icon fsr

雑誌詳細

文献概要

巻頭言

症状の自然史

著者: 阿部和彦1

所属機関: 1産業医科大学精神医学教室

ページ範囲:P.4 - P.5

 精神科で診療に従事する医師にとって,さまざまな症状の自然経過や頻度の推移は大変参考になる基礎知識である。またこれらの症状を持っている人,又はその家族にとっても有益な知識であろう。
 ところがこのような疫学的な調査は,必ずしも充分行われていない。よく出現する症状がどのような年齢で最も頻度が高く,男女ではどのような差があるかについて,私共は3歳児の追跡調査1)と青少年の横断的調査2)から,次のような結果を得た。小児の夜驚は6〜7歳頃が最も多く,この年齢を過ぎるとこの症状は減少の一途をたどる。したがって側頭葉てんかんの可能性さえ否定出来れば,別に治療をしなくても上述の年齢を過ぎれば徐々に消失する場合が大部分といえる。次に8歳頃に最高に達するのが夢中遊行と歯ぎしりで,更に10歳頃ではチックの有病率が最高に達する。また多動と夜尿は3歳以後年齢と共に減少する。以上のべた症状はいずれも男子に多い。これに反して「ねつきにくい」小児は3歳以後,8〜12歳頃まで増加の一途をたどるが,これは女児に多い症状である(男子の約2倍)。同様に成長と共に徐徐に増加する症状としては,同じような物を多く集める収集癖があり,これは男子に圧倒的に多い(女子の約3倍)。次に15歳前後に最も多く出現するものとしては視線恐怖と赤面恐怖があるが,両方とも女子に多く,15〜18歳頃では30%以上に達するのでこの年代にはよくある症状といえる。しかしこの年齢を過ぎると急速に減少するので,長期的に見れば一過性の場合が多いことになる。思春期の少年少女で視線恐怖,赤面恐怖に悩んでいる人の中には上記のような所見,すなわちこれらの症状の頻度と,年齢と共に消失する傾向を知っただけで気持が楽になった,症状が軽くなった,と感じる人も多い。したがってこのような調査結果は治療に役立つ場合もあり,多くの中学生,高校生にとって有益な知識であると思う。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?