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雑誌目次

雑誌文献

精神医学24巻11号

1982年11月発行

雑誌目次

巻頭言

精神医学と言葉

著者: 武正建一

ページ範囲:P.1150 - P.1151

 私事になるが,医学部を卒業してから自分の進む道として精神医学を選ぶ際に相当の語学力が必要であるように思われ,語学が得手でない自分がこの事に関して少し躊躇した記憶がある。どうせ不得手ならばと独学でフランス語にまで手をのばしてみたが,これもあまりほめられるようなものとはならなかった。英語が主流となった現在,他の医学の分野ではそれほどドイツ語やフランス語の力を必要としなくなったようであるが,こと精神医学となるとあい変らずそうも言ってはおれない。しかし私の感ずるところでは,どうも英語以外の外国語の力となると年代が若くなるにしたがって(私達も含めて)低下してきているようである。
 精神医学という,人の心を把えその記述をする学問領域にはどの国の言葉がより適しているのだろうかと考えたことがある。日本人であるから日本語はさておくとして,そのことについて少し昔の事になるがフランス留学中まだ存命であったGuiraud, P. にたずねてみたことがある(これについては,生命の科学,第16回月報《現代精神医学大系,中山書店》の中で少しふれたことがある)。Guiraudに言わせると,「自分はフランス人だから当然フランス語なのだが,やや響きは重いがドイツ語の方が精神現象の記述には用語も豊富でより適切ではないかと思う」ということであった。フランスの小説はまるで心理学の教科書を読んでいるようだと評した,これも当時訪れたバーゼル大学での教室員の言葉が思い出されるが,それでもやはりファーブルの昆虫記に代表されるような意味でのこまかな描写力であって,それがまたあの19世紀に開花したフランス精神医学の特徴でもあるのだろうかと考えたりもした。

展望

喫煙に関する精神薬理学的研究:最近の進歩

著者: 宮里勝政

ページ範囲:P.1152 - P.1161

Ⅰ.緒言
 喫煙の身体的有害作用が多くの研究により明らかになり,禁煙キャンペーンが各国で行われている。その有害作用を知り,あるいは喫煙に基づく身体疾患があるため禁煙を試みるが,容易に達成できない事実がある。
 なぜヒトはタバコを喫うのか。この疑問は16世紀に新大陸開発者達によって,西洋文明の中へタバコが導入されてから続いている。種々の強力な宗教的および法的規制は,その使用を抑制するのに効果的ではなかった12,76)

研究と報告

分裂病様症状を呈したKlinefelter症候群の1例—その発達史と精神病理

著者: 内海健 ,   南光進一郎

ページ範囲:P.1163 - P.1168

 抄録 分裂病様症状を呈したKlinefelter症候群の1例につき,発達史および精神病理的側面を中心に考察を行った。発達史では幼児期より強力な母子依存関係およびgender identityの障害がみられ,後者は思春期に身体的徴候が出現するのを契機に再び顕在化していることが認められた。また依存的な傾向と対照的に未分化な攻撃性が潜在している可能性が窺われた。精神症状に関しては発病に際し反応性の要素が強く,精神力動が比較的明瞭にとらえられ,また分裂病様症状自体は軽症に経過していることが認められた。このような病像に関して,全般的な防術機制の未熟性や〈依存—攻撃〉による葛藤の単純な処理などの要因が考えられ,発達史上の問題が病像に影響を及ぼしていることが窺われた。

初老期痴呆3例の発病初期にみられたうつ病様状態

著者: 三山吉夫

ページ範囲:P.1169 - P.1175

 抄録 痴呆患者にみられるうつ病様状態には,内因性うつ病や反応性うつ病の併発の他に,痴呆の部分症状としてのみせかけのうつ病様状態がある。初診時にうつ病と診断され,経過観察中に痴呆が明らかとなった3症例について,その臨床経過を報告し痴呆患者にみられるみせかけのうつ病様状態の特徴について考察した。このみせかけのうつ病様状態には,①悲哀感の乏しさ,②深刻感の欠如,③病態無関心〜否定,④促せば渋滞なく行動するが,放置すれば何もしない,⑤症状の動揺がみられない,⑥抗うつ剤に反応しない,などの特徴がみられ,これらが"器質性"を示唆する手がかりとなる。

