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雑誌詳細

文献概要

特集 聴覚失認

純粋語聾研究の発展

著者: 池村義明1

所属機関: 1近畿大学医学部精神神経科

ページ範囲:P.351 - P.361

I.定義
 純粋語聾研究の歴史は1877年Kussmaulがはじめてこの病態を記述し,他の失語から区別するためにWorttaubheitなる用語を使用した時に始まる。彼はその記述の中で,"患者は口頭表出言語も,書字言語も失ってはおらず,しかも耳は十分聞こえ,談話や書字によって自らの思想を表現出来る。それにもかかわらず患者は聴取した言葉をもはや理解出来ない。この病的障害を簡単にWorttaubheitと呼びたい"と述べている。ここで一般にいわれているreine Worttaubheitのreinという形容詞は内言語の障害が無いという意味で用いられている。のちにLichtheimは1885年彼の有名な言語障害図式から演繹して純粋語聾の病像をさらに明確に限定した。つまり,"純粋語聾において失われるのは,1)言語の了解,2)復唱能力,3)書取りによる書字能力であり,これに対して障害されないのは,1)自発言語,2)自発書字,3)書字言語の了解,4)音読,5)写字であり,この場合錯語や錯書はみられない。内言語装置には異常が無く,聴力は十分であるのに語音の了解がおかされている。さらにこの病像には,患者が音に対して著しく無関心であることと語聾はあとまで長く残存するのが特徴的である"と述べている。純粋語聾の発見者の栄誉をになったKussmaulにしろLichtheimにしろ,語聾の定義においては本質的に異なるところはないが,ただ問題なのはその名称である(表1参照)。Lichtheimはisolierte Sprachtaubheitという呼び名を提案したが,以来最近まで用語の混乱がみられ,いろいろな学者がほぼ同じ病態をいろいろな名称で呼んできた。ドイツのWernicke(1885/86)はsubkortikale sensorische Aphasieと名付けた。フランス語圏では最初DéjerineとSéricux(1897)がsurdité verbale pureと呼び,英語圏ではBarret(1910)がpure word deafnessと呼んだのが彼らの純粋語聾研究の始まりと思われる。イタリア語圏ではMingazziniとBianchi(1910)がAfasia sensoria sottocorticaleという言葉を用いた。上に述べた表現は全て失語症研究あるいはLichtheim-Wernickeの古典的失語症理論に由来し,そこから派生してきたものである。しかし一体に純粋語聾は失語症とくにウェルニッケタイプの失語の初期や回復期に現われたりすることがあり,全く独立した形のものは多くなく,又たいていはその他の失語性症状を伴っていることがあるので,失語との関係の問題は重要である。将来の課題であろう。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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