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雑誌目次

雑誌文献

精神医学23巻9号

1981年09月発行

雑誌目次

巻頭言

学生教育におもう

著者: 十束支朗

ページ範囲:P.856 - P.857

 教育には夢があり,それが確かなビジョンにつながらなければならない,と日頃自らにいいきかせている。しかし現実は厳しい。例えば国家試験の合格率を高める,とかすぐ役に立つ臨床医の育成などという問題がすぐ目の前に示されると,悠長にかまえてはいられなくなる。そのように揺れ動く中で,精神医学教育について,とくに新設医学部あるいは医大のかかえている2〜3の問題について考えてみたい。
 医師養成の大幅な増員計画から一県一医大を目ざして国立大学の医学部あるいは医科大学が15校(一足先の秋田大学を入れると16校)新設された。ここでは伝統もないかわりに,旧来のカリキュラムにとらわれずに,独自のカリキュラムを計画し実行できるように思えるが,なかなか思い切った事ができない現状ではある。今まで講座と診療科が直結し,それぞれが自分の縄張りを固執してきたのに慣れきっていることが1つの大きな隘路になっていよう。一方,専門野の分化がどんどん進み,基礎と臨床の間もますますかけ離れていることも,新しく講座間の壁をとり除いた統合的なカリキュラムを組み立てる障害になっているとおもう。

展望

精神神経疾患の生物学的問題

著者: 森温理

ページ範囲:P.858 - P.873

I.はじめに
 著者に与えられたテーマは「精神疾患の生物学的問題」であるが,最近におけるこの領域のおびただしい研究を展望することはとりわけひとりの力ではとうてい不可能である。従って,まず初めに本稿で取り上げたものは広汎な問題のごく一部であり,また著者自身の興味に偏ったおそれのあることをお断りしておきたい。それぞれのテーマについてはすぐれた総説や著書13,45,92,94,101,113,160,179)が数多く出版されているのでそれを参照していただく他はない。
 神経疾患についても,また精神疾患についてもそうであるが,近年臨床的研究の基礎となる神経諸科学(神経系の形態学,生理学,生化学,薬理学,さらに神経心理学など)の長足の進展に支えられてあらたな展望が開けつつあり,なかには疾患の本質にいま一歩と迫る所見と思われるものさえみられている。
 形態学的アプローチの面ではまず新しい検査法であるCTによって精神分裂病を初めとするいわゆる内因精神病の脳病変の有無が問い直されたことであろう。これは従来からの気脳所見やあるいは神経病理学的所見58)とあいまって古くからの議論を解明する絶好の機会が訪れたことにもなる。また,大脳半球機能の詳細な研究が進められるにつれ,分裂病の半球機能についても左右差や,間脳,辺縁系との関連について示唆にとむ所見が見出されていることは興味深いことである。一方,形態学の面で最近めざましい進歩の1つは,なんといっても老化過程の神経病理学,特に電顕による老人斑やAlzheimer原線維構造の研究が新しい知見57)を見出していることであろう。Jakob-Creutzfeldt病を中心とした"痴呆"の脳病理も痴呆をささえる脳構造について注目をひく所見を示した。さらに,シナプスの形態と機能的変化とは,超微細構造のレベルで神経系の働きを解明するものであるが,この領域はとくに向精神薬の使用と関連して急速な進歩をとげた98)。その良い例はbenzodiazepineを始めとする脳内の各種レセプターの発見であろう11)
 生理学的アプローチを眺めてみると,精神分裂病や躁うつ病の精神生理的研究として,まずポリグラフィーによるREM睡眠機構の変化が追求され,さらに生体リズムの一環として時間生物学的研究が脚光を浴びつつある153)。これらの研究は今日特に躁うつ病や睡眠関連疾患においてかなりの成果を収めたといえる。一方,精神分裂病と眼球運動の研究143)は,分裂病者の認知,思考など基本的症状のあり方について興味深い示唆を与えてきたが,これは最近の神経心理学の発達と結びついて分裂病の症候学に大きく寄与している。
 生化学的,薬理学的アプローチは特に豊かな成果をあげつつあるようにみえる62)。脳内モノアミンの研究が向精神薬の作用機序と関連して精神分裂病や躁うつ病のモノアミン仮説が登場したことは周知の通りである。特に分裂病とdopamine(DA)代謝,躁うつ病とnoradrenaline(NA)及びserotonin(5HT)代謝との関連は,最も確からしさを示すものであった。また当初副産物のような形で注目されたDA代謝と抗精神病薬の錐体外路作用の知見が,舞踏病やパーキンソン病と脳内モノアミン代謝の関係へと発展し,これらの疾患の病態生理を解明する鍵となったことは興味深いことで,まさに精神医学と神経学との新しい出会いの場所となったといえる。さらに現在,モノアミン説をこえて,GABAや各種神経ペプチド,特に内因性モルフィン様ペプチドであるendorphineなどの向精神作用が,特に分裂病との関連の下で注目されている114)。分裂病の血液透析療法も,その知見の上に行われたものであった。
 一方,amphetamine精神病にみられる逆耐性現象の発見は,シナプス・レベル(レセプター)における過感受性の存在を示唆するものであるが,この事実はいわゆるflashbackなど中毒精神病にみられる臨床症状の再燃を説明するとともに,さらに進んで分裂病の再発機序のなかにも,このようなシナプス・レベルにおける類似の生化学的変化が,その物質的基礎として存在するのではないかとの推論を可能にした116)。戦後,分裂病との症候学上の類似性の発見によって,実験精神医学の上に大きな影響を与えたamphetamine精神病の研究は,ここに至って分裂病の発生についても深い理解に導く第二の時代に到達したといえるかもしれない。またkindlingのような実験的手技の開発が,この課題を一層実り豊かにする可能性を持っていると考えられる。
 神経心理学的アプローチは,大脳生理学特に最近ようやくその詳細が明らかにされつつある大脳連合野の機能と,ユニークな検査方法の発展を背景に,離断脳(split brain)の研究をきっかけとして,WernickeやLiepmann以来の新しい時代に入った108,109)。従来から大脳病理学としてわれわれに親しい領域であった失語,失行,失認などのいわゆる巣症状が,あらたな光の下に解釈されなおされているが108),同時に上記離断脳患者の示す思考,認知,行動が精神分裂病者のそれと類似しているとされ,大きな関心が寄せられている。
 以上,この分野の簡単な展望を試みたが,この他にも精神神経疾患の遺伝学的研究,免疫化学的研究,神経内分泌学的研究154,180)など注目すべき問題は数多い。本稿ではこれらのなかから,特に精神分裂病や躁うつ病を中心として,関連する領域の生物学的問題の二,三を取りあげ,最近数年間の現状と今後の方向について述べてみたい脚注)