Werner症候群の脳波異常と精神症状について

著者: 大山繁 ,   下地明友 ,   舛井幸輔 ,   松永哲夫 ,   佐藤真弓 ,   野上玲子

ページ範囲:P.1177 - P.1184

 抄録 Werner症候群の5例を報告した。5例とも,早期老化現象,皮膚症状,特異な体型と顔貌,性機能異常,両側性白内障などを備えていた。うち3例に,幻覚・妄想,拒絶症,自殺企図,情意減弱状態などさまざまな精神症状を認め,また2例に子供っぽさ,気分易変,易怒,抑制欠如などの情意障害を認めた。5例全てにdiffuse α activityやslow α activityなどの基礎律動の異常と,両側同期性徐波群発がみられ,さらに2例にはFIRDAも認められた。
 自験例にみられた脳波異常について考察を行い,内分泌異常や慢性皮膚疾患と間脳視床下部との関連性から,徐波群発やFIRDAはWerner症候群における間脳視床下部の機能異常の反映と考えた。また精神症状にも同部位の機能異常が関与しているものと推測した。

急性経過をとる散発性脳炎—精神科救急外来との関連において

著者: 前原勝矢 ,   関健 ,   荒井稔 ,   西村真也 ,   木村正久 ,   西克典 ,   飯塚礼二

ページ範囲:P.1185 - P.1194

 抄録 10例の散発性急性脳炎の臨床症状と経過を報告した。これらは10歳又は20歳代の女性に多く,春秋の季節の変りめに多発する。症状は精神分裂病,特に緊張病,ヒステリー,心因反応に酷似するが多くは軽度の意識障害を伴っている。痙攣発作,不随意運動,言語障害など多彩な神経症状も認められる。経過,予後は比較的良好で8例はほぼ病前の生活を維持している。髄液にはリンパ球の増加が見られるが,その経時的変動は急激で初期の短期間のみに異常が認められるものが多い。脳波異常の出現率は高く,急性期にはδ波などの徐波が汎性に出現するが慢性期には棘波,棘徐波結合などの異常波が側頭葉に出現することが多い。従って急性期のみならず長期にわたる経過観察が必要である。発病時の症状から急性内因性精神障害を疑われやすく,精神科救急外来の対象としても重要な疾患と考える。

てんかん発作の内分泌学的検討—発作後の血清PRL,Cortisol,GHの変動について

著者: 竹下久由 ,   川原隆造 ,   長淵忠文 ,   水川六郎 ,   釜瀬春隆 ,   加藤明孝 ,   松林実 ,   田村辰祥 ,   挾間秀文 ,   譜久原朝和 ,   当山貞雄

ページ範囲:P.1195 - P.1202

 抄録 13歳から77歳(平均34.6歳)の種々の臨床発作型を示す50例(男27例,女23例)のてんかん患者について,発作の15分後,30分後,2時間後および24時間後の血清prolactin(PRL),growth hormone(GH),cortisol濃度を測定した。その結果,血清PRL濃度は強直発作,間代発作,強直間代発作などの15〜30分後,一過性に上昇していたが,精神運動発作,無動発作,ミオクロニー発作,意識減損発作などの際には上昇しなかった。血清cortisolは強直発作,間代発作,強直間代発作のほか,精神運動発作の際にも,一過性に上昇し,そのピークは発作のおよそ30分後に認められたが,他の発作型でのcortisolの変動はみられなかった。血清GH濃度は強直発作,間代発作,強直間代発作の一部の症例においてのみ,発作15〜30分後に一過性の上昇がみられた。これらの結果にもとづいて,てんかん発作にかかわる脳内機序につき若干の考察を行った。

