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文献詳細

雑誌文献

精神医学24巻12号

1982年12月発行

古典紹介

Pierre Janet—迫害妄想における諸感情—第2回

著者: 加藤敏1 宮本忠雄1

所属機関: 1自治医科大学精神医学教室

ページ範囲:P.1377 - P.1388

文献概要

V.浸透感情(sentiments de pénétration)
 精神の浸透はジェームスの観察例ですでに明瞭だったが,しかしそれは思考奪取と緊密に混じり合っている。この浸透は別の感情でもっと鮮明になることがある。私は以前しばしば神秘家たちについて現存感情(sentiment de présence)を強調したことがある原注22)。同じ観点からのこの感情の注目すべき記述はLeuba氏原注23)の著作にも見いだせる。すでに示したとおり,この感情は宗教感情の障害に特有というわけではないし,いつも神の現存を対象とするわけではない。たとえば,マドレーヌは祭壇を部屋にしつらえる時に,自分自身や事物について現存感情をもった。この感情は催眠現象のなかでたくさんの事物について確認されている。神が問題になる場合でも,神はひとりの人間と考えられていて,障害は一般的には,患者が,ただ一人でいるのに,またどんな感覚によってもその人物が知覚されないのに,患者のいる場所に一人の人間が現存するという感情から構成される。
 この感情は迫害妄想のなかで,あるいはその妄想に傾きやすい患者たちにたいへん頻繁に現われる。この感情の始まりはケート(女性,25歳)にみられるが,彼女は今のところ胃腸障害や多少とも重い抑うつしか呈していない。落ち着いた状態で床に入るのに,いざ寝つく段になると苦しくなって,目をさましてしまう。彼女には,自分の部屋にだれかがいて,その人がベッドの前を行ったり来たりするように思われる。彼女は明りをつけ,だれもいないことを確認する。消灯して,眠りに身をゆだねるとすぐ,また同じ感じが現われる。人がドアを叩いているように思われ,つい,お入りなさいと言ってしまうが,だれも入ってこない。彼女で問題なのは羞恥による戸惑いではなく,これらの人びとがむしろ敵であるかのような不安である。こういうことは,夜毎に数回,完全に寝入ってしまう前に,繰り返される。そして,彼女が夜のあいだしばらく眼ざめていても事情は変わらない。《私はそんな時いつも部屋でいやな人びとが息をしたり,ひそひそ話をしたりするのを感じます》。私は同じ感情を,同じ条件下で,つまり半眠の状態で,Tyr.(女性,43歳)にも見いだしたが,彼女にはやはりこの妄想へ傾きやすい素質があった。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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