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雑誌目次

雑誌文献

精神医学25巻2号

1983年02月発行

雑誌目次

特集 薬物と睡眠をめぐって 巻頭言

薬物と睡眠をめぐって

著者: 遠藤四郎

ページ範囲:P.108 - P.109

 薬物の睡眠に及ぼす影響についての研究は,ポリソムノグラフィによる客観的な計測ができるようになり著しい進展をみた。多くの睡眠薬は一部のbenzodiazepine系睡眠薬を除いて,睡眠の質を変えるし,長期連用後に服薬を中止するとレム睡眠の反跳増加を示し,その際に悪夢が多くなることが明らかにされた(Kalesら,1974)。
 睡眠の質を問題にする際には,睡眠研究の歴史的発展をふりかえることが必要である。1920年代にヒトの脳波が発見れ(Berger,1924),1930年代には睡眠深度と脳波の変化との間に一定の関係があり,睡眠深度の量的変化を測定することが可能になった(Loomisら,1935)。さらに特筆すべき研究は睡眠中に急速眼球運動(Rapid EyeMovements=REMs)を伴う特殊な睡眠相すなわらREM睡眠の発見である(AserinskyとKleitman,1953)。このREM睡眠に対し,REMsのない睡眠はNREM睡眠と言い,睡眠は質の異なる2つの睡眠相から構成されていることが明らかになってきた。NREM睡眠は脳波の波形と徐波の出現量により睡眠第1段階から第4段階に分類され,ヒトでは徐波の出現量の多い睡眠第3〜第4段階を徐波睡眠としている。これら2つの睡眠すなわちREM睡眠とNREM睡眠の神経機序をめぐり研究が進展したが,薬物を用いた睡眠の神経化学的機序の研究のうち特筆すべきものとしてrcserpinleをネコに投与するとserotoninもcatecholamineも減少し睡眠障害が,起こり,REM睡眠もNREM睡眠も減少するが,そのネコにscrotoninの前駆物質である5-HTPを投与するとNREM睡眠が出現しcatecholamineの前駆物質であるL-DOPAを投与するとREM睡眠が出現するようになる(MatsumotoとJouvet,1964)。このことからscrotoninがNREM睡眠に,catecholamineがREM睡眠に関係するとするJouvetのMonoamine仮説が出されてきた。このように神経ホルモンや体液性要因をとり入れたwet physiologyによる睡眠機序の解明に薬物投与による研究は重要な役割をはたしてきた。

最近の睡眠薬について

著者: 森温理

ページ範囲:P.110 - P.117

I.はじめに―Barbitur酸系睡眠薬
 睡眠薬は化学構造式からbarbitur酸系睡眠薬,非barbitur酸系睡眠薬,benzodiazepine系睡眠薬,その他に分類されている28)
 周知のように,barbitur酸系睡眠薬(1903)は作用が確実で,種類も多く,作用様式も多様であって,以前は広く臨床的に応用された。barbitur酸系睡眠薬は作用持続時間の長さによって,長時間作用型(barbital,phenobarbital),中間作用型(amobarbital,cyclobarbital),短時間作用型(pentobarbital,secobarbital),超短時間作用型(thiopental,hexobarbital)に分けられ,また効果発現の特徴から臨床的に入眠薬,熟睡薬,持続性熟眠薬などに分けられている。このような分類は実際的ではあるが,十分な客観的資料に基づいているとはいえないようである。最近,睡眠薬の血中動態に関する研究からbarbitur酸系薬物についても,血中半減期を指標としてその作用持続期間の再検討がなされているが(表1),その結果によると,これまで短時間作用型short-actingtypeと考えられていたpentobarbital,secobarbitalなどの半減期は中間ないし長時間作用型intermediate-or long acting typeとされていた薬物のそれとあまり差がないことが指摘されている(Breimer,1977)3)。このように,barbitur酸系睡眠薬に関しても今後その血中動態と睡眠作用との関係を十分比較検討する必要がある。

睡眠・覚醒機序と神経伝達物質

著者: 融道男 ,   三ッ汐洋

ページ範囲:P.119 - P.126

I.はじめに
 精神疾患には睡眠障害を伴うことが多いことは臨床でよく知られた事実であるが,なぜ躁うつ病や精神分裂病に不眠が随伴するのかまだ明解な説明はなされていない。最近内因性精神病には脳内monoamine代謝の異常が想定されているが,睡眠覚醒の機序にもmonoamineやacetylcholineが深く関連していることは広く認められてきている。このような点から,将来精神疾患と睡眠覚醒サイクルの病態が神経伝達の異常という共通項で解釈される可能性もあろう。本稿では睡眠と最も関連深い伝達物質と考えられているserotoninを中心に,各種神経伝達物質および神経ペプチドについて睡眠覚醒機序の視点から概説を試みた。

