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文献概要
特集 視覚失認
「同時失認」再考
著者: 大東祥孝1
所属機関: 1京都第1赤十字病院精神神経科
ページ範囲:P.421 - P.431
文献購入ページに移動Ⅰ.同時失認とは何か
同時失認Simultanagnosie(Wolpert,1924)40)は,視覚対象という見地からみた他の視覚失認群(物体失認,色彩失認,相貌失認,など)とは基本的にその立脚点を異にする臨床的概念であって,問題とされるのは認知障害の対象ではなく,認知障害の様式である。即ち部分と全体の把握という問題に関わる論点を内包している。ごく形式的に言えば,同時失認とは部分は把握されるのに全体の把握が困難であるような病態をさすが,認知様式の障害という視点からすれば,同時失認的な事態はある特定の場合に妥当するものではあっても,この他に,部分の認知も全体の認知も困難であるという状況や,同時失認とは全く逆の状況,即ち全体の認知は良好であるのに部分の認知が不良であるような事態も当然想定されねばならないはずである。
事実Wolpert41)は1930年に字性失読literale Alexieの症例をもとに,分化減弱Differenzierungs-schwacheという概念を示唆し(全体的,ゲシュタルト的意味関連は把握されるのに個々の要素の認知が困難である),これが同時失認に相対立する病態であると推論しているが,Weigl(1964)39)も指摘しているように何故かSimultanagnosie(1924)ほどにはあまり言及されていない。
同時失認Simultanagnosie(Wolpert,1924)40)は,視覚対象という見地からみた他の視覚失認群(物体失認,色彩失認,相貌失認,など)とは基本的にその立脚点を異にする臨床的概念であって,問題とされるのは認知障害の対象ではなく,認知障害の様式である。即ち部分と全体の把握という問題に関わる論点を内包している。ごく形式的に言えば,同時失認とは部分は把握されるのに全体の把握が困難であるような病態をさすが,認知様式の障害という視点からすれば,同時失認的な事態はある特定の場合に妥当するものではあっても,この他に,部分の認知も全体の認知も困難であるという状況や,同時失認とは全く逆の状況,即ち全体の認知は良好であるのに部分の認知が不良であるような事態も当然想定されねばならないはずである。
事実Wolpert41)は1930年に字性失読literale Alexieの症例をもとに,分化減弱Differenzierungs-schwacheという概念を示唆し(全体的,ゲシュタルト的意味関連は把握されるのに個々の要素の認知が困難である),これが同時失認に相対立する病態であると推論しているが,Weigl(1964)39)も指摘しているように何故かSimultanagnosie(1924)ほどにはあまり言及されていない。
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