と思われる症例について

著者: 山本節

ページ範囲:P.827 - P.828

I.はじめに
 向精神薬が広く使用されるようになって,その薬効の有用性と同時に副作用も次々と知られるところとなり,薬剤投与に当たっては充分な注意が要求される。最近の薬剤情報には数項目に及ぶ使用上の注意が列記してあるが,そのうち内分泌に関するものの1つに,抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)がある。このたび,同症候群と思われる症例を経験したので報告する。

古典紹介

Hans Berger—ヒトの脳波について—第1回

著者: 山口成良

ページ範囲:P.829 - P.838

 多分,電気生理学の最大の有識者の一人と見なされるGarten原注1)が正当にも力説したごとく,われわれが動物ならびに植物の生きている細胞に電流を発生する能力があると仮定しても,そんなに間違ってはいないだろう。われわれはそのような電流を生物電流と呼ぶが,それは細胞の正常な生活現象を伴っているからである。それは限界電流Demarkationsstrom,変化電流Alterationsstrom,または縦横断電流Längsquerschnittsstromとして呼ばれている損傷によって人工的に生じた電流から十分に区別されねばならない。なんといっても莫大な数の細胞が存在している中枢神経系においてもまた,生物電気現象が証明されるだろうと,もともと期待されていたが,事実,この証明はすでに比較的早期にもたらされた。
 Caton原注2)はすでに1874年家兎とサルの脳の実験を発表し,不分極電極を両側の半球表面か,または一つの電極を脳皮質に,他の電極を頭蓋表面においた。電流は鋭敏な電流計Galvanometer〔訳注。検流計が正訳かも知れないが,慣用として電流計とする〕で導出された。はっきりした電流変動Stromschwankungが見出された。それはとくに,睡眠から覚醒に移る時に,また死がさしせまった時に増強し,死後減衰し,そしてそれから完全に消失した。すでにCatonは,眼に光をあてた時に,強い電流変動が大脳皮質に生ずることを証明した。そして彼は,これらの皮質電流は大脳皮質内の局在づけLokalisationのために役立てられうるだろうという推測を述べた。

特別講演

カナダの精神衛生

著者: 林宗義

ページ範囲:P.839 - P.849

Ⅰ.カナダの医療制度
 カナダという国は,非常に新しい国で,また膨大な国である。アメリカと同じくらい,あるいはもっと大きいくらいの面積をもっているが,全人口は2,000万をわずかに上回るぐらいで,アメリカの1/10にもならないという人口密度の希薄な国である。まだ200年にも足らない歴史で,本当の意味での新開発,つまりこれから発達していこうという国であるので,いつも将来をどうするかということを考えている国といえる。もう一つ非常に特徴的なのは,新しい移民が次々と波状をなして入ってくる。もちろん古い移民もいていわば結局移民の国である。そしてその移民が自分の文化,自分の言語,風俗をそれぞれ保っているという意味でも,ちょっと珍しい国といえる。しかも国の政策としては,それぞれの移民集団,あるいは移民文化をできるだけ保存しようと努力している。こういう意味ではアメリカとやや違う。アメリカでは,一つのスローガンとでもいえるいわゆるmelting potというものをみなで考えている。つまりできるだけuniformにもっていきたいというのが,どうも全体的なアメリカの人たちの考え方であるが,カナダはそれぞれの,例えばフランス人ならフランス人,イギリス人ならイギリス人,また東洋からきた中国人,日本人の集団というもの,それぞれが自分の文化を保存し,それを伸ばしていく。その代りもちろんみんなに共通するものはできるだけ発達させていこうという一つのおもしろい,非常に特徴のある国だと思われる。
 したがってその国へ,わたしが一つの仕事の場を求めて行ったというのは,やはり理由があったのである。それはcross-cultural studyにわたしは非常に興味をもっている。それでミシガン大学当時,ブリティッシュ・コロンビア大学から来てくれと言われた時に,これはあるいはそこで非常におもしろい仕事ができるのではないかと思って,移る決心をしたわけであったが,案の定わたしはこの6年間のわたしの生活,仕事のほうは楽しかったし,また非常にやりがいがあった。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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