研究と報告

精神分裂病者の身体的罹病性について—1.悪性腫瘍との関連 重度精神障害の予後決定因子に関するWHO研究(第1報)

著者: 太田保之 ,   中根允文 ,   高橋良

ページ範囲:P.875 - P.884

 抄録 1960年〜1978年の期間に,長崎市在住者で精神分裂病の診断を受けた病者は,3107例であることが確認された。そしてほぼ完璧にととのっている長崎市在住の腫瘍患者登録表とその3107例の分裂病者を,氏名,性,出生年月日,住所などを照合させた結果,44例の分裂病者が悪性腫瘍を併発していることが判った。
 各年齢層ごとに,分裂病者のperson yearと一般人口の年間悪性腫瘍罹患率を用いて分裂病者悪性腫瘍罹患期待値を算出し,その期待値と実数値の間で差を比較し,次の所見を得た。
 1)男女あわせた全分裂病者と女性分裂病者は,一般人口に比し全悪性腫瘍の罹患率が有意に高かった。
 2)分裂病者を出生年で区分し,それに対応する一般人口との間で悪性腫瘍罹患率を比較すると,1925年以降生れの分裂病者では,男性,女性,および全分裂病者で悪性腫瘍罹患率が高かった。
 3)悪性腫瘍の部位別では,女性分裂病者の乳癌併発率は,女性一般人口に比べ有意に高率であった。
 4)悪性腫瘍併発分裂病者と対照群の非併発分裂病者の間で,向精神薬服用量,入院期間,原爆被爆体験の有無などの比較を行なったが,有意な差はなく,それらの要因が分裂病者の悪性腫瘍高罹患率に関与している可能性は否定的であった。

