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雑誌目次

雑誌文献

精神医学24巻9号

1982年09月発行

雑誌目次

巻頭言

「WPA京都シンポジウム」を終えて

著者: 森温理

ページ範囲:P.916 - P.917

 本年4月9日から11日まで世界精神医学連合(WPA)と日本精神神経学会との共催による地域シンポジウムが国立京都国際会議場で開かれたことはまだ諸兄の記憶に新しいことかと思う。初めの予定よりはやや下回わったが,それでも850余名の参加者を得て無事会議を終了することができたことは世話役を仰せつかった私としてまことに感慨無量であり,ご協力いただいた方々にこの紙面を借りて心からお礼を申し上げる次第である。今回のシンポジウムの成果については賛否さまざまな評価があると思われるし,また当事者として喧伝すべきことでもないので他の機会にゆずるが,このシンポジウムを通して私自身がつよく感じたいくつかのことをここに誌してこの欄の責を果したいと思う。
 最近は国際会議,国際交流がとみに盛んであって,つい昨年の9月にもわれわれの隣接領域である神経,脳波・筋電図,てんかんなどの大きな国際学会がわが国で開かれた。また国外の学会には毎年多数の人々が参加しているのが現状である。しかし,何といってもこれら隣接領域の学会では,精神医学本来のというか,われわれ自身のホームグラウンドであるという実感を味うには乏しい恨みがあった。その意味で今回のシンポジウムは,規模こそは必ずしも大きくはなかったが,確かにわれわれのものであるという手応えがあったように思う。戦後わが国で開かれた精神医学の国際的会議としては1963年に行われた米国精神医学会(APA)との合同の学会があるが,それ以来ほとんど20年ぶりでもあり,WPAとの関係では日本精神神経学会がWPAに加盟して以後,初めてであるから,われわれの学会の長い国際的孤立を今更のように考えさせられるものがある。開会式終了後,カナダのLin教授が日本の学会もこれを機会によくなるでしょうといわれた言葉を思い出すのである。

展望

機能性精神病におけるプロラクチンの動態—精神分裂病と躁うつ病

著者: 吉田秀夫 ,   吉本静志 ,   高橋良

ページ範囲:P.918 - P.938

I.はじめに
 いわゆる内因性精神疾患の中で精神分裂病と躁うつ病に関して,アミン代謝を中心とした種々の研究が生化学,薬理学,神経生理学的に行われ,少しずつではあるが,病態生理が解明されはじめている。その中で,精神分裂病についてはアミン,特にドパミン(DA)の代謝との関連が注目され,種種の方法論によりこの仮説の検索が進められている。そして生活している病者において脳という人間の最高位の領域の研究にいかにより直接的な方法で迫るかに研究者の模索がある。しかしこれまで試みられた方法としてはまず髄液による種々のアミンおよびその代謝物の測定,次に分裂病死後脳での同様なアミン代謝の測定や,アミン受容体の変化の研究などがある。それとともに,精神神経内分泌学的な研究も数多くなされてきた。これは,下垂体より分泌されるいくつかのホルモンがアミンと深い関わりのあることが判明し,体液中に放出されたホルモンの測定により脳内のアミン機能を推測しようという試みである。この稿では,これらのホルモンのうち特に注目されているプロラクチン(PRL)について,精神分裂病と躁うつ病におけるその動態,および治療薬との関連をこれまでの報告と,著者らの知見に基づいて述べるとともに今後のPRL研究の方向にもふれてみたい。