Carbamazepineの躁うつ病に対する予防効果—長期投与例についての検討

著者: 岸本朗 ,   小椋力 ,   挾間秀文 ,   井上絹夫

ページ範囲:P.1203 - P.1211

 抄録 1975年,著者らは躁うつ病者にcarbamazepine(CBZP)を使用し,うち51例において,CBZPの躁うつ病相出現予防効果について報告した。今回は前回の報告例のうち,CBZPの総投与期間が,今日までに合計2年(104週)以上に及んだ29例について,あらためて予防効果の再評価を試みた。これら29例の全症例は,前回報告後もCBZPの継続投与がなされていた。したがって29例のCBZP投与の観察期間は,2年1ヵ月〜10年6ヵ月(平均6年2ヵ月)におよび,予防効果の総括では,躁うつ病相の完全抑制例(CBZP使用期間中,まったく病相出現のみられなかったもの)は3例,不完全抑制例(ある程度の病相出現抑制効果のあったもの)は19例,および抑制不能例(効果のなかったもの)は7例であった。この結果は前回報告時に比較して,完全抑制(著効)例が減少して,不完全抑制(有効)例が増加したことを示しているが,経過観察延長によっても,抑制不能(無効)例はそれほど増加せず,躁うつ病相再発の予防にCBZPが有用であることを示すものと考えられた。

精神病様状態を呈したヘルペス脳炎の1症例

著者: 上野郁子 ,   鈴木康譯 ,   大原健士郎

ページ範囲:P.1215 - P.1220

 抄録 発熱・頭痛・嘔吐などの身体症状より発病し,髄液所見よりウイルス性髄膜炎と診断され,対症療法により急性期を脱し自然治癒したものの,発病後1ヵ月して幻覚・妄想状態などの精神症状を主徴として再燃し,後遺症として人格変化・記銘力障害を呈するにいたった,ヘルペス脳炎とほぼ確診できる1例を経験した。ヘルペス脳炎は,最も頻度が高く最も重篤なウイルス性脳炎として知られ,また病初期に精神症状が前景に出ている報告例が多いが,本症例は精神症状を主として再燃したために精神病と誤まられた1例であり,他の報告と比較検討すると,精神症状出現の時期など,ヘルペス脳炎の臨床症状の多彩さを示すものとして,若干の文献的考察を加え,ここに報告する。

カフェイン依存の疑われた2症例

著者: 小片寛 ,   池上宗昭

ページ範囲:P.1221 - P.1225

 抄録 米国ではカフェインを含む嗜好性飲料水や市販鎮痛剤によるカフェイン依存の報告がある。われわれは外来通院患者に鎮痛剤依存の状態を見出したので症例検討を試みた。
 症例1.反応性関係妄想の男性(57歳)。入院直前にはセデスA4錠・ノーシン7〜8包/日を連用していた。入院時に不安焦燥,抑うつ気分,烈しい頭痛と不眠を訴えていた。
 症例2.アルコール依存症で追跡治療中の男性(44歳)。入院前にノーシンAR 2〜4錠,クリアミン10錠/日を連用。入院時の症状は抑うつ状態と不安焦燥,発作性の烈しい頭痛と不眠であった。約2年前からほぼ断酒していた。
 以上の症状は入院後の鎖痛剤服用中断により漸次消失した。鎖痛剤服用の完全中止のためには退院後も1〜2年の外来治療を要した。両症例は鎖痛剤からカフェイン500mg/日以上を連用していたので,カフェイン依存の視点から考察した。

