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文献詳細

雑誌文献

精神医学24巻9号

1982年09月発行

文献概要

古典紹介

Hans Binder—アルコール酩酊状態—第2回

著者: 影山任佐1

所属機関: 1東京医科歯科大学犯罪精神医学

ページ範囲:P.999 - P.1007

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B.異常酩酊
 これに含まれているのは状態像全体がアルコール中毒の平均類型から逸脱し,もはや正常な分布領域には入らないほどにまれにしか出現しないような全ての酩酊型である。この酩酊型の分析の導き役として用いられているのが文献的には幾度か取り上げられてはいるが,個別的に詳細に論じられたことのない量的に異常な酩酊と質的に異常な酩酊との分類である。緒言で触れたこの領域での用語の混乱をかんがみて,どの名称が最も目的に適ったものであるように思われるかをここではまず第一に述べておく必要がある。「病的酩酊」の名称は質的に異常なアルコール反応に対してのみ使用されるべきであるという大多数の研究者の見解に私は賛成である。なぜなら程度ではなく質によって健康者とは異なる状態が「病的」(krank)という言葉によって理解されているものであるという一般の用語習慣とはこのような方法によってしか調和しえないからである。このような理由から,例えばKurt Schneiderは全く正当にも次のような主張を行っている。すなわち,健康者からたんに程度においてしか異なっていない精神病質を「異常」とは呼べても「病的」とはいえない。種類,つまりは質によって単純酩酊から逸脱している異常アルコール反応に対してのみ「病的酩酊」の名を用いることが適切である。とはいえ,単なる量的に異常なアルコール反応に対してどのような名称を使用するのかがあらためて問題として問われなければならない。前述したように,これに対して比較的一般的な地位を占めている名称というものは文献上見当らない。従来使用されていた名称〈「悪酔」,「ひどい酔い方」,「個性反応」,「激越酩酊」,「無意味な酩酊」〉はことごとく誤解の元となってしまっている。このような状況にあってたんに量的に異常なアルコール反応に対しては「複雑酩酊」の名称を用いるのが最も適切であるように思われる。したがって,「複雑酩酊」の名を従来文献にあったような意味とは全く異なってこれを私が使用しているということを明確に強調しておく必要がある。従来は「病的酩酊」と「複雑酩酊」とは同意語として使用されていた。一方,私はこれらを対極に置いている。従来の文献に認められるこの2つの名称の同一視は疑いもなく不適当なものである。なぜなら真の病的酩酊では,単純酩酊と比較してたんなる複雑さではなくして,アルコール作用の全く特殊な根本的に別種の形が問題となるからである。しかしながら,単純酩酊からのたんに量的な程度の逸脱に対して「複雑」の名を与え,この酩酊を「複雑酩酊」と名づけることは理に適ったことである。かくして異常アルコール反応は複雑酩酊〈=量的に異常なアルコール反応〉と病的酩酊〈=質的に異常なアルコール反応〉とに分類される。問題となっている状態は司法面ではどのように判断されるべきかはこれらの名称によって既に示されているので,これらの名称は私見では司法精神医学的にも実際に正しく使用されるという利点がある。
 量的に異常なアルコール反応と質的に異常なものとの区別に関しては,従来の文献以上に明確な本質的特徴を与えてくれるとの判断に立って,意識障害の総論についての前章で私は述べた。既に主張したように,酩酊を特徴づけるためには意識状態が本質的に重要である。この考えに従えば,複雑酩酊とは実際には量的に異常な意識状態にある酩酊で,病的酩酊は質的に異常な状態にあるものである。通常の覚醒意識からのたんなる量的逸脱が昏蒙であり,意識の新しく形成されたものはもうろう状態とせん妄であることをわれわれは認識した。そして,異常酩酊のわれわれの症例を入念に調査してみると次のようなことが明白となった。すなわち,複雑酩酊と私が名づけたものは特別に著明な昏蒙によって事実特徴づけられており,一方病的酩酊ではもうろう性ないしせん妄性意識が存在している。病的酩酊がこれ以前に既に存在していた単純ないしは複雑酩酊に根つぎされて初めて出現するということが往々にしてある。その多くは一過性に挿入されたもので〈Heilbronner,Bonhoeffer,Kutner,Rosenfeld〉,「昏蒙性もうろう状態」ないし「昏蒙性せん妄」として特徴づけられる複合的意識状態がこの場合には形成される。しかしながら,昏蒙はおろかほろ酔の徴候も明確にならないうちに病的酩酊が全く突発的に出現する場合もありうる。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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