研究と報告

2歳半以後より5歳までに,精神発達の崩壊を示した9児童例—“折れ線型自閉症”との関係について

著者: 栗田広

ページ範囲:P.939 - P.948

 抄録 2歳半以後5歳までに,精神発達の崩壊を示した9例を検討した。主な臨床的特徴は,2歳半以前の発達は正常か,それに近いこと,2歳半以後,それまで存在した有意味語がほぼ消失し,対人反応および社会性が障害され,執着傾向や常同行動が出現し,知的水準も低下することである。不安症状も比較的よく認められる。全例,粗大な神経学的所見はなく,2例を除き脳波異常はない。家族背景,病前の発達などに共通の所見はない。発症時に身体疾患を疑う症状はないが,発症に先行して心理社会的ストレスが7例に,産科的異常が8例にと高率に認められ,8例が第1子である。同一相談機関受診者8例の男女比は1.7:1で,幼児自閉症のそれに比して,女性に偏っている可能性がある。9例はICD-9の崩壊精神病(disintegrative psychosis)と診断されるが,これらと折れ線型自閉症は,臨床像や経過が類似しており,同種の脳機能障害を基礎にもつ疾患として,一括できる可能性がある。

前頭葉傷害を伴う重症脳傷害児の状態像について

著者: 弟子丸元紀 ,   小笠原嘉祐 ,   室伏君土

ページ範囲:P.949 - P.957

 抄録 重症脳傷害児の,原因・CT所見・脳波所見を検討し,前頭葉傷害と考えられる9症例について,傷害部位別に,(イ)髄質傷害,(ロ)穹隆部傷害,(ハ)眼窩脳傷害が主と考えられる群に分類して検討を行った。共通した前頭葉症状を記すと,(1)発動性の障害,(2)情動の発達と調節の障害:(イ)は発動性は亢進し過反応,(ロ)は抑制され孤立・自閉・常同行為と興味の狭小化,(ハ)は,多動・多幸状・衝動的と,時に無動・無意欲状態を示し,調節障害を示す。(3)運動の調節障害,(4)重度の精神発達遅滞(意図的行動化・言語化の障害,自我(主体性)の発達障害):周囲の状況は良く知覚されているが,統合して理解することが困難,また意図的行動化の障害があり,刺激に対する反応もその場的型式的であり,意志(志向性)を示す行為がなく,主体性(自我)に乏しい。言語遅滞は,言語理解に比較し,言語発声(言語化)の障害がより著明であった。

精神症状を伴ったhomocystine尿症の姉妹

著者: 島悟 ,   保崎秀夫 ,   佐藤忠彦 ,   浅井昌弘

ページ範囲:P.959 - P.966

 抄録 精神症状を伴ったhomocystine尿症の姉妹例を報告した。妹は42歳で,20代後半より不機嫌,興奮が出没し,36歳頃より幻覚・妄想体験が出現している。精神遅滞,痙攣,筋強直,左半身知覚低下を伴う。姉は44歳で,42歳時興奮,亜昏迷,拒絶症等,緊張病様症状が発現し,以後著明な知的能力低下,人格変化を来している。腱反射左側亢進と難聴を伴う。姉妹とも,典型的なhomocystine尿症の臨床症状を呈し,アミノ酸分析で,cystathionine合成酵素欠損による本症と診断した。脳波で姉に,小棘波を右後頭蓋優位に,CTスキャンでは妹に軽度脳萎縮を認める。WAISでIQは妹72,姉64であった。文献的・病因論的考察を加え,さらに姉妹間の症状発現過程,病像,予後の差異に注目し考案した。また薬物,食事療法とともに,精神療法的見地からも治療論的考察を加えた。

EMGバイオフィードバックを主とした治療により改善した痙性斜頸の2症例

著者: 加藤政利 ,   小島忠 ,   山口弘一 ,   大原健士郎 ,   里村淳

ページ範囲:P.967 - P.971

 抄録 今回われわれはEMGバイオフィードバック訓練を主とした入院治療を行い,比較的早期に症状が消失した痙性斜頸の2例を経験した。症例1は38歳の男性で頸部は左を向き,後屈も加わっていた。職場内葛藤が心因として考えられた。症例2は31歳の男性で頸部は左を向いた位置で固定していた。直接的な心因は認められなかった。両例とも受診後早期に入院させ,自律訓練法,薬物療法を併用しながら,月曜から金曜まで1セッションずつ連日施行のEMGバイオフィードバック訓練に導入した。両例ともEMG活動の低下は初期からみられ,頸部の弛緩感覚の認知も10セッション頃にはみられるようになり,その後症状も徐々に改善し,入院後約2ヵ月ほどで症状の消失をみるに至った。このような症状の早期消失には自律訓練法とともに施行したEMGバイオフィードバック訓練が大きな役割を果たしていたと考えられる。