短報

抗てんかん剤の長期服用中に発症したSLEについて

著者: 市川忠彦 ,   須田一

ページ範囲:P.1227 - P.1230

I.はじめに
 ある種の薬剤を長期間服用していると,臨床的にも,血清学的にも自然発症の全身性エリテマトーデス(SLE)ときわめて類似した病態を呈してくることがある。これらは,通常,drug-induced lupus3)と言われ,hydralazine,procainamideなどが代表的な誘発薬剤とされているが,diphenylhydantoinも関係の深い薬剤としてよく知られている。
 このdrug-induced lupusが臨床的に重要な位置を与えられているのは,現在なお原因不明とされているSLEの発症機序を解明していくうえに,ひとつのモデルと考えられるからである。
 著者らは,最近diphenylhydantoinを含む抗てんかん剤の長期服用中に発症したSLEの1例を経験したので,drug-induced lupusとの関連を中心に,若干の考察を加えて報告したい。

眠剤依存患者1例における終夜睡眠ポリグラフィ

著者: 秋山伸恵 ,   梶原一郎

ページ範囲:P.1231 - P.1233

I.はじめに
 薬物中毒,特に眠剤による睡眠時無呼吸の報告1,2)は少ない。筆者らは,長年にわたり不眠を自覚し,プロバリンおよび眠剤一般に慢性依存があって,終夜睡眠ポリグラフ上に睡眠時無呼吸が頻回に認められる症例を経験したので,報告する。

古典紹介

Pierre Janet—迫害妄想における諸感情—第1回

著者: 加藤敏 ,   宮本忠雄

ページ範囲:P.1237 - P.1248

 迫害妄想患者で一次的傾性(tendances primaires)がほとんど変容していないとすると,多分,本質的障害はこれらの傾性の機能調節に見いだされるだろうし,それは感情(sentiments)という形で現われることになる。事実,われわれがさまざまな精神障害のこうした解釈に成功するのは,こんにちごく一般的に認められる感情の変容をとおしてなのである原注1)

動き

「第13回国際神経精神薬理会議」印象記

著者: 伊藤斉

ページ範囲:P.1250 - P.1251

 C. I. N. P.(Collegium Internationale Neuro-Psychopharmacologicum)は精神・神経系の薬理学ならびにこれに関連した生物学,生化学および臨床の研究にたづさわる薬理学者と臨床家がそれぞれの成果を持寄って討論する場とされ,この領域で最も活動的で,主導的役割を演じている世界中の研究者達をメンバーとする学術集会として通っている。隔年開催の大会も回を重ね,本年は第13回Congressとして6月20〜25日,イスラエル国のエルサレム市において行われた。
 中東粉争が険悪化し,イスラエルと,隣国レバノンに蟠居するPLOの両軍の戦斗が行われている最中で,果して予定通り開催されるか危惧されたのであったが,結果としては会期中滞りなくプログラムにそって行われた。会場にはエルサレム市内の小高い丘にある国際会議場と隣接のヒルトン・ホテルが当てられており,ダウンタウンを隔てて旧市街地の域壁を眺む景勝の地であった。

特別講演

国際精神衛生活動

著者: 林宗義

ページ範囲:P.1253 - P.1261

 Ⅰ.国際活動に入ったいきさつ--二文化的精神医学体験をとおして
 国際精神衛生活動は,これまでもすでに,具体的なことに色々触れた註)。であるから,それらを参照されつつ読んでいただきたいのであるが,今回は,国際精神衛生活動の展望,あるいはその本質はどの辺りにあるだろうかを,難しい問題であるけれども,私の経験を通じて些か考えてみたところを述べたいのである。
 第1に,よく聞かれることだが,なぜ君は国際活動をそんなに一所懸命やっているのか,という問いへの答えである。これは,一言では答えられない問いであるが,考えてみるといくつかの間題があるように思う。まず,私が精神医学の手ほどきを受けた日本においてすでに二文化的(bicultural)な精神医学体験をしておったということがある。自分は台湾という1つの教育・文化の場で育った人間で,それが日本の医者という立場で日本人を診る。日本人は台湾の人間と似ているところもあるが違うところもいろいろあるわけで,したがって私はいつもbiculturalな立場で患者を診,治療するという習慣を身につけていたというか,そういう状況に身を置くことを余儀なくさせられていた。私の精神医学はつねに二文化的,あるいは多文化的であった。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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