重症身体疾患とくに悪性腫瘍のいわゆる警告うつ病について

著者: 木戸又三 ,   武村和夫

ページ範囲:P.885 - P.892

 抄録 中高年の自殺者には悪性腫瘍の頻度が高いこと,また中高年の情動疾患の患者では悪性腫瘍による死亡率が高いこと,などを示す統計学的な研究や,抑うつが悪性腫瘍の初期症状である場合があるという臨床的な報告などから,最近,身体疾患とくに悪性腫瘍とうつ病との関係が注目されている。われわれは老人専門の総合病院における約7年間の臨床で,うつ病の治療中に重症身体疾患が発見された5例を経験した。発見された身体疾患は,肺癌2例,胃癌2例,重症肺感染症1例であった。5例のうち4例は,内因性うつ病に近い症状,経過を示し,あとの1例は反応性うつ病により近い病像を示した。そして精神症状の発現から身体疾患の発見までの期間は平均8ヵ月であり,精神症状発現時には既に身体疾患は存在していたものと推察された。このような,いわゆる警告うつ病の範疇に入ると思われる自験例を呈示して,その特徴,成因,治療の意義について,若干の考察を加えた。

精神分裂病者の自殺について—既遂96例の分析から

著者: 上島国利 ,   津村哲彦 ,   大内美知枝 ,   村尾修 ,   橋口京子 ,   林光輝 ,   服部宗和 ,   川原延夫 ,   神定守 ,   藤井康男 ,   長谷川洋一 ,   池上秀明

ページ範囲:P.893 - P.902

 抄録 昭和42年から55年迄に10ヵ所の精神病院で入院中あるいは退院後通院中に自殺した分裂病患者男女計96名について分析した。その結果分裂病者の自殺既遂例では,①自殺時平均年齢は男女共35歳前後で発病から自殺迄の平均期間は10年以上であり,分裂病者の自殺は慢性期に多いことが判明した。②自殺の動機が了解可能だった患者は19.8%あり,①,②の結果は分裂病の自殺が病初期に多く了解不能であるという従来の研究とは異なっていた。この理由の1つとして向精神薬の臨床への導入があげられた。③向精神薬はhaloperidol(HPL)やfluphenazine enanthateの使用頻度が高くHPLは使用量も多く単独使用頻度も高かった。向精神薬による,分裂病に元来備わっている自殺防禦機制の侵害や直接的作用としてのdrug-induced depressionが重要視された。④自殺の予告徴候としてうつ状態,自殺念慮・企図の既往が指摘された。⑤自殺予防のため治療者が家庭環境の調整改善に十分な知識と配慮を持つことの必要性が強調された。

本邦におけるMichigan Alcoholism Screening Test(MAST)の検討

著者: 三田村幌 ,   山家研司 ,   岡本宜明 ,   小片基

ページ範囲:P.903 - P.911

 抄録 本稿では先に発表したMASTの資料の考察を,内外の文献との比較をもとに行い,“Alcoholism” Screening Testの基本的問題を明らかにした。
 (1)MASTの抽出しようとしているAlcoholism概念は今日の依存概念を軸とした考え方とやや異っている。
 (2)抽出されているのはself-identifiedされたalcoholicが主になり,denialによってfalse negativeを生じる可能性は否定できない。
 (3)質問は主にアルコールに関連したsocial disabilitiesとphysical disabilitiesであり,依存の直接的徴候である諸症状の質問が必ずしも充分でない。
 (4)テストの実施は自己記載法が実用的であり,他の方法に較べて大きな差を認めない。家族に問う方法も信頼できる。
 (5)選別基準および加重点について本邦のMASTの結果は一応の有効性を得ているが,実用上,技術上なお検討を要する。

精神症状を呈した側頭動脈炎とS. L. E. の合併症

著者: 笠正明 ,   人見一彦 ,   岡田幸夫 ,   山本博 ,   辻村大次郎

ページ範囲:P.913 - P.919

 抄録 側頭動脈炎は,Hortonらが1934年,一疾患単位として確立し,現在では自己免疫疾患として認められているが本邦においては,症例が少なく,精神症状の記載もない。
 我々は,抑うつ状態に初まり拒否的態度から幻視を伴なうせん妄状態に陥り約1ヵ月の経過で急激に回復した側頭動脈炎と全身性エリテマトーデス(S. L. E. )の合併した症例を経験した。
 この症例では,CT scanに側頭・後頭葉の脳硬塞病変が発見されており,幻視を中心とする精神症状との関連において非常に興味あると思われたので,症状精神病の病像と脳器質病変の関連を中心に,若干の文献的考察を加えた。
 又,この症例においては,治療状況・家族生活史の問題など心理反応的な側面も明瞭であったので,このような身体的基盤・心理的側面の両面より,症状精神病の病像形成にも考察を加えた。

