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雑誌目次

論文

精神医学24巻7号

1982年07月発行

雑誌目次

巻頭言

精神科医療の光は北方から

著者: 塚本隆三

ページ範囲:P.684 - P.685

 北海道は一つの県のように考えられているが,九州,四国の11県より広い面積をもち,557万の人間がそこに住んでいる。
 そのなかには,14の行政区(支庁)があるが,便宜上,道央,道南,道東,道北の4つの地区に分けて考えられることが多い。

展望

フラッシュバック現象—主としてその臨床面について

著者: 中田修

ページ範囲:P.686 - P.697

I.はじめに
 最近,ふたたび覚せい剤乱用が大きな社会問題となり,ことに覚せい剤中毒者による凶悪な犯罪が世人の注目を浴びている。これと関連して,覚せい剤中毒にも見られるフラッシュバック(flashback―以下Fbと略記する)現象が世間の大きな関心を呼んでいる。
 筆者はたまたま昭和56年7月に厚生省の依頼で「覚せい剤中毒の診断基準及び治療に関する研究班」の班長になり,6名の班員とともに種々の問題について検討し,昭和57年2月に報告書を提出した。この研究班で検討された問題のなかに,覚せい剤中毒のFbというテーマがあり,これを契機に筆者もFbに関する文献を渉猟する機会をもった。その際,加藤伸勝京都府立医大教授や小田晋筑波大教授に一方ならぬ御高配を忝くした。
 Fb現象についてはとくに加藤の総説24)が有益であり,筆者がこれから書く拙文はそれに多くを加えることはないと思う。多少とも加えるところがあれば,Fb現象がLSDに発見されたことの歴史に立ち入るために古い文献も少し紹介できたことと,1970年代の比較的新しい文献を若干追加できたことであろう。

研究と報告

精神運動発作におけるDreamy Stateについて

著者: 扇谷明 ,   清野昌一 ,   河合逸雄

ページ範囲:P.699 - P.705

 抄録 精神運動発作をもつてんかん患者192例のうちdreamy stateを呈した37例についてそのdreamy stateの臨床特徴を調べた。その結果,dreamy stateは認知の変容体験と追想体験に2大別され,認知の変容体験はその対象により,状況,空間,時間,自己身体,自己,外界の対象に分類された。dreamy stateにおける意識の構造として精神的2重視mental diplopiaを論じ,それは異常体験を伴った高揚した意識に対して,残存の正常意識でその時の周囲の状況をある程度とらえ,そして自分の異常にも気づいている意識の状態であった。mental diplopiaが象徴的に具現化したものとして自己像幻視体験を論じた。またdreamy stateの症状の内容として親近感の変容を論じ,それは現在の認知を自己に統合する際,なつかしいとか奇異なとかの感情を伴って自己にかかわってくるもので,過去の記憶をよびおこそうとする情動の働きを伴ったものであった。

筆蹟学の臨床精神医学への応用—書字にみられる自殺サインについて

著者: 石川元 ,   奥山哲雄 ,   大原健士郎

ページ範囲:P.707 - P.713

 抄録 実際に投身自殺を遂げた19歳強迫神経症者の,治療の場で用いられた日記の書字を筆蹟学的手法を応用して分析した。そのさい,書字は行動パターンの一部であるとの視点に立ち,患者の言動(心理状態)の変化と筆蹟の変化とがanalogousであれば,書字の変化から患者の行動パターンを予測できるのではないか,という可能性について述べた。種々の行動のなかで書字行動には心理状態がより反映されるのではないかと考えたからである。そうした立場に立つと筆蹟鑑定でいう「恒常性」に対して疑問が生じてくるが,自殺などの危機的な状況のもとでは「恒常性」の中でのばらつきでさえも,自殺サインとしての意味を帯びた変化が認められるのではないか,と考えている。

