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雑誌目次

論文

精神医学25巻12号

1983年12月発行

雑誌目次

特集 カルバマゼピンの向精神作用 巻頭言

躁うつ病に対するカルバマゼピン療法の歴史

著者: 大熊輝雄

ページ範囲:P.1244 - P.1245

 炭酸リチウム療法は,従来有効な治療法に乏しかった躁状態の治療に有効であるだけではなく,躁うつ病相の反復出現を予防する効果をもつという点で,精神医学の歴史のうえでも画期的な治療であると思われる。
 しかし,炭酸リチウム療法にも短所がある。そのひとつは,治療のための薬用量と中毒量との差が小さいため,急性中毒を生じやすく,中毒の出現を防ぐためには注意深い血中濃度の監視が必要なことである。また炭酸リチウムは,予防療法のためには長期間連続的に使用する必要があり,長期連用によって腎障害などの重篤な副作用を生じる場合がある。さらに炭酸リチウム療法には,いわゆるresponderとnon-responderとがあり,non-responderに対しては炭酸リチウムはほとんど効果を示さない。したがって,躁うつ病の治療および予防のためには,炭酸リチウムよりもさらに安全でしかも有効な薬物が必要であることはいうまでもない。

カルバマゼピン長期投与による躁うつ病の経過

著者: 藤原豊 ,   江原嵩 ,   大月三郎

ページ範囲:P.1246 - P.1253

 抄録 Carbamazepineを長期間投与した感情障害の症例を経過観察し,その予防効果の再検討を行なった。対象は,過去2年間に6ヵ月以上carbamazepineを投与した感情障害27例で,躁うつ病双極型22例,単極型1例,分裂情動型4例であった。Carbamazem pine投与期間は8ヵ月から9年4ヵ月に及んだ。予防効果は,躁うつ病双極型22例のうち有効:8例,やや有効:9例,無効:4例,判定困難:1例であり,単極型1例は無効,分裂情動型4例では有効:1例,やや有効:1例,無効:2例であった。有効例の臨床上の特徴として,①10代前半の発症で持続型の経過をとるもの。②分裂情動型の一部や,躁うつ病でも混合状態や気分と調和しない精神症状など,非定型病像を呈するもの。③炭酸リチウム,抗うつ剤などに反応性が乏しく,易怒性,易刺激性の著明なもの,などが挙げられた。それぞれ,特徴的な有効例について症例報告を行なった。

長期観察からみたカルバマゼピンの躁うつ病相予防効果—リチウム剤との比較およびresponderに関する検討

著者: 岸本朗 ,   井上雄一 ,   小村文明 ,   挾間秀文

ページ範囲:P.1255 - P.1263

 抄録 18ヵ月以上にわたってカルバマゼピン(Carbamazepine,CBZ)と炭酸リチウム(Li)を病相出現に対して予防的に使用した感情病について,両薬物の予防効果に関する比較を行った。対象症例数はCBZ群41例(平均与薬期間64.2ヵ月),Li群39例(同58.4ヵ月)であった。CBZ群では33例(80.5%),Li群では29例(74.4%)に病相出現の消失か減少(対照値の1/2以下)または重症度の軽減が観察された。CBZ群とLi群の間には抗うつ病相予防効果では差異は認められなかった。抗躁病相予防効果では有意差を認めるには至らなかったがCBZ群がLi群にやや優っていた。またLi,CBZ与薬例にそれぞれCBZかLiの追加与薬を行った場合には明らかな予防効果の増強が認められた。そのほかCBZのresponderの臨床特性についての検討を行い,いくつかの臨床的指標を示した。

カルバマゼピンとリチウムの抗躁効果の比較—2つの二重盲検比較試験資料に基づく分析

著者: 渡辺昌祐

ページ範囲:P.1265 - P.1273

 抄録 躁病患者を対照とした2つの二重盲検比較試験論文(炭酸リチウム:クロルプロマジン,カルバマゼピン:クロルプロマジン)より,炭酸リチウムとカルバマゼピンの抗躁作用プロフィルと副作用パタンを再検討した。
 抗躁作用では,炭酸リチウムは初期効果に優れ,悪化症状がみられないがカルパマゼピンは各週ごとに強力な抗躁作用を示す反面,悪化症状が残る点を指摘出来る。