ダウン症候群と先天性甲状腺機能低下症を合併した小児の1例

著者: 有田忠司 ,   渡辺登美子

ページ範囲:P.921 - P.926

 抄録 症例は11歳8ヵ月の男児。身長91cmと小さく幼児体型を呈していた。全身に粘液水腫性変化が認められた。甲状腺腫は触知されなかった。骨年齢は約2歳と遅延発達指数は約10と遅滞していた。
 染色体検査では47XY(21トリソミー)のダウン症候群を示した。
 甲状腺機能検査は,T30.4ng/ml,T4<1μg/dl,TSH基礎値58.0μU/mlで,TRH負荷試験は過剰反応を呈した。24時間甲状腺131I摂取率は3.6%,甲状腺シンチグラムは形成不全を呈した。
 抗甲状腺抗体が症例の血中に認められた。症例の母親にも抗甲状腺抗体が陽性であった。父親は陰性であった。
 本症例はダウン症候群と甲状腺形成不全による先天性甲状腺機能低下症を合併した小児で,その発現要因として自己免疫機序の関与が示唆され,本邦初例と思われた。

精神病症状を示したLaurence-Moon-Biedl症候群の1例

著者: 中村清史 ,   溝口正美 ,   島田明範 ,   佐野欽一 ,   馴田利章 ,   石井正春 ,   田中健

ページ範囲:P.927 - P.934

 抄録 肥胖,網膜色素変性,多指(趾)症,性器発育不全,遺伝性(血族結婚)の5つの主徴を持つLaurence-Moon-Biedl症候群で,しかも分裂病様症状をはじめ,多彩な臨床像を呈した1例を報告した。本症候群で精神病症状殊に分裂病様症状を示す例は,極めて稀とされており,長期にわたって観察された報告はみられない。本論文では,従来の文献例と比較検討しながら,分裂病様症状および情意・性格面の特徴などLaurence-Moon-Biedl症候群の精神症状全般について考察した。

短報

逆転視野に関する逆さ眼鏡を用いた実験的研究

著者: 中尾武久 ,   二宮英彰 ,   藤原正博 ,   池田暉親

ページ範囲:P.935 - P.939

 抄録 逆さ眼鏡を使用した場合,逆転してみえる外界への適応の過程,すなわち,知覚的,行動的適応の機序をより詳細に検索するために,4人の被検者を用いて各種実験を行なった。
 まず適応の過程についてみると,実験第1日では視野の動揺が著明で,外界はゆれ,現実性(reality)を失ない,書字・文字の判読は不能である。また自分の目的とする行動をなしとげるまでの時間が長く,拙劣であった。しかし,これらは実験日を追うごとにほぼ回復し,実験最終日には普段に行なっている行動はほぼ支障なくでき,自転車にのる程度までに回復した。また,視野の動揺による不快感,外界の異和感などは経時的に減少するのに対し,逆さ眼鏡を除去して歩行した場合にみられる船酔に似た眩暈感は次第に増強する傾向を示した。以上の所見の外に,眼球運動の経時的変動の所見をあわせ,適応の過程の神経生理学的意義について考察を加えた。

良好な経過を示した共生精神病の1症例

著者: 森本清 ,   佐藤光源 ,   大月三郎

ページ範囲:P.941 - P.943

I.はじめに
 これまで感応精神病の研究では,病的体験の心理的伝染ともいえる臨床形態とともに,感応成立にかかわる精神病理に関心がよせられてきた。妄想感応型の場合,妄想の発端者と継発者との間の「優位—依存関係」1)が感応成立の重要な因子とされていたが,近年はScharfetter2)の共生精神病(Symbiontische Psychose)のごとく当事者間の共生関係,とくにその社会への閉鎖性が重要視される傾向にある。
 今回,妄想を共有する母・娘症例を経験したがその妄想の感応成立には「優位—依存関係」ではなく,実生活面における共生関係とその行き詰まりとが関与し,良好な経過から心因反応として理解しうる症例であったのでここに報告する。

