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雑誌目次

雑誌文献

精神医学25巻5号

1983年05月発行

雑誌目次

巻頭言

児童青少年の精神科医療について

著者: 稲垣卓

ページ範囲:P.450 - P.451

 少し前のことになるが,昭和55年8月,河口湖近くの会場で,ブリティッシュ・コロンビア大学林宗義教授の「精神病院と地域精神医療」というお話を聞いた。その時の「日本では子供はどうしているのか,青少年はどうしているだろうか」,「子供や青少年の問題が日本の精神医学からまま子扱いされていると言えるのではないか」という教授の言葉が耳に残り,翌年全国の大学精神科教室と,児童・思春期の人たちの精神医療を行っていると思われる医療機関にアンケートを送って調査を行った。アンケート発送108(うち大学79,病院29)に対して,回収61(大学43,病院18)で,この調査後に得た情報に基づいて多少の修正をした結果は次のようであった。
 児童ないし思春期の精神科外来をもっているところは46施設(大学27,総合病院8,精神病院11),うち児童または思春期病棟をもっているところは15(総合病院4,精神病院11),病棟はないが児童または思春期病室をもっているところは5(大学3,総合病院2)であった。ほかに児童のデイケアを行っている施設が2ヵ所あった。

展望

抗精神病薬(neuroleptics)による錐体外路症状—その治療学的意義の変遷について—その1.症状の多面性と多義性

著者: 八木剛平 ,   伊藤斉

ページ範囲:P.452 - P.466

I.緒言
 精神分裂病(以下分裂病と略す)の治療に広く用いられているneuroleptics脚註1)による錐体外路症状が一斉に文献に現われるのは,クロルプロマジンの精神科導入のほぼ2年後である。すなわちパーキンソニズムあるいはこれに類似した病像が,Labhardt98),Ernst45),Weber161),Lehmann104)(1954)によってクロルプロマジンまたはレセルピンの治験報告の中に記載され,Thiébauxら148)やBoucardら14)(1954)によって独立して報告されている。1930年代にインドで精神科治療に利用されていたRauwolfiaによるパーキンソニズムの報告が,Haase70)とWeber161)(1954)によって想起されたのもこの時である。しかし最も注目すべきことは,その治療上の積極的な意義がSteck114)とHaase70)(1954)によって強調されたことであり,この重要性に鑑み後にDelayら35)(1957)は,クロルプロマジンの導入時に観察した特異な精神症状(4560 RP症状群)を,錐体外路性の「緊張亢進を伴わぬ運動減退症状群」に関連づけた。neurolepticsによる錐体外路症状の歴史は,この薬物の導入とともに始まったとみなされるのである。
 またアカシジアはSteck144)(1954)によって,急性ジストニア反応の病像はLabhardt98)(1954)によってヒステリー様症状として,眼球上転発作およびその他の部位のジストニア発作が,Letailleur108)(1955),Conradら25)やKulenkampfら96)(1956)によって報告され,これらはDelayら35)(1957)によって運動興奮発作として総括された。更にSigwaldら(1959)によって独立した症状群として記載された,持続性ないし非可逆性の異常運動は,遅発性ジスキネジアの名称で60年後半から特に注目され,発生機序や予防についての研究が現在も続けられている。これらは神経学的副作用としての錐体外路症状の代表的な臨床単位であるが,既存のneurolepticsを用いる限り,その完全な防止は困難と考えられ,錐体外路症状を惹起しない分裂病治療薬の登場が渇望されて久しい。しかも50年代後半から知られていた,neurolepticsによる分裂病の逆説的な悪化現象や行動障害の発生が,近年錐体外路症状との関連に於いて再び注目されている。当初には治療学上の積極的意味をもっていた錐体外路症状は,今日では反治療的側面を呈示しているといえよう。

研究と報告

視覚誘発電位による感情精神病の研究(その2)—双極症例における躁・うつ両病相の比較

著者: 遠藤俊吉 ,   佐伯彰 ,   倉岡幸令 ,   落裕美 ,   田島祐三 ,   広瀬貞雄

ページ範囲:P.467 - P.475

 (1)14例の双極性感情精神病者において改変した門林らの方法を用い,精剛乍業負荷後の視覚誘発電位(VEP)P玉100波の振幅動態を調べ,その躁・うつ両病相の振幅動態を比較検討した。
 (2)全14例中観察期間内に躁.うつ両病相を迹続的に示したものは8例で,このうち5例では,先行するうつ病相とこれに連続する躁病相の双方で対比的にVEPを記録できたが,3例では両病相のどちらか一方でしか記録しえなかった。また観察期間中に躁病相のみ呈したもの3例,うつ病相のみ呈したもの3例で,各々それぞれの病相でVEPを記録した。
 (3)躁病相では,観察期間中躁病相のみ呈したものも,うつ病相から連続的に躁転したものも,その精神作業負荷後の平均振幅比は高値で平均130.1±16.2%であり,精神作業負荷後のP100波振幅の増大が示された。うつ病相では,躁病相に先行したものではその平均振幅比が平均79.3±13.7%と低く,これに連続した躁病相の平均129.5±19.2%に比し有意な対照的差異を示した。うつ病相のみ孤立的に呈した症例は3例のみであるが,その平均振幅比の平均値は126.3±14-0%と高値であった。