情動障害に対するカルバマゼピンの効果と脳波変化

著者: 赤沢滋 ,   井上令一

ページ範囲:P.1275 - P.1284

 抄録 Carbamazepine(CBZ)を躁うつ病患者に投与し抗躁効果,躁うつ病相の予防効果を認めたとの報告がみられるが,CBZが古くから基礎波を中心とした脳波変化を惹起することが知られているにもかかわらず,CBZが治療対象となった躁うつ病および躁,うつ状態の脳波所見についての報告は乏しい。われわれはbipolar disorder 5例,major depressive disorder 2例,schizoaffective disorder 2例にCBZを投与し臨床効果と脳波変化について検討した。以上の9例中8例でCBZ投与により症状の軽快を認め,脳波では基礎波の徐波化が示された。さらにその徐波群が過呼吸により著明に増強され,しばしば突発性徐波として出現した。上記の脳波変化は臨床効果のみられた時期に一致して出現し,持続する傾向があった。以上から情動障害を主症状とする疾患群でCBZが有効に作用し上述の脳波変化を示す一群は臨床的にもいくつかの特徴を示し,より生物学的な規定性をもつと推定された。

非定型周期性精神病に対するカルバマゼピンの予防効果

著者: 小山司 ,   山下格

ページ範囲:P.1285 - P.1293

 抄録 非定型周期性精神病の一類型として,性周期に関連する周期性精神病を取り上げ,カルパマゼピン(Carbamazepine,CBZ)の病相出現予防効果を検討した。対象患老者9例について,6ヵ月から3年6ヵ月(平均1年8ヵ月)にわたって観察した結果,周期性病相の完全抑制例は5例,不完全抑制例は3例,抑制不能例は1例で,本疾患群の周期性病相出現の予防にCBZが有用であることを示すものと考えられた。さらにCBZの薬物動態学的検索を行ない,得られたパラメーターに基づいて,実際の治療計画への応用を試みたので,その概略についても報告を加えた。最後に,著者らの神経内分泌学的検索結果に基づき,本疾患群の病態として,潜在する視床下部一下垂体機能不全を基盤とした何らかのswitch processの関与を想定し,CBZの奏効機転について考察した。

家庭内暴力の薬物療法—カルバマゼピン(テグレトール)と抗精神病薬の併用

著者: 籠本孝雄 ,   谷口典男 ,   野田俊作

ページ範囲:P.1295 - P.1299

 抄録 われわれは,いわゆる家庭内暴力児に対してカルバマゼピンと抗精神病薬(主としてハロパリドール)の併用投与を試みた。
 30例中20例で,毎日1回以上あった暴力が,投与開始後に完全消失し,残る10例でも,暴力の明らかな減少をみた。維持投与量はカルバマゼピン100〜400mg/日,ハロベリドール0.75〜3mg/日の比較的少量で十分なものが多かった。副作用としては,眠気,ふらつき,発疹などがあったが,投与量の調節によって消失した。本療法と精神療法との併用で,家庭内暴力に対するより効率的な治療が展開できると考えている。

カルバマゼピンの作用機序に関する予備的検討

著者: 融道男 ,   三ッ汐洋

ページ範囲:P.1301 - P.1304

 抄録 25mg/kgおよび50mg/kgのカルバマゼピンをラット腹腔内に投与し,30分後にマイクロウェーブで屠殺した。脳を前頭前野,線条体,側坐核,視床,扁桃核,海馬,黒質,腹側被蓋野,青斑核の9部位に分け,γ-アミノ酪酸量を測定したが,対照群との間に差はみられなかった。一方,恒暗条件下で自発運動量と飲水行動量が自由継続リズムを示しているラットをカルバマゼピン含有飼料を与えて飼育を続けたところ,日周リズムの周期が延長する傾向がみられた。