うつ病に対するNomifensineとDimetacrineの二重盲検比較試験

著者: 三田村幌 ,   岡本宜明 ,   小片基 ,   今野渉

ページ範囲:P.973 - P.988

 抄録 うつ病,うつ状態を呈する患者50例(nomifensine 24例,dimetacrine 26例)を対象とし,nomifensineの臨床効果,安全性,有用性などについて検討するため,dimetacrineを対照薬として二重盲検比較試験を行なった。臨床効果では,全般的にみてnomifensineはdimetacrineと同等の抗うつ効果を有するが,中等度改善以上の症例の状態像の推移からみるとnomifensineの速効性が期待でき,また難治・遷延例に対してもnomifensineがその臨床効果の面で若干優れているという印象を受けた。またnomifensineの標的症状は,dimetacrineとやや異なり,倦怠感,動作・態度(寡動),日常行動(臥床,閉居),および意欲の低下などにあり,安全性,副作用の面では全般的には有意差は認められなかった。
 Nomifensineはやや緩和な抗うつ薬であるが,三環系抗うつ薬にみられる抗コリン作働性副作用が少なく,うつ病患者に幅広く使用しうる薬剤といえよう。

短報

各種抗精神病薬のプロラクチン分泌能

著者: 井上寛 ,   小村文明 ,   松林実 ,   市川雅己 ,   石井雄二

ページ範囲:P.989 - P.992

I.はじめに
 抗精神病薬の抗dopamine作用について多くの研究がある。抗精神病薬の抗dopamine作用を知るには髄液中のhomovanilic acidを測定する方法がある。しかし,この場合髄液を必要とすること,homovanilic acidは抗精神病薬投与後,2,3週間で基礎値まで下降したりするため経時的に抗精神病薬の抗DA作用を知ることは困難である。著者らは数年来抗精神病薬の抗DA作用を知る方法としてプロラクチンを測定した。この場合,抗精神病薬を長期間投与しても血漿プロラクチン値は基礎値まで低下することなく持続的に放出されている。そのため,抗精神病薬の抗DA作用の強さを客観的に知ることができるし,また,血漿プロラクチン値は抗精神病薬投与量に比較的相関することがわかっている。しかし,各種抗精神病薬の抗精神病作用もそれぞれに異なっており,プロラクチン分泌能も異なっている。そこで,今回,各種抗精神病薬とプロラクチン分泌能を精神分裂病者を対象に調査したので報告する。それと同時に各種抗精神病薬のプロラクチン分泌能からみた抗精神病薬の抗DA作用の位置づけをし,精神分裂病の薬物療法のあり方について述べる。

アルコール症患者のアルデヒド脱水素酵素

著者: 浅香昭雄 ,   原田勝二 ,   武村信義 ,   逸見武光 ,   石川文之進

ページ範囲:P.993 - P.995

I.はじめに
 飲酒後のエチルアルコールの代謝に関与する酵素として,エチルアルコールをアセトアルデヒドに分解するアルコール脱水素酵素(ADH)と,アセトアルデヒドを醋酸に分解するアルデヒド脱水素酵素(ALDH)が知られており,醋酸は最終的に炭酸ガスと水に分解される。飲酒後の血中アセトアルデヒド濃度はADHではなくALDHによって規定されていること,またアセトアルデヒドはエチルアルコールの数百倍の毒性をもつこと,なども明らかにされている1)
 アルデヒド脱水素酵素(ALDH)には,主要な2種のアイソザイムが存在している。アセトアルデヒドと低濃度で反応する親和性の高いlow Km enzyme(ALDH-Ⅰ)と高濃度になってはじめて反応する親和性の低いhigh Km enzyme(ALDH-Ⅱ)である。ALDH-Ⅰの欠損個体は,アルコール飲酒後一過性の急性症状であるflushing徴候(顔面紅潮,心拍数増加等)を呈するが,このような個体は日本人などのモンゴロイド系人種の約半数を占めている。ところが,欧米においてはこのような欠損個体は稀であり,人種差の存在が知られている6)。一方high Km enzymeについては,いわゆるアルコール依存物質(THP)形成との関連において,慢性アルコール症の成立に際して病因的役割を荷っている可能性が示唆されている4,6)
 もとよりアルコール症は,bio-psycho-sociological-disordersであるが,その遣伝要因の役割についてはすでに双生児研究,家系研究,養子研究により明らかにされている2,3)。近年,人類遺伝学の進歩により,遺伝要因の酵素レベルでの検討が発展しつつある。われわれは,アルコール症の酵素レベルの病因解明を目指して本研究を行なったが,興味ある結果が得られたので報告したい。