コンピューターシステムを利用した外来精神病者のフォローアップの試み—社会的適応状態と通院・服薬状況を中心として

著者: 内田又功 ,   津田彰 ,   古賀五之 ,   西川正

ページ範囲:P.477 - P.484

 抄録 清和会西川病院の外来精神病者(精神分裂病・躁うつ病)404名の社会的適応状態と通院・服薬状況の経過を,コンピューターシステムを利用することによって継時的に1年間追跡し,次のような知見を得た,1)分裂病者の社会的適応状態は躁うつ病者よりも有意に低く,破瓜型で最も低かった。2)分裂病者と躁うつ病者の通院・服薬状況はともに不規則で,躁うつ病者のほうによりその傾向を認めた。3)社会的適応状態得点と通院・服薬状況得点との間に,有意な正の相関があった。
 本結果は外来精神病者の社会的適応状態が疾患あるいは病型によって異なり,しかも通院・服薬状況と関係していることを示唆した。精神科外来患老の追跡のためのコンピューター利用の研究法と,今回の試みの精神病の再発予防に対する意義について論じた。

本邦におけるHachinskiの脳虚血スコアの適用とその問題点

著者: 河合真 ,   永富公太郎 ,   宮本公夫 ,   宮本佳子 ,   田辺正男 ,   谷内律子

ページ範囲:P.485 - P.490

 抄録 Hachinskiの脳虚血スコアの各項目を,その相互の関連において検討して基準の明確化を図り,本邦における臨床適用を容易にした。次いでそれに基づいて分類された痴呆型の臨床症状を頭部CT所見との比較も含めて検討し,各痴呆型の性格の特徴づけを試みるとともに,スコアの有効性を吟味した。
 (1)頭部CT所見上,脳血管障害性痴呆型において,混合痴呆型,老年痴呆型に比べ有意に高率の,明らかな異常低吸収領域を認めたが,その意味づけには慎重を要する。
 (2)混合痴呆型に特徴的な臨床症状を認め,この痴呆型を詳細に検討することによって,各痴呆型の位置づけを明確にしていくことができると考えた。
 (3)スコアの項目にある臨床症状は,いずれも老人痴呆一般にみられる非特異的症状であるが,各痴呆型間で出現頻度に有意差のとれないものもあり,痴呆の臨床鑑別のためには,さらに検討が必要と思われた。

下部脳幹梗塞でみられた精神症状について

著者: 伊藤陽 ,   山村定光 ,   中村仁志夫 ,   外山孚 ,   内藤明彦 ,   澤政一

ページ範囲:P.491 - P.499

 抄録 リウマチ性心臓弁膜症を有する41歳の女性において,錯乱,脱抑制,演劇的傾向→自発性減退→多幸症と変遷する多彩な精神症状と,末期には外眼筋麻痺,交代性片麻痺などの神経症状が認められ,剖検では中脳,橋部,小脳などに多発性の脳梗塞が見出だされた。この症例の精神症状の成因としては,心因性,内因性および症状性の諸要因がある程度は関与している可能性も考えられたが,主なる原因は下部脳幹の梗塞病変であると考えられた。この考えは従来の下部脳幹器質性病変の報告において,かなりの割合でこの症例と同様の情動・意欲に関連した精神症状がみられることから支持され,下部脳幹機能の障害と密接に関係した精神症状である可能性が考察された。

脳障害児の入院時初期反応について

著者: 弟子丸元紀 ,   室伏君士 ,   小笠原嘉祐

ページ範囲:P.501 - P.510

 抄録 脳障害児の入院時初期反応症状と病棟環境へ適応する過程について検討し,以下の3群に分類した。1)消極的反応群は重度精神薄弱児と長期施設在住児である。反応症状は新しい環境への適応反応で,反応の乏しい受動的な状態を示す。2)情動不安・爆発反応群は脳性小児麻痺児と軽度の精神薄弱児である。反応症状は母親との別離不安を示し,情動爆発や拒否・攻撃的行為を示しつつ職員と依存関係を築きながら適応している。3)逃避・防禦反応群は孤立・常同行為を示す脳性小児麻痺児・精神薄弱児と自閉症児である。反応症状は新しい環境での独特な適応反応で,逃避・拒否症状を示す。マイペースの行動を示しつつ環境内に適応している。他に体重減少・発熱・便秘・下痢・頻尿・発作の増悪などが認められた。脳障害児の入院時反応は児童の精神発達年齢と平常の状態像すなわち,反応性ともいうべきその元にある人格像や情動・欲動の現われ方と関係がある。

