文献詳細
文献概要
巻頭言
精神病院体験入院
著者: 大原健士郎1
所属機関: 1浜松医大精神神経科教室
ページ範囲:P.464 - P.465
文献購入ページに移動次の年の研修医たちには,精神病院に体験入院をさせてみたいと思った。これから,生涯精神科医を続ける彼らに,精神障害者とは何か,精神病院とは何かを医師としてではなく,まず患者として体験してほしいと考えたからである。5人の研修医たちは,私の計画を聞いて,全員が諸手をあげて賛成した。しかし,入院の日が目前に迫ると,彼らは口々に,「本当にやるんですか」と不安がった。前日はあまり眠れなかった者もいた。この計画は何も思いつきで出たことではなかった。私はフレッシュマンの頃から7年間,精神病院に住みつき,家族ぐるみで患者たちにつき合った経験がある。その病院は土地が低く,1年間に2,3度は洪水のためにわが家は水びたしになった。患者たちは病室から出てきて腰まで泥水につかりながら,息子を肩車し,家財道具を運んでくれた。息子は毎晩,私の廻診についてきては,患者からせんべいをもらったり,患者と相撲をとって遊んだ。私は若い医師たちに,患者を異分子としてみるのではなく,人間味あふれた,われわれと同じ人間であるという体験をしてもらいたかった。それだけで十分である。
掲載誌情報