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研究と報告
イムの文化的背景に関する考察
著者: 高畑直彦1
所属機関: 1札幌医科大学精神医学教室
ページ範囲:P.37 - P.43
文献購入ページに移動 抄録 多数のイムの観察に基づく詳細な報告が,内村らによって1938年に行われているが,僅か半世紀を経た現在,イムは既に過去の特殊な病態とみられている。このイム発生の推移からも,背景に様々な要因のあることが考えられる。ここでは,アイヌ史と文化を再考察することにより,内村らの重視したアイヌ固有の推感性が,民族衰退の重荷の上に生じていたこと,イムを誘発させるトッコニ(蛇)がアイヌ女性の深層心理と強く結びついたものであったことを明らかにした。さらにアイヌ文化史との対比の上で,イムがシャーマンの一種であるトスから派生し,祭儀礼の中に組みこまれ,酒宴座興の場にひき出されて消滅していく過程をとらえ,それぞれの段階をトスイム,まつりイム,あそびイムと名づけた。さらに,記述されているイムの特有な症状が,衰退過程にあるアイヌの深層心理に根ざした,抵抗の象徴擬態であることを推論した。
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