研究と報告
心因を契機として発症したCapgras症候群の1症例
著者:
中村清史1
佐野欽一1
山口弘一1
島田明範1
松林直1
溝口正美1
小林紀江1
緒方明2
石井正春3
所属機関:
1第2駿府病院
2国立静岡東病院(てんかんセンター)
3静岡大学障害児心理
ページ範囲:P.1083 - P.1090
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34歳の主婦。伊豆の地震,大平元首相の死を数ヵ月前に夢で予言,適中させ,週刊誌にも紹介され,各地に信者を持つ霊感師。症例は発病時33歳の厄年にあたり,産後の疲れ,使用人の急死。33と言う霊感師にとって忌わしい数値に偶然にも再三遭遇したことから縁起をかつぎ数値にとらわれ,不安状態となり,56年12月の暮『自分の死』を予告する夢を見るに至って死に怯え,不安,不眠が続き,離人症,二重身,Capgras症候群(一過性)そして幻覚妄想状態,昏迷(緘黙寡動状態)となり,57年1月の末に当院へ入院。絨黙寡動状態が消褪すると共にCapgras症候群が前景にみとめられ,広義の離人症,病院を始め外界をも作られた人工の物だと主張するなど未視体験様の症状が認められた。本症例は人格の崩れが目立たず,情意面も保たれており現時点では精神分裂病とは診断出来ない。また身体神経学的検査でも正常であり器質性の脳疾患でもない。ただ元来性の性格に問題があり,それに加えて様々な心因が絡み合ってCapgras症候群が発生したと考えられる。本論文ではまず従来のCapgras症候群の主要な報告例を述べ,殊にこの妄想の発生機序について文献例では,どのように論じられているかに関して論じた。つぎにわれわれの症例の発病に至った過程に触れ,Capgras症候群の発生機序について報告を行ない,離人症,未視体験などとの関わり合いを述べた。