研究と報告
分裂病者における対鏡症状について
著者:
臼井志保子12
島弘嗣1
所属機関:
1名古屋市立大学医学部神経精神医学教室
2八事病院
ページ範囲:P.769 - P.776
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抄録 対鏡症状の認められる男性の分裂病者4名を検討し,共通する問題点を取り出した。それは,①顔の問題,②身体像の障碍,③ナルシシズムの問題,④自己の由来の問題,⑤性の同一性の問題,⑥創造妄想,にまとめられた。これらの問題のもつ意味を考察することによって,対鏡症状が,自己の由来に関する疑惑,人物の重複ないし変身の体験,受動的な愛情欲求の主題を三大主徴とする家族否認症候群と密接な関わりをもっているということ,鏡が危機に頻した彼らの自己同一性及び身体像の確立のための手段となっているということが明らかになった。しかし,自己自身(鏡像)を媒介とした自己同一性の確立は何の展開ももたらさないばかりでなく,それぞれの問題が互いに深く結びつき,彼らをますます鏡を見ることに追い込んでいくことによって,結局自己を自己ならざるもの(鏡像)にひき渡し,彼らを破滅に導く危険性を秘めているものであるということが考察された。