抗精神病薬投与によりADH過剰症候群(SIADH)を起こした緊張型分裂病の1症例—その発生機序を中心として

著者: 吉田秀夫 ,   池崎明 ,   高橋良

ページ範囲:P.511 - P.518

 抄録 頻回な飲水行動の認められた女性緊張型分裂病者に,突然けいれん,昏睡を主徴とする水中毒症状を認めた。血清電解質はNa109.3mEq/l,K3.9mEq/l,C178.2mEq/lで脱水症状を認めず,希釈性低Na血症の存在を確認し,その病因として,種々内分泌学的検討を加えた結果,SIADHが存在することを確定した。また,SIADHの原因についても検討し,その結果,強迫的な飲水行動が引き金となり,治療薬として使用したchlorpromazineがSIADHをひき起こしたことを推定し,併せて文献的考察を行ない,Dopamineの関与が,水・Na代謝調節に及ぼす影響について言及した。

精神病院入院患者における多飲,低ナトリウム血症及び水中毒について

著者: 納谷敦夫

ページ範囲:P.519 - P.525

 抄録 精神病院入院患者707名を対象に,多飲・低ナトリウム血症・水中毒の発生率を調査した。76名(10.8%)に多飲がみられ,うち男子59名,女子17名と男子に高い発生率を認めた。精神科病名はほとんどが分裂病で,一部に精神発育遅滞を含む。
 多飲者のうち25名が低ナトリウム血症を呈し,一方,多飲を認めない患者631名中16名に低ナトリウム血症を認めた。
 707名中23名(3.3%)に見当識不良・けいれん発作・昏睡などの水中毒と考えられる既往を認め,多飲患者76名中には20名に認めた。
 7例の明らかな低ナトリウム血症について精査したところ,3例が心因性多飲,1例がSIADH,2例が一過性のSIADHの疑い,1例が偽性低ナトリウム血症と考えられた。
 精神科領域における多飲・低ナトリウム血症及び水中毒の重要性について考察した。

精神分裂病と診断された潜在性甲状腺機能低下症—症例報告

著者: 有田忠司 ,   渡辺登美子 ,   本田建一 ,   筒井一哉

ページ範囲:P.527 - P.534

 抄録 時にうつ病様,時に精神分裂病様,時にアメンチア様の複雑多彩な病像を呈し,抗うつ剤や抗精神病薬では改善されず,甲状腺ホルモン剤の投与で精神症状が改善した潜在性甲状腺機能低下症の1例を報告した。
 症例は27歳の女性で,精神分裂病を疑われたが,甲状腺疾患集積家系であること,甲状腺腫が認められたことから内分泌学的精査が行なわれ,慢性甲状腺炎による潜在性甲状腺機能低下症と診断された。基礎疾患の治療で精神症状も改善された。このことはフィードバック機構により血中甲状腺ホルモン濃度が正常範囲内に維持されていたので,視床下部—下垂体系機能の過活動状態が甲状腺ホルモン剤の投与で修復されたことによって精神症状も改善されたと考えられた。
 われわれの調べたかぎりでは,明確に潜在性甲状腺機能低下症と診断されて精神症状を伴ったものは,本症例が本邦では初めてであり,欧米でも珍しいものと思われた。

精神症状を呈したWegener肉芽腫症の1小児例

著者: 牧原寛之 ,   恵谷すま子

ページ範囲:P.535 - P.540

 抄録 膠原病の精神症状として全身性エリテマトーデスの場合が知られているが,皮膚筋炎,結節性動脈周囲炎,強皮症でも報告がみられる。今回われわれはその経過中に,急性精神病状態を呈し精神活動遅滞状態を経て回復したWegener肉芽腫症の1男児例を経験した。急性症状には幻覚,思考障害などが含まれるが同時に注意集中困難,計算力及び記銘力の障害,部分的な健忘を伴った。精神活動遅滞状態は,性格変化または痴呆化を疑わせるほどであった。
 鑑別疾患として,Wegener肉芽腫症にたまたま随伴した精神病,脳を含む身体への侵襲による二次的症状,及びステロイド惹起性精神病を検討し,本例をWegener肉芽腫症の症状精神病と判断した。そして全身性エリテマトーデスにおける精神症状と比較しながら膠原病一般の精神症状を考察し,代謝性中毒性因子が占める病因的役割について論じた。