古典紹介

Hans Binder—アルコール酩酊状態—第2回

著者: 影山任佐

ページ範囲:P.999 - P.1007

B.異常酩酊
 これに含まれているのは状態像全体がアルコール中毒の平均類型から逸脱し,もはや正常な分布領域には入らないほどにまれにしか出現しないような全ての酩酊型である。この酩酊型の分析の導き役として用いられているのが文献的には幾度か取り上げられてはいるが,個別的に詳細に論じられたことのない量的に異常な酩酊と質的に異常な酩酊との分類である。緒言で触れたこの領域での用語の混乱をかんがみて,どの名称が最も目的に適ったものであるように思われるかをここではまず第一に述べておく必要がある。「病的酩酊」の名称は質的に異常なアルコール反応に対してのみ使用されるべきであるという大多数の研究者の見解に私は賛成である。なぜなら程度ではなく質によって健康者とは異なる状態が「病的」(krank)という言葉によって理解されているものであるという一般の用語習慣とはこのような方法によってしか調和しえないからである。このような理由から,例えばKurt Schneiderは全く正当にも次のような主張を行っている。すなわち,健康者からたんに程度においてしか異なっていない精神病質を「異常」とは呼べても「病的」とはいえない。種類,つまりは質によって単純酩酊から逸脱している異常アルコール反応に対してのみ「病的酩酊」の名を用いることが適切である。とはいえ,単なる量的に異常なアルコール反応に対してどのような名称を使用するのかがあらためて問題として問われなければならない。前述したように,これに対して比較的一般的な地位を占めている名称というものは文献上見当らない。従来使用されていた名称〈「悪酔」,「ひどい酔い方」,「個性反応」,「激越酩酊」,「無意味な酩酊」〉はことごとく誤解の元となってしまっている。このような状況にあってたんに量的に異常なアルコール反応に対しては「複雑酩酊」の名称を用いるのが最も適切であるように思われる。したがって,「複雑酩酊」の名を従来文献にあったような意味とは全く異なってこれを私が使用しているということを明確に強調しておく必要がある。従来は「病的酩酊」と「複雑酩酊」とは同意語として使用されていた。一方,私はこれらを対極に置いている。従来の文献に認められるこの2つの名称の同一視は疑いもなく不適当なものである。なぜなら真の病的酩酊では,単純酩酊と比較してたんなる複雑さではなくして,アルコール作用の全く特殊な根本的に別種の形が問題となるからである。しかしながら,単純酩酊からのたんに量的な程度の逸脱に対して「複雑」の名を与え,この酩酊を「複雑酩酊」と名づけることは理に適ったことである。かくして異常アルコール反応は複雑酩酊〈=量的に異常なアルコール反応〉と病的酩酊〈=質的に異常なアルコール反応〉とに分類される。問題となっている状態は司法面ではどのように判断されるべきかはこれらの名称によって既に示されているので,これらの名称は私見では司法精神医学的にも実際に正しく使用されるという利点がある。
 量的に異常なアルコール反応と質的に異常なものとの区別に関しては,従来の文献以上に明確な本質的特徴を与えてくれるとの判断に立って,意識障害の総論についての前章で私は述べた。既に主張したように,酩酊を特徴づけるためには意識状態が本質的に重要である。この考えに従えば,複雑酩酊とは実際には量的に異常な意識状態にある酩酊で,病的酩酊は質的に異常な状態にあるものである。通常の覚醒意識からのたんなる量的逸脱が昏蒙であり,意識の新しく形成されたものはもうろう状態とせん妄であることをわれわれは認識した。そして,異常酩酊のわれわれの症例を入念に調査してみると次のようなことが明白となった。すなわち,複雑酩酊と私が名づけたものは特別に著明な昏蒙によって事実特徴づけられており,一方病的酩酊ではもうろう性ないしせん妄性意識が存在している。病的酩酊がこれ以前に既に存在していた単純ないしは複雑酩酊に根つぎされて初めて出現するということが往々にしてある。その多くは一過性に挿入されたもので〈Heilbronner,Bonhoeffer,Kutner,Rosenfeld〉,「昏蒙性もうろう状態」ないし「昏蒙性せん妄」として特徴づけられる複合的意識状態がこの場合には形成される。しかしながら,昏蒙はおろかほろ酔の徴候も明確にならないうちに病的酩酊が全く突発的に出現する場合もありうる。