精神障害に対するカルバマゼピンの使用状況についての一調査—躁うつ病,精神分裂病を中心に

著者: 大熊輝雄

ページ範囲:P.1305 - P.1315

 抄録 現在,わが国においてカルバマゼピンがてんかん以外の精神障害の治療に使用されている状況を知るために,その発売者である日本チバガイギー社が日本精神神経学会会員に対して簡単なアンケート調査を行った。回答者は404名で回答率は8.0%にすぎなかったが,カルバマゼピンが躁うつ病躁病相,精神分裂病,非定型精神病その他多種類の精神障害に使用され,ある程度の有用性を認められていることがわかった。また回答を寄せた医師の一部に症例記録の作製を依頼し,躁うつ病81例,精神分裂病72例の症例記録が蒐集された。躁状態,うつ状態について,改善例と非改善例とで背景因子の相違の有無を調べたが,有意差はみられなかった。精神分裂病については,興奮,多弁・多動,衝動行為など感情障害に関係した症状にたいして有効であることが示唆された。本調査の意義や限界について簡単な考察を行った。

討論

著者: 大月三郎 ,   稲永和豊 ,   江原嵩 ,   小山司 ,   融道男 ,   岸本朗 ,   大熊輝雄 ,   井上令一 ,   高橋良 ,   渡辺昌祐 ,   更井啓介 ,   赤沢滋 ,   安藤信義 ,   籠本孝雄

ページ範囲:P.1316 - P.1320

 大月 江原先生の「カルパマゼピン長期投与による躁うつ病の経過について」の御報告について,御質問はありませんか。
 稲永 症例1ではカルバマゼピンの1日量が50mgということですが,投与法はどうされましたか。

研究と報告

行動異常のみられた48, XXYYの1症例

著者: 年澄徹 ,   玉井顕 ,   竹内義孝 ,   鳥居方策 ,   北谷真潮 ,   高橋弘昭 ,   富岡秀文 ,   中川允宏

ページ範囲:P.1321 - P.1327

 抄録 48, XXYYの染色体構成をもつ症例は,1960年MuldalとOckeyによるdoublemaleとしての報告が最初であるが,稀な疾患であることから報告例はまだ少ない。
 本疾患の臨床的特徴が,47, XXY Klinefelter症候群に類似していることから本疾患をその亜型と考えている研究者達も多い。しかし,近年一つの独立疾患としてとらえようという傾向にあり,高身長特にその上/下節比,知能指数の低さ,皮膚紋理所見などからそれを区別しうるとの見解もある。今回我々は,知能障害,反社会的行動,フェティシズムなどを呈し,その染色体分析の結果,48, XXYYであることが判明した1例を経験したので,本疾患に特異的な所見があるのかどうかを中心として種々の検討を行った。
 結果:我々の症例に関しては,その臨床的特徴,皮膚紋理所見,上/下節比などからは,47, XXY Klinefelter症候群と区別しえなかった。

慢性分裂症のポジトロンCT所見

著者: 豊田純三 ,   宮崎知博 ,   須貝佑一 ,   飯尾正明

ページ範囲:P.1331 - P.1339

 抄録 5例の男子正常例(平均年齢36歳)と15例の慢性分裂症例(うち女子2例,平均年齢42歳,平均罹患年数17年)のポジトロンCT画像を比較・検討した。分裂症例はすべて抗精神病薬を服用していた。標識化合物には,検査直前1回吸入させた11C-CO2と,10〜15分前経口投与した11C-グルコース(ともに10〜20 mCi)を用いた。
 正常例では両標識化合物でともに前頭部に高活性を認め,多少の左右差はあっても,標識化合物によっての画像の相違はなかった。