睡眠促進ペプチド研究の現況

著者: 井上昌次郎

ページ範囲:P.127 - P.133

I.歴史的背景
 睡眠物質研究の歴史は,意外に古い。20世紀の始め,フランスのLegendreとPiéron23)は,断眠犬の脳脊髄液と血清とに催眠作用のあることを報告している。彼らは,6〜15日も眠らさないでおいたイヌから,脳脊髄液を抜き取り,これを正常なイヌの脳室内に注射した。すると注射されたイヌは,腹ばいになったり,丸まったりして眠ってしまった。血清の脳室内注射も同様の効果があった。この結果を彼らは,こう説明している。断眠犬の脳脊髄液と血液には,長期間眠らなかったことにより,疲労による毒素が溜っている。これは睡眠毒素(hypnotoxin)と呼ぶべきもので,脳に作用して眠りを引き起すのだ,と。
 この実験は,約20年後になってアメリカのSchnedorf and Ivy34)によって,より厳密に追試され,ほぼ確認されている。この時期つまり1930年代は,内分泌学の発展期で,多くのホルモンが発見されている。睡眠についても,毒素という二次産物でなく,睡眠ホルモンそのものの存在を仮定して,これを探そうとした実験やその実在を示唆する実験結果が,当時いくつも報告されている。

有機ブロム化合物関連物質と睡眠

著者: 鳥居鎮夫

ページ範囲:P.135 - P.143

1.はじめに
 過去における睡眠薬の開発は専ら経験に基づいて行われてきた。bromideやchloral hydrateの中枢神経抑制作用は偶然の発見からであり,それが広く使用されるようになって,関連化合物の探索が進んだ。その後barbitalの中枢抑制の性質が偶然発見され,新しい一連の化合物が出現してきた。さらに最近になって,製薬産業がマウスで対向反射の消失を一次スクリーニングの指標として,多くの化合物を開発している。ヒトでは精神安定剤のなかから催眠効果をもつものを求めて開発されている。
 この線に沿った睡眠薬の開発は,正常睡眠についての生化学的知識と関係なしに始まった。この傾向は最近でも変っていない。睡眠薬に関する多くの出版物も,薬の検定や臨床評価についての洗練された方法に殆どのページを当てていて,その物質の理論的選択に関しては余り論じられていない。

計量ポリグラフ法による催眠剤の薬効検定

著者: 苗村育郎 ,   斎藤陽一 ,   上坂浩之

ページ範囲:P.145 - P.158

I.はじめに
 本論で取り上げるのは,人間における催眠剤の臨床作用特性をいかに精緻にかつ客観的な手法で捉えるのが良いかという方法論の問題である。
 すぐれた臨床作用を持つ催眠剤を開発し,また有効に利用するためには催眠剤の示す様々な作用をできる限り鋭敏に検出し,比較する方法が必要なのは当然である。しかしここ数年来,催眠剤の開発が急速に進み多数の薬剤が使用されるに至った事実に比較して,作用検定の方法論と技術の開発は遅れてきたと言わざるを得ない。

薬物による徐波睡眠の変動とその意義

著者: 中沢洋一 ,   小鳥居湛 ,   大川敏彦 ,   野中健作 ,   今任信彦 ,   横山敏登

ページ範囲:P.159 - P.167

I.徐波睡眠(SWS)の同化機能と薬物
 REM睡眠と異なってSWSの一夜の出現率には個人差が大きいので,その臨床的,生理的意義について研究者の関心は高い1,2)。SWSは睡眠の同化相であると考える人は多いが3,4),その根拠の一つは,入眠後の最初のSWSに一致して成長ホルモン分泌亢進がヒトや動物でおこるという高橋らの発見である5,6)(図1)。その他にもこの説を支持する多くの報告がある。すなわち,昼間の異化作用が亢進しているhyperthyroidismでは睡眠中にSWSと成長ホルモンの分泌の増加がみとめられる7);hypothyroidismでは逆にSWSは減少し,甲状線機能が回復するとSWSは正常範囲に戻る8,9);身体運動を負荷するとSWSや成長ホルモン分泌が増加する10〜14);断食を続けるとSWSが増加し15),異化ホルモンであるコーチゾルはSWSの間に分泌を停止する16);睡眠中のO2の消費量はSWSの間で最低となる17);%st.4と基礎代謝率の間には有意の負の相関がみとめられる18)
 これらの報告に対しては若干の異論がないわけではない。たとえば昼間の運動負荷によってもSWSは増加しないという報告がある19〜22)。Johnsらは初め,健康正常人のfree thyroxine indexで評価した甲状腺機能とSWSの出現量の間に有意の正の相関をみとめたが23,24),症例をふやしたその後の研究では相関をみとめていない25)

紡錘波の睡眠指標としての有用性

著者: 阿住一雄 ,   白川修一郎

ページ範囲:P.169 - P.176

I.はじめに
 紡錘波は睡眠中に多数出現するが,臨床脳波学の立場からはlazy activityが脳腫瘍やその他の脳機能異常を,extreme spindleやprolongationが皮質の一部や脳基底核など脳器質性異常の推定に役立っている。重症心身障害児にみられるような半球病変や視床非特殊核の病変の高度な場合には紡錘波が欠落する20)。また,長期間失外套症状群を呈した例でも紡錘波が消失する14)。このように紡錘波は中枢神経系機能の異常の検索に必要な脳波波形の一つである。しかし,一晩の睡眠中にどのような出現動態を示し,さらに毎晩の自然睡眠においてその動態に再現性があるのかどうかなど,いわば紡錘波の正常規準値に関連する研究は十分行われていない。この論文ではこの正常睡眠における紡錘波の出現動態について説明し,その応用として睡眠薬の効果判定における紡錘波の睡眠指標としての有用性にふれたいと思う。