激しい頭痛,嘔吐を主訴としたVogt—小柳—原田症候群の1例

著者: 加藤政利 ,   太田龍朗 ,   大原健士郎 ,   渡辺郁緒

ページ範囲:P.944 - P.946

I.はじめに
 原田氏病は,1926年原田永之助2)によって報告された特有な臨床所見を有する両眼性の葡萄膜炎であり,現在ではVogt—小柳—原田症候群,特発性葡萄膜炎,uveomeningoencephalitic syndromeなどの名称で総括されている。
 本症候群は眼症状の他に頭痛,発熱,倦怠感,食思不振,聴力障害,皮膚の白斑,毛髪の脱落,白変などを生じ,髄液の細胞増多も伴う特異な神経眼科疾患であり,杉浦ら6)は本病の診断基準として髄膜炎を合併する両眼性肉芽性葡萄膜炎であることを必須条件としたいと述べている。
 今回われわれは,激しい頭痛,嘔吐という神経症状が前面に出現し,他の急性脳疾患との鑑別を要した原田氏病の1例を経験し,発病初期の脳波所見も得られたのでここにそれを報告する。

Alzheimer病患者に対するphysostigmineの効果—心理テストを通して

著者: 佐藤武夫 ,   高橋和郎

ページ範囲:P.947 - P.950

I.はじめに
 Alzheimer病では失見当識および記憶障害を初期症状とし,病勢の進行に伴い多彩な巣症状が出現し,未期には知的活動が停止し植物状態となる。近年,Alzheimer病患者脳の生化学的分析から,acetylcholineの合成酵素であるcholine acetyltransferase活性が大脳皮質,海馬などで選択的に低下していること1,2),しかも中枢コリン作動系の障害は節前性にあることが明らかにされ3,4),さらに中枢コリン作動系の節後受容体を刺激する薬物の投与は一時的ながらAlzheimer病患者の記憶や構成行為を改善することが示された5〜7)。これらの報告はAlzheimer病に対する効果的治療法が全く無い現在,本疾患に対する薬物療法の手がかりを与えるものとして注目される。
 我々は,Alzheimer病第2期の病勢の比較的安定した1名の患者に対し,脳血液関門を通過する抗cholinesteraseのphysostigmineを投与し,痴呆症状に対する検査をくり返し行いその臨床効果を検討した。

古典紹介

Hans Berger—ヒトの脳波について—第2回

著者: 山口成良

ページ範囲:P.951 - P.962

 われわれは,ここに丁度報告した三つの症例において,脳曲線の同じ波をみる。目立つことは,三つのすべてにおいて,大きな波と小さな波は互いに交代し,大きな波は常に小さな波によって続かれ,それから再び大きな波がという規則性があることである。
 硬膜上導出の他の症例において,私は,そのような規則性のある曲線を得なかった。38歳の女性において,その臨床所見の故に,右の前中心回の領域における腫瘍が疑われた。手術で,Gulekeによって,その予想きれた位置で,1.5cmの深部に,その内容が空の嚢腫が見出された。その所見は,嚢腫状に変性した神経膠腫であるとして説明された。腫瘍の除去が不可能であった故に,引き続いてレントゲン照射が計画され,骨が穿頭術の部位で完全に除去された。手術後4週間してから,6.5cm互いに離れて,皮下に挿入された針電極でもって,右側の大きな骨欠損内の二つの部位から曲線が得られた。針電極回路における抵抗は1500オームであった。腕からは,鉛箔電極でもって,二重コイル電流計の電流計2に誘導され,一方電流計1は針電極に結合された。図7にその小断片が呈示されている曲線が得られた。一番上に,その最大の感度で調節された電流計1でもって硬膜上から導出された電流変動がみられる;真中に心電図が,下に1/10秒の時間がみられる。この記録は,前述のすべてのものと同じく,回路の中に挿入されたコンデンサでもってとられた。われわれは,前の記録から既知の,より大きい変動と,より小さい変動をここでもまた見出す。その中で,大きなものは,ここでは90〜100msec,小さなものは40〜50msec続く。しかし,大きな波と小さな波とが互いに続くことによって特徴づけられた一貫して規則的な連続は,ここではみられない。たとえば,図の中央より少し右側に,七つの連続的な小さな波がみえる。曲線は一般に,前掲の諸図において示された曲線の断片よりも,より多くの変異を示すと思われる。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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