多施設協同二重盲検法によるZimeldineとImipramineのうつ病に対する臨床的有用性の比較

著者: 平松謙一 ,   高橋良 ,   森温理 ,   村崎光邦 ,   井上令一 ,   風祭元 ,   佐久間昭

ページ範囲:P.1341 - P.1350

 抄録 Serotonin再取り込み阻害剤である新抗うつ剤zimeldine(ZMD)1日200mg(分2)とimipramine(IMP)1日150mg(分3)との二重盲検比較試験をprimary major depressive disorder 103例について行い次の成績を得た。
 1.最終全般改善度ではZMDとIMPの間に有意差は認められなかった。
 2.層別解析の年齢40歳以上,初発年齢40歳以上,うつ病回数3回以上,軽症・中等症および前薬無効例でZMDはIMPより有意に優れていた。
 3.ZMDの効果発現はIMPより速い傾向にあった。
 4.症状別改善度ではZMDは病識で優れた。
 5.概括安全度ではZMDはIMPより有意に安全度が高く,抗コリン性,自律神経系の副作用がZMD群に少なかった。
 6.ZMDの有用性はIMPより優れていた。
 以上の結果をうつ病の異種性およびアミン仮説との関連で考察した。

短報

精神神経症状を伴ったAcute febrile neutrophilic dermatosis(Sweet病)の1例

著者: 千葉茂 ,   高橋三郎 ,   直江寿一郎 ,   池田明穂 ,   宮岸勉

ページ範囲:P.1351 - P.1353

 I.はじめに
 Acute febrile neutrophlilic dermatosis(Sweet病)は,①発熱,②末梢血の白血球増多,③有痛性隆起性紅斑,④真皮における稠密な好中球浸潤,を特徴とする原因不明の急性疾患であり,多くは数週ないし数ヵ月の経過で寛解,治癒に至るが,しばしば再発を示す。本疾患は1964年Sweet5)により初めて報告されて以来,世界各地から100例以上の発表があり6),本邦においても湯本ら9)によれば64例の報告がある。最近著者らは,本症の経過中に精神神経症状を伴った1例を経験したので報告する。

自殺未遂で発見されたCushing症候群の1臨床例

著者: 長瀬精一 ,   羽田忠 ,   小泉準三 ,   高橋慎一郎 ,   園部真 ,   池田秀敏

ページ範囲:P.1354 - P.1356

I.はじめに
 Cushing症候群に精神症状が伴うことはよく知られているが,わが国においてその精神症状についての報告は数少なく,わずかに野村12),遠藤2),北脇9)の報告が得られる程度にしかすぎない。今回著者らは自殺未遂という緊急状態を経て初めて発見されたCushing症候群の1例を経験したのでここに報告したいと思う。

皮膚寄生虫妄想を呈した特発性副甲状腺機能低下症の1例

著者: 奥野洋子

ページ範囲:P.1357 - P.1360

I.緒言
 皮膚寄生虫妄想は,疥癬恐怖症,寄生虫恐怖症,初老期皮膚寄生虫妄想(Ekbom,1938)3),慢性幻触症(Bers u. Conrad,1954)4),慢性体感幻覚症(保崎,1959)5)など種々の名称で呼ばれた初老期のとりわけ女性に多い臨床単位である。体感異常を言葉豊富に描写し,病識を欠き,単一症候的で―妄想は体系化されず,被害的態度も通常は欠如している―自然治癒のない慢性の経過が特徴とされてきた。治療的には,従来は反応しにくいと強調されてきたが,近年はphenothiazineやbutyrophenoneが効を奏す例が存在したという報告6,7,13,25)が散見される。Conrad以後,器質的基盤の有無が議論されてきたが4,5,10,22),最近この分野で最も精力的な研究を行っているMester12,13)は,皮膚寄生虫妄想は単一疾患ではなく非特異的な症状群であり,身体的基盤を有する例も欠く例もあり,個々の症例により病態の徹底的で多次元的な検索が必要であると述べている。
 筆者は,約40年間テタニーのみで経過したが,初老期に至り,いわゆる皮膚寄生虫妄想を呈した特発性副甲状腺機能低下症の1女性例を観察しえたので報告するとともに,その症状の特徴と妄想の成因について若干の考察を加えたい。

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精神医学 第25巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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