短報

炭酸リチウムによる中毒性紅皮症の1例

著者: 本間博彰

ページ範囲:P.544 - P.545

I.はじめに
 近年炭酸リチウムの有効性が注目され,それに伴い,さまざまな副作用が指摘され,特に過量投与に基づく中枢神経系への中毒やリチウムによる腎障害が取り上げられ,炭酸リチウム投与に際して注意を要するものとなっている。ところで薬疹についても薬物治療にとってはつきものであるが,このたび炭酸リチウム服薬中に薬疹が出現し,服薬中止にもかかわらず悪化し中毒性紅皮症にまで進展し,極めて重篤な状態に至った症例を経験したのでここに報告する。

TRH analogがねぼけとねごとに効果を示した1例—睡眠ポリグラフィー的検討

著者: 坂本哲郎 ,   中沢洋一 ,   松崎恵子 ,   今任信彦 ,   小鳥居湛 ,   稲永和豊 ,   北原尊義

ページ範囲:P.546 - P.549

I.はじめに
 ねごと,ねぼけ,夢中遊行,夜尿などのパラソムニアは,睡眠中に現われる異常な行動ではあるが病的な現象ではなく,心身,ことに脳の発育過程に生じる生理的で,一時的な遅滞によって生じるものと推定されている1〜3)
 一方,睡眠の研究が進むにつれて,ねごとはNREM睡眠の段階2から,ねぼけや夢中遊行は段階3,4の徐波睡眠(SWS)から,それぞれ急に覚醒する過程で起こることが明らかにされたた1〜6)

動き

精神病理懇話会・宝塚'82印象記

著者: 藤繩昭

ページ範囲:P.550 - P.550

 この集会は昨昭和57年9月2日から4日にかけて,宝塚市立ベガホールで開催された。一昨年に引続き運営はすべて辻悟,藤本淳三氏をはじめとする在阪の13名の世話人の方々がお骨折り下さった。有難いことである。
 準備の段階では40題余の演題が応募され,そのなかから23題が選ばれたということであった。発表と討論に十分の時間をとりたい(1演題あたり30分)という世話人会の御意図であったという。応募演題の内容,取拾選択の基準など,私は知らないのだが,東海中部から12題,関東から8題というのは多少偏っているようにみえた。地元の関西から1題というのはいかにも淋しかった。演題の質に,懇親会での挨拶で宮本忠雄氏が,選択されなかった人達の不満を代弁して,多少苦情を述べられたが,それも仕方あるまい。

古典紹介

—J. Capgras—解釈妄想病—第1回

著者: 影山任佐

ページ範囲:P.551 - P.559

 皆さん,これから私が皆さんにお話しようとしている病人というよりも,むしろ異常者(anormaux)はその大多数が通俗的意味での精神病者にはけっして似ていない分別のある者たち(individus Iucides)である。彼らの行動を観察し,彼らと話をし,彼らの通信・文書を読んでみても,まず最初にはいかなる病的障害も発見されず,しかも長い間入院している患者にさえも,生き生きとした鋭い知性,機智や思慮深い反省を見つけ,驚かされることがしばしばある。ある者はもっともらしい請願を出して満足している。またある者はものごとの大部分を特別な角度から考えるという偏見に導びかれた極端な理屈家,誤った分別の持ち主といった印象を与えている。これらの者たちと本質的特徴は何ら異なるところはないが一部の者は逡巡することなく非常に大胆な主張をする。則ち彼らは奇妙な迫害を訴えるか,あるいは彼らは自分たちを偉大な人物と考えたりする。時間をかけた会話によって,彼らは取るに足らない偶発的なできごとを彼らの支配的傾性と関係している一面的で自分勝手な意味でたえず説明しようとしていることが明らかとなる。彼らは周囲の人々に関心を持ち,新聞を注意深く読み,ごくささいなことにも注目し,そしてここから彼らの考えに有利な数多くの論拠を取り出すすべを心得ている。常に幾分でも本当らしい,時には検討するに足るこの考えは度はずれた想像や感覚性錯覚の産物では決してなく,明敏な観察と研ぎすまされた洞察の結果として現われるものである。
 理性と不条理との奇妙な混合が認められるこれらの者たちは解釈妄想病と呼ばれる慢性精神病に罹患している。この精神病を描写する前に,私は皆さんに妄想解釈症状について若干述べておきたい。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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