チョウセンアサガオの種子による集団中毒について

著者: 切替辰哉 ,   三田俊夫 ,   岡本康太郎 ,   矢島英雄 ,   江村州 ,   佐藤敬司

ページ範囲:P.715 - P.721

 抄録 1977年,われわれは臨床場面において某高校生13名がヨウシュチョウセンアサガオ(Datura Stramonium L.)の種子を服用し,急性中毒を呈した症例を経験した。偶然,その急性中毒の一連の経過すなわち症状発生から予後までを観察し得たので,症例を中心として報告したい。
 精神症状は,傾眠傾向に続く興奮,注意集中困難,せん妄,失見当識,健忘,記銘力障害を呈した。
 身体症状は,口渇,鼻閉,ねむ気,倦怠感を自覚症状とし,瞳孔散大,頻脈,強直性けいれんを他覚所見として認めた。
 以上の精神症状および身体症状は,記憶障害,不明瞭な言語,嗜眠,運動障害,困惑,失見当識,不快感,幻視,幻聴,注意集中力の減退などを特徴とする,抗コリン剤投与時にみられるcentral anticholinergic syndromeに相当するものと考察された。

精神分裂病者の頭部CT所見—抗精神病薬服用量との関係(第2報)

著者: 譜久原朝和 ,   田中雄三 ,   挾間秀文

ページ範囲:P.723 - P.731

 抄録 20歳から42蔵までの精神分裂病者47名(男31名,女16名)について頭部CT所見と抗精神病薬総服薬量との関係を調査した。CTの測定方法はGyldenstedらおよび岡本らの方法に準じた。まず,対象の全経過の総服薬量をCPZに換算し,男子については,100g「未満」,500g「未満」,500g「以上」の3群に分けてCT所見を比較した。女子については,500g「以上」,1,000g「未満」,1,000g「以上」の3群に分けてCT所見を比較した。次に同じ対象を,年齢,性別をマッチさせて総服薬量をCPZ量に換算した量500g,800gを基準にして,それぞれ「未満」群と「以上」群の場合に分けて同様に比較した。マッチ例,非マッチ例いずれにおいても,「以上」群の方が「未満」群よりも,CT所見上脳室系の各計測値は高い傾向にあった。CT所見と総服薬量との関係は無視できないとの立場から若干の考察を行った。

インスリノーマの3症例についての臨床的研究

著者: 細見潤 ,   吉牟田直

ページ範囲:P.733 - P.740

 抄録 てんかんやヒステリーなどと誤診されたインスリノーマの3例を報告し,何故このような誤診が多いかについて若干の検討を行なった。その結果,発作様式や脳波所見からてんかんと鑑別するのは容易ではないこと,フェニトインの使用により低血糖発作が抑制される可能性があること,軽い意識混濁に基く諸症状は,ヒステリーやその他の神経症,あるいは精神病などの症状として誤認され易いこと,そして空腹時血糖は常に低値を示す訳ではないことなどが考えられた。
 本症は低血糖発作の頻発化,および遷延化によって,ときに重篤な後遺症を残すことがあり,以前から早期診断,早期治療が強調されている。しかしながら実際には未だ本症の存在が看過されていることも少なくなく,したがって常に低血糖発作の可能性を念頭において診療することが重要である。

本態性振戦に合併してみられたうつ状態の2症例—精神病理学的考察

著者: 高岡健 ,   三上泰史

ページ範囲:P.741 - P.747

 抄録 本態性振戦(benign essential tremor,BET)に合併してみられたうつ状態の2症例を,その病前性格・発病状況・治療および経過を検討しつつ報告した。BETとうつ状態の合併例はこれまで報告が少なく,検討も不十分である。われわれは,2つの症例について,BETとうつ状態の持つ意味を検討する中から,①BETの振戦症状はうつ状態の背景に認められる神経症傾向と相関して消長していること②振戦症状はうつ状態へと至る発病状況の1つの要因を構成していることを指摘し,考察を加えた。そしてBETの患者の構成する世界の安定性が危機化する度合に応じて,振戦が状況構成された世界の内部に秩序づけられることができず,世界の外部に違和として表われるようになることがBETとうつ状態を精神病理学的に関係づけていることを述べた。

