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短報
皮膚寄生虫妄想を呈した特発性副甲状腺機能低下症の1例
著者: 奥野洋子1
所属機関: 1東京大学医学部精神医学教室
ページ範囲:P.1357 - P.1360
文献購入ページに移動皮膚寄生虫妄想は,疥癬恐怖症,寄生虫恐怖症,初老期皮膚寄生虫妄想(Ekbom,1938)3),慢性幻触症(Bers u. Conrad,1954)4),慢性体感幻覚症(保崎,1959)5)など種々の名称で呼ばれた初老期のとりわけ女性に多い臨床単位である。体感異常を言葉豊富に描写し,病識を欠き,単一症候的で―妄想は体系化されず,被害的態度も通常は欠如している―自然治癒のない慢性の経過が特徴とされてきた。治療的には,従来は反応しにくいと強調されてきたが,近年はphenothiazineやbutyrophenoneが効を奏す例が存在したという報告6,7,13,25)が散見される。Conrad以後,器質的基盤の有無が議論されてきたが4,5,10,22),最近この分野で最も精力的な研究を行っているMester12,13)は,皮膚寄生虫妄想は単一疾患ではなく非特異的な症状群であり,身体的基盤を有する例も欠く例もあり,個々の症例により病態の徹底的で多次元的な検索が必要であると述べている。
筆者は,約40年間テタニーのみで経過したが,初老期に至り,いわゆる皮膚寄生虫妄想を呈した特発性副甲状腺機能低下症の1女性例を観察しえたので報告するとともに,その症状の特徴と妄想の成因について若干の考察を加えたい。
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