資料

福岡市保健所における精神衛生相談の統計的観察

著者: 足達淑子

ページ範囲:P.1009 - P.1017

I.はじめに
 精神衛生法の改正により,保健所が,地域における精神衛生活動の第一線機関と位置づけられて22,38)既に16年が経過した。当初,戸惑いをもって迎えられた35)この新しい仕事は,多くの問題点を抱えながらも16,20,21,30),公衆衛生活動の中に定着し,相談や訪問の件数を延ばし,社会復帰相談事業(いわゆるデイケア)に取り組む保健所も増えてきている23)。しかしながら,地域精神医療という観点に立つと,この活動も未だに大きな力となり得ていないことは多くの認めるところであり14,20,35),また衛生統計上の増加は確かであっても,その具体的な内容が検討された報告13,18,27,41)は少ない。そこで,本論文では,福岡市における精神衛生相談の実情を調べ,内容を分析し,問題点を検討してみた。

特別講演

H. E. Ehrhardt:国際比較の観点よりみたドイツ連邦共和国の精神医療の今日的問題

著者: 武藤隆

ページ範囲:P.1019 - P.1030

I.はじめに
 精神的疾患および障害の科学としての精神医学は,医学における他の臨床科目と同様に,その領域に該当する患者達をその都度可能なかぎり治療しようと努力する使命と義務を有している。医療は,まず第一に,そして当然のことながら,ある特定の患者の病的状態に適したかつ最大の効果を約束するすべての身体的および精神的治療法を用いる医学的処置である。医療には,更に,共同体への社会的統合ないし再統合の前提となる精神的健康を,完全にあるいは可能なかぎりに回復することを目的とするリハビリテーションが含まれている。最後に予防は,現代の精神医療の第三の支柱である。我々は,精神的障害の進展を妨げるために,たとえば教育制度において精神衛生学的手法を用いる。この種の障害の早期発見,早期治療の可能性を改善することは非常に大切である。
 残念ながら精神医学領域におけるリハビリテーションと予防の保健政策上,社会政策上の重要性は,長い間ごく最近まで多くの国々において全く見過ごされ,そうでなくても過少評価されていた。精神医療の概念をより明確化すること,そして部分領域に精密化することは,ますます必要であることが明らかとなる。実際には限りのない,いわゆる一次予防の領域と,たとえば修復不可能な重症の脳欠陥のある患者の看護とは,精神医療に組み入れられる諸使命の幅広い尺度の,いわば両極端をなしている。個々の医師の可能性と能力は別として,社会法的観点でのこの種の考え方は,所管分担を考慮するとき,とりわけ財政的援助の問題や優先順位の設定の場合に,非常に非実際的であるために責任ある政治家に対し,刺激的であるよりは萎縮させるように働き,ほとんど必然的に誤った投資へと導いてしまう。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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