ClomipramineとDesmethylclomipramineの乳汁中への分泌

著者: 竹村道夫 ,   利田周太 ,   淵野和子

ページ範囲:P.749 - P.753

 抄録 Clomipramine(以下CI)投与中のうつ病患者2例で,血中と乳汁中のCIおよびその代謝物,desmethylclomipramine(以下DC)濃度を測定した。乳汁中のCI,DCは,血漿中と同等かこれより高濃度であり,50mgのCI経口投与と100〜125mgの点滴を受けていた1例では,乳汁中の(CI+DC)濃度は1,000ng/mlに達していた。
 この乳汁中濃度は,今まで他の三環系抗うつ剤(以下TAD)について報告されていた濃度より著しく高いので,この相異に関係すると思われる要因について分析し考察した。
 この問題に関する以前の報告の多くは,個人的情報などの曖昧なデータに基づいており,また他の報告でも薬剤濃度の測定法などに疑問点が多く,乳汁中TAD濃度を実際より低く見積り過ぎている可能性が示唆された。
 乳児に対するTAD投与の安全性が確認されていない現状では,TAD治療中の母親が授乳を希望する場合には,乳児への悪影響を考慮して慎重に対処すべきである。

健常老年者における新抗うつ薬dothiepinとamitriptylineの副作用に関する比較試験

著者: 小椋力 ,   岸本朗 ,   水川六郎 ,   挾間秀文 ,   領家和男 ,   永見輝生 ,   竹本美子 ,   岸野雅栄 ,   吉田明子 ,   三上有史 ,   中尾恵之輔 ,   谷尾和彦 ,   浜田驍 ,   武田倬

ページ範囲:P.755 - P.762

 抄録 健常老年男子7人を対象にして,新抗うつ薬dothiepin hydrochloride(DP)25mgの副作用に関する二重盲検比較試験を実施した。対照薬はarnitriptyline(AMP)25mgで,cross-over法を用いた。自覚症状評価を含む8項目の検査を,与薬後24時間にわたって実施した。
 DP 25mgは,AMP 25mgに比較し,CFF(critical fusion frequency of flicker)値に及ぼす影響は明らかに弱く,その差は,与薬1時間後(P<0.01)から24時間後(P<0.01)まで認められた。安静時における唾液分泌抑制作用(綿球法)は,AMP 25mgに比べDP 25mgの場合に弱かった。クエン酸刺激による耳下腺唾液分泌亢進反応は,両薬剤で抑制されるが,その作用はAMP 25mgに比べDP 25mgで弱かった。
 以上の結果から,DP 25mgはAMP 25mgに比べ,副作用の少ない抗うつ薬と考えられる。

短報

透明中隔腔Cavum septi pellucidiの3症例

著者: 伊東昇太 ,   宇内康郎 ,   河合真 ,   神田良樹 ,   岡本正夫 ,   中山道規

ページ範囲:P.764 - P.767

I.はじめに
 頭部computed tomography(以下CTと略す)の当該診療科での応用はめざましく,気脳写にかわるこの装置による疾病検索はまさしく迅速であり,正確な結果をもたらしてくれる。われわれはこの検査でたまたま表題の3例を確認したので,臨床所見と共に2,3の考察を進めることにする。

脳波異常を持つtrichotillomaniaの2症例

著者: 池淵恵美 ,   斎藤治 ,   増井寛治 ,   亀山知道 ,   安西信雄 ,   丹羽真一

ページ範囲:P.768 - P.771

I.はじめに
 Trichotillomania(抜毛症)は,1889年にHallopeau, M. 1)によってはじめて報告されている。わが国においても多くの報告がみられるが,その多くは情緒障害によるもの,または神経症圏としてtrichotillomaniaをとらえている2〜6)。一方,精神病の1症状とするもの7),性格異常者の自傷行為としてみられるとするもの8)等,異なる観点からtrichotillomaniaをとらえた報告があり,その発症機序もさまざまであると考えられる。
 斎藤9)はtrichotillomaniaの小児例に高率に脳波異常を見出し,てんかんまたはその類縁疾患として一部のtrichotillomaniaをとらえている。しかしこれらの例における抜毛の発生機序と脳波異常との関連は十分明らかとはいえず,詳しい検討が必要と思われる。
 われわれは脳波異常を持つtrichotillornaniaの小児例を2例経験した。ここにその2症例を報告し,文献考察を合わせ脳波異常と抜毛行為との関連を考察する。

