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展望
現象学的精神病理学とトランス文化精神医学—回顧と展望
著者: 荻野恒一1
所属機関: 1東京都精神医学総合研究所
ページ範囲:P.6 - P.17
文献購入ページに移動I.はじめに
本論の表題である「現象学的精神病理学とトランス文化精神医学」について,また副題である「回顧と展望」について,はじめに一言しておきたい。次第に明らかになっていくはずであるが,私自身の研究歴から言えば,精神病理学研究の方向が,次第に現象学的精神病理学に結実していき,昭和39年の偶然とも言える新しい経験を契機にして,文化精神医学に目が開かれ,それがトランス文化精神医学へと深化していったと言える。しかしこのことは,「私の研究が,現象学的精神医学からトランス文化精神医学へと移行していった」ということにはならない。私にとっては,このほとんど異質ともいえる2つの精神医学は,「どれから,どれへ」と規定できるものではない。しかしそうかと言って,この2つの精神医学研究領域は,「これとこれ」と併記して事足りるわけでもない。私にとっては,トランス文化精神医学研究は,私の現象学的精神病理学の具体的発展であると同時に,私のトランス文化精神医学は,たえず現象学的精神病理学の原点に立ち返ることをとおして,深化していかなければならないのである。私は,研究成果はともかくとして,このようにたえず自分に言いきかせてきた。簡単に言えば,現象学的精神病理学とトランス文化精神医学は,私の内部ではたがいに相補的である。なおトランス文化精神医学は,いうまでもなく,Wittkowerによって1959年にはじめて提唱されたtranscultural psychiatry31)を言うのであるが,ここでtransという接頭語を邦訳し切れなかったことについては,のちに述べる。
つぎに「回顧と展望」について一言すると,この副題もまた,当然ながらいま述べた表題の意味合いと深くかかわってくる。すなわち私は本論において,まず私自身の研究歴ないし我が国や諸外国の精神医学史を顧み,そこからこれからの研究領域ないし研究方向を展望しよう,と言うのではない。むしろ今日まで自分が学び,考えてきたことを回顧することによって,新しい研究方向が展望されるとしたら,その限りにおいて,そのつど展望しよう,そしてこの新しい展望が,先人たちの過去の業績を顧みることを促がしてくれるときには,またそのつど回顧しよう,というわけである。以下に節別に述べる事柄は,このような意味での回顧と展望のくり返しの報告である。
本論の表題である「現象学的精神病理学とトランス文化精神医学」について,また副題である「回顧と展望」について,はじめに一言しておきたい。次第に明らかになっていくはずであるが,私自身の研究歴から言えば,精神病理学研究の方向が,次第に現象学的精神病理学に結実していき,昭和39年の偶然とも言える新しい経験を契機にして,文化精神医学に目が開かれ,それがトランス文化精神医学へと深化していったと言える。しかしこのことは,「私の研究が,現象学的精神医学からトランス文化精神医学へと移行していった」ということにはならない。私にとっては,このほとんど異質ともいえる2つの精神医学は,「どれから,どれへ」と規定できるものではない。しかしそうかと言って,この2つの精神医学研究領域は,「これとこれ」と併記して事足りるわけでもない。私にとっては,トランス文化精神医学研究は,私の現象学的精神病理学の具体的発展であると同時に,私のトランス文化精神医学は,たえず現象学的精神病理学の原点に立ち返ることをとおして,深化していかなければならないのである。私は,研究成果はともかくとして,このようにたえず自分に言いきかせてきた。簡単に言えば,現象学的精神病理学とトランス文化精神医学は,私の内部ではたがいに相補的である。なおトランス文化精神医学は,いうまでもなく,Wittkowerによって1959年にはじめて提唱されたtranscultural psychiatry31)を言うのであるが,ここでtransという接頭語を邦訳し切れなかったことについては,のちに述べる。
つぎに「回顧と展望」について一言すると,この副題もまた,当然ながらいま述べた表題の意味合いと深くかかわってくる。すなわち私は本論において,まず私自身の研究歴ないし我が国や諸外国の精神医学史を顧み,そこからこれからの研究領域ないし研究方向を展望しよう,と言うのではない。むしろ今日まで自分が学び,考えてきたことを回顧することによって,新しい研究方向が展望されるとしたら,その限りにおいて,そのつど展望しよう,そしてこの新しい展望が,先人たちの過去の業績を顧みることを促がしてくれるときには,またそのつど回顧しよう,というわけである。以下に節別に述べる事柄は,このような意味での回顧と展望のくり返しの報告である。
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