モデル不眠症と薬物

著者: 大熊輝雄

ページ範囲:P.177 - P.188

I.はじめに
 睡眠薬がヒトの夜間睡眠に及ぼす影響を調べる方法には,睡眠薬使用者の主観的体験を調べる方法から,ポリグラフィによって睡眠の特性を客観的に観察する方法まで種々の方法があり,睡眠薬の検定には主観的体験,客観的観察資料の両方が必要である。
 また,一般に神経作用薬物の作用は,健常者と病者とでは異なる場合が少なくないので,睡眠薬についても,健常者に投与したときの所見だけでなく,睡眠障害をもつ患者に投与したときの影響を観察する必要がある。とくに睡眠薬の場合には,健常な成人の多くは睡眠が良好で入眠潜時が短く,睡眠時間も長いので,睡眠薬の臨床的使用の主目的である入眠促進,睡眠時問延長などの効果を観察することはほとんど不可能である。しかし不眠患者について頻回の終夜睡眠ポリグラフィを行なうことは,実際には必ずしも容易ではない。また不眠症患者をポリグラフィの被験者にする場合には,患者の不眠の程度や特性が必ずしも均一ではないという問題もある。

薬物依存と睡眠

著者: 菱川泰夫 ,   手島愛雄

ページ範囲:P.189 - P.196

I.はじめに
 薬物には,不眠やさまざまな精神的あるいは身体的な苦痛を和らげて,その結果として快感をもたらす作用を有するものや,直接的に快感をひき起こす作用を有するものがある。しかし,それらの薬物効果は,通常は一過性にすぎないために,薬物の効果が消失すると,不眠や苦痛が再び出現したり,快感が消失してしまう。そこで不眠や苦痛から逃れることを繰り返して求めたり,快感を求める目的で薬物を繰り返し使用し,その結果として,習慣的に,あるいは長期間にわたって,薬物を連日にわたって反復摂取する状態が薬物依存である。
 薬物依存を起こす原因物質にはさまざまなものがあり,それらは,モルヒネ型,アルコール・バルビツレート型,アンフェタミン型,コカイン型,大麻型,LSD型,有機溶剤型に大別されている。以下においては,それらの依存性薬物のうちから,アルコール・バルビツレート型に属していて,不眠を改善する目的で一般によく用いられている睡眠薬とアルコールに対する依存が生じる要因について,特に睡眠に関係する点に重点をおいて述べることにする。また,ナルコレプシーやうつ病の治療に用いられている三環系抗うつ剤が睡眠に及ぼす問題点についても言及する。

覚醒と睡眠からみた意識変容状態—中枢性抗コリン剤の,biperiden投与について

著者: 小島卓也 ,   渥美義賢 ,   一瀬邦弘 ,   内山真 ,   島薗安雄

ページ範囲:P.197 - P.206

I.はじめに
 日常臨床の中で,種々の薬物を使用しているうちに,今まで見られなかった精神症状が出現し,その症状の把握に戸惑うことがあるが,このような場合には意識変容状態であることが多い。
 意識変容状態を惹起させる薬剤としては,trihexyphenidyl,promethazine,biperidenなどの抗パーキンソン剤,clomipramineなどの三環系抗うつ剤,thioridazine,levomepromazineなどの抗精神病剤,L-DOPA,amantadine,bromide,抗酒剤のdisulfirumなどがあり,長期連用によって依存が生じ,禁断時にせん妄などのみられる薬物としてはbarbiturate,meprobamate,chloralhydrate,glutcthimideなどの多くの薬剤がある38)

サーカディアン・リズムと薬物

著者: 遠藤四郎

ページ範囲:P.207 - P.216

I.はじめに
 生体リズムとしての心身機能には,その機能が最大限に発揮され,最大値を示す時刻がある。たとえば,体温は早朝に最低値を示し,午後から夕刻にかけて最大値を示す。このように100以上の生体機能は,その最大値を示す時刻がそれぞれ異なっており,そのあいだにある関連をもっている。
 生体機能はリズム性を有するだけではなく,外界からの種々の刺激に対しても時刻によって異なった生体反応を示す。例えばラットに比較的大量のamphetamineを注射すると,暗期の終り(0700)では致死率は6%であるが,暗期の中間期(0300)に注射すると致死率は77.6%と飛躍的に上昇する。このことはある時刻に投薬した場合には安全であるものが,他の時刻には必ずしも安全でないことを意味している。このような薬物に対する反応と効果に生体リズムの考えを導入して,薬物効果を最大にし好ましくない副作用を最少にする時間薬理学(chronopharmacology)がまず発展し,その他の医学の領域,例えば外科手術,放射線治療等に応用され時間治療学(chronotherapy)に拡大されてきている。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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