古典紹介

Josef Gerstmann—手指失認と純粋失書—新しい症候群—第2回

著者: 板東充秋 ,   杉下守弘

ページ範囲:P.773 - P.780

 第二例の病歴は,概括すれば以下のようである。
 K. F.,50歳,主婦,動脈硬化症の患者で,1926年9月30日から12月24日まで我々の病院に入院して観察された。病歴によれば,それまで健康であった患者は,1年ほど前脳卒中を起こし,一過性(数週間)の右不全麻痺と短期間の軽い話し言葉の障害(Sprachstorung)が見られた。以後,病気の再発はなかったようである。病院では患者は,次のような病像を呈し,これは長目の観察期間中でも著しい変化はなかった。

紹介

今日の西ドイツに於ける精神科医療の現状管見

著者: 池村義明

ページ範囲:P.781 - P.786

I.はじめに
 著者は2度にわたり一精神科臨床医として,西ドイツ連邦共和国の精神科医療実務にたずさわった。第1回目は1972年より1976年春まで約4年近く,西ドイツNordrhein-Westfalen州(州都Düsseldorf)の一州立病院精神神経科に勤務した。その間,西ドイツ専門医制度にもとづいて修練し,1975年12月に専門医制度規定にもとづきその委員会の審査の結果,西ドイツ医師会よりDeutscherFacharzt für Psychiatrie und Neurologieの認定を受けた。第2回目は1978年秋より1980年の暮まで,約2年2ヵ月間西ドイツのPsychiatrischeKlinik der Universität DüsseldorfのProf. K. Heinrichの下で臨床精神医学に従事した。
 通算6年余におよび西ドイツ精神科医療の実際にたずさわった経験とさらにさまざまの専門的見聞をもとにして,西ドイツに於ける精神科医療の現実を紹介してみたい。

強迫神経症患者と健康者に対するLeyton Obsessional Inventoryの試用

著者: 築山育子 ,   横山茂生 ,   久保信介 ,   岩井闊之 ,   吉田周逸 ,   河田隆介 ,   渡辺洋一郎 ,   宮前文彦 ,   西村協子 ,   渡辺昌祐

ページ範囲:P.787 - P.791

I.はじめに
 強迫症状は,神経症をはじめ精神分裂病,うつ病,脳器質疾患などにも認められる精神症状である4,5,8,10)。その治療にあたっては,各種の精神療法や薬物療法が行なわれているが6,9,11),短期間に十分な治療効果が得られない症例に,比較的多く遭遇することは,多くの精神科医が日頃経験することである。
 強迫症状を有する症例をみていると,基礎疾患による差だけでなく,性格特徴にも,更には強迫症状の程度および,強迫症状を病的なものとして苦しむ度合にも,非常に多くの個人差が存在している。この個々の例についてのそれぞれの特徴を十分に把握することは,治療上重要であることは当然であろう。
 しかるに,現在,わが国で一般的に用いられる心理検査の中には,MMPI3)の一部に強迫症状を評価する項目はあっても,強迫症状の性質や程度を詳しく評価できるものはなかった。
 Leyton Obsessional Inventoryは,Cooperらが1970年に作成した,強迫傾向と強迫症状の量と重症度を評価する自己評価法であり,英国では広く使われている。
 今回,筆者らは本検査を邦訳して,強迫神経症患者23名,健康者38名に使用し,それぞれの強迫傾向と強迫症状の有無,程度について,両群を識別し得る結果を得たので報告する。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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