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雑誌詳細

文献概要

特集 精神科診療所をめぐる諸問題 現実と課題

健康保険制度に人間性を

著者: 明石恒雄1

所属機関: 1明石神経科診療所

ページ範囲:P.1097 - P.1100

 昔は医は仁術といわれ,社会的地位も与えられていた。庶民の中にあってくすしは慈しみをもって患者に接し,利害を抜きにして治療を施し,患者はその医師を尊敬することにより自然に社会的地位が与えられたし,上流社会でも貴族・封建社会では時の国家権力より御典医などと社会的地位を与えられていた。そして小咄や川柳で医師が僧侶等と共に皮肉られることはあっても,尊敬されているもの―社会的地位のあるもの―に対する単純な庶民の羨望からであって笑いですませられる程度のものであり,医師と患者の間には太い心の絆があった。
 時代と共に職業の貴賤は薄れ,医師と患者の立場は対等になりキブアンドテイクの概念が生まれつつある。医師は聖職であり,奉仕の精神は失われてはならないが,強者が弱者に対するいわゆる施しではなくなっている。しかし現在の医師の心の中にはまだ「治してやっている」という施し―傲り―の意識が残りエリート意識を捨てきれず昔からの社会的地位に自らしがみついている感がある。患者もまた医師に対する尊敬の念はあるもののむしろ社会的・経済的優位にある(事実はそうだろうか?)医師に対し羨望がたかまり,さらにそれがねたみにも発展しいろいろなトラブルの発生につながる。更には「薬づけ」,「検査づけ」,「乱診乱療」,「脱税」等々,マスコミは庶民のねたみをあおりたてるごとく次々と医師攻撃の矢を放つ。以前精神病院攻撃を行った大新聞の記者と話しあった時も平然と「われわれは商業新聞ですから売れる記事を書かなければならない」と言いきるありさまだ。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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